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薬と薬草のお話vol.17 センブリと当薬(とうやく)

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.17 センブリと当薬(とうやく)

薬用基原植物 Swertia japonica Makino (Gentianaceae)

 毎年散歩道の斜面で一斉に咲きそろう真っ赤なヒガンバナが、線香花火のようにどこかに消えてしまうと、いよいよ秋も深まります。昔見かけた場所で目にすることができるかどうか心配になりだす薬草に「ゲンノショウコ」や「センブリ」があります。

 「和薬(わやく)」とされるゲンノショウコ、センブリ、これらは漢方と異なり日本の昔の人々の言い伝えで用いられてきた薬草です。

 なかでもセンブリは日本各地の山野や雑木林に自生していたとされる二年草で、1年目の秋に出た芽が冬を越し2年目、細かく分かれた枝先に帯紫白色の五裂花をつけます。
 
 薬用としてはセンブリの全草を別名「当薬」と称します。開花期に全草を採取して用いますので、次の年の採取量が減少します。そのため栽培も試みられています。

 身近な使い方としては、苦味健胃薬として消化不良などに、湯飲みにお湯を注ぎ、1~2本のセンブリをつけて、お湯をかきまわして出た苦い汁を飲用します。
 
 その苦さは1000回振り出しても苦いので「千振(せんぶり)」だそうです。

 けれどもこの苦味が唾液や胃液の分泌を促進し消化管の蠕動(ぜんどう)を亢進(こうしん)させます。又、今でもセンブリ末と重曹(じゅうそう)(炭酸水素ナトリウム)を主にする薬が、食欲不振、胃部不快感、胃もたれなどに効果があるとされています。
  
 この夏引き継いだ薬棚から和薬の資料が出てきました。
 
 ゲノムや分子レベルのエビデンスが次々と明らかになる日々の中で、いかにも古い和薬ですが、押し花のように枯れたセンブリを手にすると、秋風と「苦いぞ」と楽しく話した人の姿が思い浮かびます。


2017年10月22日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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