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薬と薬草のお話vol.4 オケラと白朮(びゃくじゅつ)

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.4 オケラと白朮(びゃくじゅつ)

 秋風が待ち遠しいこの時期、懐かしくなるのは、山辺で出会った薄紫の花、風の音を奏でるようにゆらゆらしているツリガネニンジン(トトキ)。それからオケラ。亡き父が繰り返した〝(*1)山でうまいはオケラにトトキ〟の話。

  オケラはキク科で、北海道を除く日本各地に野生する多年草です。秋になると茎の先に小さな頭状花、アザミに似た白い花を咲かせます。薬草には、秋の終わりにこの根茎を掘り取って、周皮(外側の皮)を取って乾かしたものを「白朮(びゃくじゅつ)」として使います。古くから日本では、オケラは薬にするだけでなく、衣類のカビよけや無病息災を願う神事で焚(た)くなど、普段の生活に溶け込んでいた薬草の一つです。

  漢方の薬味としても要薬です。例えば名前に「補」という漢字がつく補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)の中にも配剤されています。身体に負担の大きい手術の後や抗がん剤使用時におこる体力低下や食欲不振などに処方されることもあります。「補」の字義どおり、「補う力」や「(*2)水毒を取り去る力」を期待して白朮が配剤されています。

  以前はごく当たり前に里山で見られた日本在来の草木、オケラとトトキ。今では絶滅に近い状態で、野生の姿は限られた場所でしか見られないかもしれません。もう一度、周りの自然を見つめ直し、草木を慈しむ心と時間を持ちたいものです。

*1 山でうまい~トトキ=長野県の里謡の一節
*2 水毒=水分代謝がうまくいかない状態のこと


2016年9月11日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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