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健考カルテVol.1「脳卒中は 予防と早期発見がカギ」

広告 企画・制作 読売新聞社ビジネス局

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富山大学学術研究部医学系 脳神経外科学 教授
黒田 敏(くろだ・さとし)先生
北海道大学医学部医学科卒。北海道大学病院診療准教授などを経て、2012年から現職。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医。

 脳卒中は発症後の対応が遅れると命にかかわり、助かった場合も後遺症が残ると、介護が必要になる可能性が高い病気として知られています。寿命が延びて長くなった人生を最後まで元気に過ごすためには、脳卒中についての正しい知識をもつことが不可欠です。脳卒中治療の権威である富山大学脳神経外科教授の黒田敏先生は「脳卒中はならないようにする予防が一番大切。発症した場合は、一刻も早く治療を開始することが重要」とアドバイスします。

血管が破ける脳出血と詰まる脳梗塞

Q 脳卒中とはどんな病気ですか?

 脳卒中を大きく分けると、脳の血管が破れてしまう脳出血と、脳の血管が詰まってしまう脳梗塞の2つに分かれます。
 さらに脳出血には、脳の細い血管が破れる脳内出血(脳溢血のういっけつ)、脳の太い血管にできたこぶが破けるくも膜下出血があります。一方、脳梗塞にはおもに3つのタイプがあり、脳の細い血管が閉塞するラクナ梗塞、頸動脈や頭の中の比較的太い血管に動脈硬化が生じて発生するアテローム血栓性脳梗塞、不整脈によって心臓にできた血栓が脳に飛んで太い血管に詰まる心原性脳塞栓症があります。


死亡率は減少、脳梗塞の後遺症に注意

Q 脳卒中の患者の動向は? 

 2021年の厚生労働省「人口動態統計」によると、死因別死亡率で、脳卒中はがん、心疾患、老衰に次ぐ第4位となっています。
 かつて日本人が穀類や魚、塩分の多い和食中心の食生活を送っていた時代には、脳卒中の多くを脳出血が占め、死因の1位を占めていました。しかし、降圧薬が広く使われ、高血圧のコントロールができるようになると脳出血は急激に減少しました。
 今度は、食生活の欧米化や高齢化によってアテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症の比率が増えてきて、脳梗塞の割合が増え、脳卒中全体の約7割を占めているのが、最近の傾向です。医療の進歩によって、死亡率は減少していますが、初期対応が遅れると、後遺症を残すこともあるため注意が必要です。

1分でも早く救急車を呼ぶ

Q 脳梗塞を発症した場合、どうすればよいですか? 

 脳卒中の治療はTime is brain、時間との勝負だといわれます。様子がおかしいと思ったら、すぐに救急車を呼んでください。
 脳梗塞の初期症状としては、FASTが参考になります。
 点滴で血栓を溶かすtPA静注療法は、発症後4時間半以内、カテーテルで血栓を回収する血管内治療は発症から8時間以内に治療を開始することが重要です。
 初期の対応は死亡率の低下だけでなく、後遺症をいかに軽くするかという点でも非常に重要です。
 救急車を呼んだ場合、全国各地の一次脳卒中センターに運んでもらうよう依頼することをおすすめします。日本脳卒中学会が脳卒中の専門医を認定し、全国の一次脳卒中センターに配置しています。専門治療のネットワークを利用していただければと思います。

生活習慣病のコントロールを

Q 脳卒中にならないために自分でできることはありますか?

 日本脳卒中協会の脳卒中予防十か条には、たばこをすぐやめる、高血圧は正常値にコントロールする、糖尿病や高コレステロール血症などは生活習慣の改善や薬物療法でコントロールする、不整脈はきちんとリスク評価をして必要であれば予防的な治療を行う、食事の塩分、脂肪を控える、アルコールは適量にとどめる、運動習慣をもつ、などがあげられています。
 血圧の薬を飲んでいても血圧が高いまま正常にコントロールされていない方はとても多いと感じています。治療を受けても改善されない場合、今の治療が適切かどうか主治医に相談してみるのもよいでしょう。
 不整脈に気づかずにいる人も少なくありません。職場や地域の健康診断は積極的に活用し、かかりつけの医師に脈や心電図をチェックしてもらうことが重要です。自分で脈をとる習慣をもつことも大切です。

健康寿命の延伸が叫ばれてから久しいですが、まさに脳卒中を制覇するとその目的を達成することができるのではないかと思います。「自分には起こらないだろう」などと根拠のない自信はもたずに、正しい知識をもち、適切に対処していくことが重要です。

 脳卒中は、まず予防が第一です。リスク要因となる高血圧、糖尿病、高コレステロール血症などの生活習慣病は、自覚症状もなく、自分ではわかりません。年に一度の健康診断で適切なチェックを欠かさないことが大切です。脳卒中で後遺症が残り、長期間のリハビリや介護が必要になると、家族の生活にも大きな影響を及ぼします。それがきっかけになって家族関係が悪くなるケースをたくさん見てきました。家族も一緒に健康について考える機会を設けるようにしてください。
 発症してしまったら、一刻も早く救急車を呼んで、専門医の治療を受けることが大切です。入院中、非常に落ち込んだり、うつ状態になったりする人はたくさんいます。後遺症の程度によっても違いますが、これまで接してきた多くの患者さんの様子をみていると、それでもある時期、病気を受け入れるときがある。そこから先、前を向いて日常生活をエンジョイしながら懸命に生きる姿をみると、すごくいいなと心を動かされます。
 また、脳卒中を発症した人にとっては、再発を防ぐことが最も重要です。
 再発予防の治療は終生続くものだと肝に銘じて、専門医のもとで適切な治療を受けることをお勧めします。
 困ったことがあれば、かかりつけの脳神経外科の先生に相談し、根気よく治療を継続していくようにしてください。

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