健康と病気の間にある「未病」~大腸から全身の健康を考える~
SDGs:すべての人に健康と福祉を

2021年11月20日

 未来貢献プロジェクトのオンラインシンポジウム「腸から認知機能を考える」が10月13日、開催された。伊賀瀬道也・愛媛大学大学院抗加齢医学講座教授兼愛媛大学医学部附属病院抗加齢予防医療センター長による基調講演、森永乳業の清水金忠・研究本部基礎研究所長によるプレゼンテーションなどに続いて、「腸から考える認知機能の対策」をテーマにパネルディスカッションが行われた。今年で6回目のシンポジウム。新型コロナウイルス対策のため、昨年に続くオンライン開催となり、全国から約750人がパソコンやスマートフォンなどで参加した。(司会は、フリーアナウンサーで元日本テレビ報道キャスター・町亞聖)

主催:
読売新聞社
後援:
内閣府・日本医師会・日本歯科医師会・日本看護協会・日本薬剤師会・健康マスター検定協会
協賛:
森永乳業

ゲストスピーチ

柱は食、運動、社会参加

大谷 泰夫氏

神奈川県立保健福祉大学理事長(元内閣官房参与)
大谷 泰夫氏
おおたに・やすお 1976年、東大卒後、厚生省入省。医政局長、厚生労働審議官、内閣官房参与などを歴任。2015~17年、日本医療研究開発機構理事。18年から神奈川県立保健福祉大学理事長

 これまで私たちは、健康について、健康か病気か、という二つを分けて考えていました。

 「未病」というのは、健康と病気の間。健康だけれど、どこも悪くないというわけでもない、こういう方たちは未病というゾーンの中で暮らしています。ある日病気になったら、それで終わりではありません。

 予防というのは二分法です。健康か病気か、どこかで病気になる。発症したら予防は終わりで、治療に入ります。典型的なイメージが感染症、まさにコロナです。

 感染症と生活習慣病では考え方が違います。未病を改善する取り組みには三つの柱があります。一つは「食」。次に「運動」。もう一つが未病の特徴的な考え方で、「社会参加」です。活動すること、人とコミュニケーションをとることがキーになります。それなしで未病は改善されません。

 未病をコンディショニングすることで一番大事なことは、まず気づくこと。そして知識を得て行動を変える。もっと難しくて大事なことが、それを続けることです。

基調講演

認知症予防 早いうちに

伊賀瀬道也氏

愛媛大学大学院抗加齢医学講座教授 兼 愛媛大学医学部付属病院抗加齢予防医療センター長
伊賀瀬 道也氏
いがせ・みちや 1964年、愛媛県出身。愛媛大学医学部卒。米国留学などを経て2011年、愛媛大学医学部附属病院抗加齢予防医療センター長に就任。19年から抗加齢医学講座教授。

 日本の高齢化率を見ますと、全人口に占める65歳以上の人口が、2020年で全国平均28・9%という、超高齢社会になっています。

 百歳以上の方は、1963年には153人しかいませんでした。それが2020年には8万450人。今、人生百年時代が到来しています。

 一方で、健康寿命というものが重要になってきます。つまり健康で自立した生活を送ることができる期間です。具体的には、食事を一人でとれるか、風呂に一人で入れるか、トイレを一人で使えるか。こうしたことができなくなると、健康寿命が失われた、ということになります。

 男性は平均寿命が81歳を超えていますが、健康寿命は72歳程度。健康寿命が終わって、平均寿命まで9年くらいの間は何らかの介助、介護が必要になります。女性は平均寿命が87歳を超えていますが、健康寿命は75歳程度で、12年程度は何らかの介助が必要になります。今後、この健康寿命をできるだけ延ばしていこうというのが国を挙げての目標になっています。

高血圧は注意

 健康寿命が短くなる疾患の第一は「認知症」で24%。「脳卒中」が19%。この二つの脳の病気で40%以上を占めています。

 アミロイドβとか、タウたんぱくなどという異常なたんぱくが脳に蓄積すると認知症になるという考え方があり、進行を遅らせる薬も出ています。ただ、現実のところ、根本治療には至っていません。

