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薬と薬草のお話vol.12 オオバコと車前草(しゃぜんそう)・車前子(しゃぜんし)

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.12 オオバコと車前草(しゃぜんそう)・車前子(しゃぜんし)

 梅雨前の休日、両親を連れて山道をドライブ中、ふと停車して降り立った路傍にタイヤに踏みつけられた泥まみれの草の群れがありました。なるほど、これが雑草の代表格「オオバコ」、車や人がよく通る轍(わだち)に沿って自生するので別名「車前草」と名づけられるはずだと。

 オオバコは日本全国各地の路傍でも野原でもどこでもごく普通に見かける、多年草です。薬用にはオオバコPlantago asiatica Linné(Plantaginaceae)の全草を車前草、種子を車前子として、それぞれ利尿、鎮咳(ちんがい)などに使用します。
 特に漢方では種子(直径2ミリ位)のみ使用され、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)、竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)、五淋散(ごりんさん)、清心蓮子飲(せいしんれんしいん)などに使われます。

 中でも牛車腎気丸は、八味地黄丸(はちみじおうがん)に牛膝(ごしつ)〔ヒナタイノコヅチの根〕と車前子を加えたもので、ご高齢の方の頻尿や下肢痛、糖尿病の合併症の神経障害によるしびれなどに良いとされています。

 この時期、草木は鮮やかな新緑を放ち色とりどりの花を咲かせて、見るものを癒やしてくれます。けれどそれは、次の世代へと命をつなぐ生存競争でもあり、時に理不尽な私たち人間社会の競い合いを思いおこさせます。

 オオバコは他の草木と異なり、朝露で湿った「轍」をあえて選び、人や動物に踏まれることによって、靴底にひっついた種子を運ばせ分布を広げる作戦のようです。

 場合によっては潰されるだけの道を選んだオオバコのしたたかさには、切実な命の訴えを教えられます。


2017年5月31日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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