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健考カルテVol.2「胃がん、食道がん 広がる治療の選択肢」

広告 企画・制作 読売新聞社ビジネス局

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慶應義塾常任理事 慶應義塾大学医学部 外科学教授
北川 雄光(きたがわ・ゆうこう)先生
1986年慶應義塾大学医学部卒業。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学ポストドクトラルフェローなどを経て、97年慶應義塾大学医学部助手。2005年同専任講師、2007年同教授(外科学)。2009年慶應義塾大学病院腫瘍センター長、2011年副病院長、2017年病院長。2021年慶應義塾常任理事。専門は消化器外科学。医学博士。

 上部消化器がんの中で、日本人は古くから胃がんにかかる人が多い傾向がありましたが、近年、胃がんは減ってきており状況が変わってきています。さらに欧米を中心に食道と胃の境目にできるがんも増えており、我が国でも専門医の間で注目を集めています。上部消化器がん治療の権威である慶應義塾大学医学部外科学教授の北川雄光先生は「胃がん、食道がんの治療法は進歩しており、選択肢が増えています。正しい情報を得て、自分に合った最適な治療法を選んでいきましょう」とアドバイスします。

食道と胃の間にできるがんの占める割合が増加傾向に

胃がんや食道がんにかかる人は増えていますか?

 日本国内で年間12万人が新たに胃がんと診断され、年間4万人以上が胃がんで亡くなっています。死亡数は男性では肺がん、大腸がんに次いで3番目に多く、女性では5番目となります。新たに胃がんと診断される患者さんの数は世界的に減少傾向にあり、日本においても横ばいからやや減少傾向です。もともと日本人には胃がんが多かったのですが、ピロリ菌の感染率の低下などの影響が減少傾向の要因として指摘されています。
 食道がんは年間2.6万人が診断され、年間1万人以上が食道がんで亡くなっています。胃がんと比較して、疾患自体の頻度は少ないものの、診断されて亡くなる割合は若干高くなっています。診断される患者さんの数は、男性は近年横ばいから減少傾向、女性では横ばいからゆるやかな増加傾向にあります。
 また、近年、食道と胃の境目にできる食道胃接合部がんが欧米で増えており、我が国においても注目されています。
※出典
罹患:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
死亡:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)

初期には自覚症状がほとんどない

代表的な症状は?

 がんは初期の段階では自覚症状がほとんどなく、かなり進行しても症状がない場合もあります。 
症状が出るとすれば、胃がんは上腹部の痛みや不快感、違和感、胸やけ、吐き気、嘔吐、食欲不振などがありますが、がんのできる場所によって症状が異なる場合もあります。また、がんからの出血で、貧血や黒い便、血便が出る場合もあります。 
一方、食道がんでは、食べ物がつかえる感じ、胸がしみる、チクチクする、のどの違和感などがあり、がんが進行するにつれて体重減少、胸や背中の痛み、咳、声のかすれなど、一見、食道とは関係ないと思われるような症状が出ることもあります。

早期であるほど選択肢が多い

治療方法にはどんな選択肢がありますか?

 胃がんも食道がんも、早期に見つかれば内視鏡治療の対象となり、体に傷がつかず、日常生活に大きな変化もなく完治できる可能性が高くなります。内視鏡治療の適用範囲を超えてしまうと食道がんでは手術や抗がん剤と放射線照射を同時に行う治療が選択肢になり、胃がんでは手術がおもな治療選択肢となります。その場合の手術方法も胸腔鏡・腹腔鏡下手術やロボット支援手術など、患者さんの術後の回復が早い手術が開発されてきています。
 抗がん剤も胃がんでは分子標的治療、胃がん、食道がんでは免疫チェックポイント阻害薬が登場し、進行がんになっても以前に比べて良好な治療成績が得られるようになってきてきました。従来は手術ができなかった進行がんも、先に抗がん剤などでがんを縮小させてから手術をすることで、根治の可能性がでてきました。
 胃がんの手術では、手術中により正確にリンパ節転移の有無を評価して、転移がない場合は切除範囲を縮小する方法(センチネルリンパ節ナビゲーション)も研究が進められています。画一的な手術だけではなく、その人に合った個別化治療が進んできています。

がん検診を定期的に

早期発見のポイントは?

 自治体が行うがん検診をしっかり受けることが大切です。有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン2014年版では、50歳以上を対象に、問診と上部消化管X線検査(バリウム検査)あるいは内視鏡検査が推奨されています。
 内視鏡検査はごく初期の病変を発見することができますが、それぞれにメリットとデメリットがありますので、かかりつけ医と相談して自分にあった方法を選びましょう。
 食道がんに関しては、胃の検査と同時に行うことが可能です。胃がんだけでなく、食道のチェックも併せて行うことが重要です。
 初期のうちは自覚症状がほとんどないため、定期的な検査による早期発見が極めて重要です。
 検査の所見から、その人にとって必要な検査の頻度が変わります。まずは一度、がん検診を受けてみて、リスクに応じて必要な検査を継続するようにしましょう。

 がんは早期発見と治療法の進歩によって、救命だけでなく治ったあとの生活の質、人生の楽しみを損なわずに済む時代になっています。早期発見であるほど、治療の選択肢がたくさんあり、体に負担の少ない治療も選択できます。主治医をはじめ医療関係者と話し合いながらあきらめずに可能性を探ってほしいと思います。

 さまざまな選択肢の中から、自分に最適な治療法を選ぶためには、正しい情報を得ることが極めて重要です。標準治療を受ければしっかり治るのに、もっと特別な治療法があるのではないかとインターネットなどで見つけた根拠のない治療法を受けてしまって、手遅れになるケースがあります。
 国立がん研究センターがん情報サービスのサイト(https://ganjoho.jp)や各学会の患者向けガイドラインなど、情報源の確かなものから情報を得るようにしてほしいと思います。がん対策基本法が施行されてから、がんの治療は内科、外科、放射線科、緩和医療科など複数の専門分野の医療者が一緒になって行うチーム医療が推進されてきました。疑問に思うことがあれば、医師や医療関係者と話し合い、ご自身が納得のいく治療を選んでほしいと思います。

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