 異常なたんぱくは加齢とともに増えるので、これを外に出すという考えもあります。動脈硬化は血管の老化で異常なたんぱくがうまく体の外に出ていかない状態。これが認知症を進める原因ではないかという研究が世界中でたくさん行われています。高血圧の患者が薬で適度な血圧に下げると、脳そのものの病気が減るということが分かっています。

 ではどんなことを修正すると認知症の発症が防げるのかということですが、中年以降で見ますと、「高血圧」「肥満」それから「たばこ」「糖尿病」があります。いわゆる生活習慣病に関連する原因が並んでいます。それ以外にも「難聴」「うつ」などさまざまな危険因子がありますので、このあたりをうまく修正できれば、認知症の発症をかなり予防できると言われています。

 私たち抗加齢予防医療センターの研究でも、軽度認知障害の方は、脳の血管が傷んでいることが分かりました。軽度認知障害は年間10%程度の方が認知症に進行してしまいます。なるべく早い段階で軽度認知障害という状態を見つけることが、一番大事なことだろうと考えられています。

軽度認知障害
軽度認知障害SP

片足立ち1分

 さて今日のテーマである脳腸相関に入ります。たとえばストレスがかかるとおなかが痛くなる。逆におなかの調子が悪いときにはなかなか考えがまとまらない。脳と腸の関係が非常に深いということが今、科学で証明されています。

 大豆イソフラボンが腸内細菌でうまく分解されると、エクオールというものが作られます。これは分解できる腸内細菌がいる人に限ります。エクオールを作れる腸内細菌を持っている人は認知機能の点数が良かったという結果が私たちの研究で出ました。

 最後に「開眼片足立ちのススメ」です。目を開けて片足を上げる簡単なテストです。私たちのデータでは、65歳ですと、4分の1は1分間立てません。1分間立てない人は脳の萎縮が進行している可能性があります。

 では、立てない人はどうすれば良いのか、ということですが、1分間片足立ちをするトレーニングを1日3回すると、最初は6秒だった人が6か月後は18秒になる。それとともに転倒する回数も減ったというデータがあります。こうしたことから、開眼片足立ちに認知機能の改善効果があることを証明しようと、研究を進めています。

プレゼンテーション

認知機能の改善 予想以上

清水金忠氏

森永乳業株式会社 研究本部 基礎研究所長
清水 金忠氏
しみず・かねただ 1984年、中国華南農業大学卒。名古屋大学大学院博士課程修了後、理化学研究所などで研究職。95年森永乳業入社。2016年、日本酪農科学会学会賞受賞。

 私たちが今注目しているのは、脳腸相関。脳と腸が密接に強く結ばれているということです。おなかの状態が悪いと精神状態も良くない、精神状態が悪いとおなかの状態も悪くなる。ここに腸内細菌が関係していることが、研究によって分かってきました。

 認知症の人と健常な人の腸内細菌を比べますと、認知症の人の方が腸内細菌の多様性が低い。構成も違い、中でもビフィズス菌が少ないという研究報告もあります。腸内細菌と認知機能が関係しているということが、今どんどん解明されています。

 私たちは認知症の予防、及び、進行抑制効果のある素材の研究を約10年前からスタートしました。

 その中で、ビフィズス菌MCC1274は加齢に伴って低下する認知機能を維持改善する効果があることが分かりました。

 軽度認知障害の高齢者の方を二つのグループに分け、一つのグループにこのビフィズス菌を飲んでもらう、もう片方にはビフィズス菌を含まないカプセルを飲んでもらうという試験を行いました。16週間飲んでもらい、認知機能を評価しました。

 私も、試験結果を見たとき、大変驚きました。予想以上に、ビフィズス菌を飲んだことによって認知機能が改善したのです。今聞いたこと、見たことを覚えているかという即時記憶、少し前のことを憶えているかという遅延記憶、空間認識力などで、ビフィズス菌を摂取したグループが大きく改善したという結果になりました。

 この研究結果をいち早く論文化、専門誌で公開しました。すると世界的に有名なアルツハイマー病の情報サイトの中で、私たちの研究はすぐに取り上げられました。このように世界からも注目されています。

 認知機能関連の機能性表示食品はたくさん受理されています。その中でビフィズス菌MCC1274は、「健常な中高年の方の加齢に伴い低下する認知機能の一部である記憶力、空間認識力を維持する働きがあることが報告されています」という表示をすることができました。

パネル討論

【パネリスト】
 大谷 泰夫氏 (元内閣官房参与)
 伊賀瀬 道也氏 (愛媛大学大学院抗加齢医学講座教授 兼 愛媛大学医学部付属病院抗加齢予防医療センター長)
 清水 金忠氏 (森永乳業株式会社 研究本部 基礎研究所長)
【進行役】
 町 亞聖氏 (フリーアナウンサー)

町 亞聖氏

まち・あせい 立教大学卒業後、日本テレビにアナウンサーとして入社。その後報道局に異動、報道キャスター、厚生労働省担当記者などを務める。2011年からフリーアナウンサー。

ビフィズス菌で脳も腸も元気!

視聴者の方に、最も気になることは何か、リアルタイムでアンケートに答えていただきました。「生活習慣、認知機能」が41%で、「脳腸相関について」が28%、「ビフィズス菌MCC1274について」も23%という結果になりました。

伊賀瀬 認知症、それから脳血管障害が、いわゆる健康寿命を短くしてしまうということになります。それに対して我々ができることは生活の習慣を良くしていくということです。高血圧を治療するということはやはり大事です。それ以外に最近分かってきたのは糖尿病です。糖尿病がありますと、さまざまな血管が傷んできます。中でも脳の血管に悪さをするということが分かってきまして、糖尿と認知症の関連も非常に大きくなっています。

軽度認知障害の段階で早期に介入することも、認知機能の低下、ひいては認知症にならないためには必要なことですね。

伊賀瀬 そうですね、私たちの抗加齢ドックを受けていただいた方の中でも、10%程度の方に軽度認知障害の疑いが出ています。高齢の方で独居というのが大きなキーワードになっていまして、配偶者を亡くされた場合、独身の方でも近しい友人を亡くした方、そういう独居の方で認知機能が下がる可能性が高いという印象があります。

大谷 認知症というのは、未病の典型的なスタイルです。病気なら薬を飲んだり手術したり治療して治すと考えますが、未病というのはそういう病気を治すのとは少し違って、生活の中でコンディションを整えながら対応していく。食事や運動をきちんとしていても、社会と交流、人とコミュニケーションをとる。未病はまさに認知症に直結した分野かなという思いを強くしています。

抗炎症効果か

腸内には数百種類の腸内菌がいるということですが、私たちがよく耳にするのは乳酸菌とビフィズス菌です。どのような違いがあるのでしょうか。

清水 同じように善玉菌と呼ばれますが、菌としての種類も性質も全く違います。大きな違いは、ビフィズス菌は短鎖脂肪酸の一種である酢酸を作るということ。酢酸には有害な菌を殺菌する作用がありますが、免疫に対する作用があるという研究も発表されています。また、同じビフィズス菌でもいろんな菌があり、人それぞれ持っている菌が違います。MCC1274は、私もいろいろな食品の臨床試験をやってきていますが、ここまで(認知機能に対して有効な)結果が出たのは初めてです。

伊賀瀬 これだけしっかりと効果が出たものは今まで無かったように思います。キーワードとして抗炎症効果というのがあるのではないでしょうか。炎症を抑える効果が結構効いたのかなという印象を持ちました。

大谷 この菌のことだけでなく、健康リテラシーと言われていることがあります。知識を持って行動を変える。例えばヨーグルトなら何でも同じと思っている人と、効果や種類が分かって選んでいる人がいます。知識をもって商品を選ぶということはすごく大事だと思います。

歩こう 話そう

ここで視聴者の皆さんからの質問を紹介したいと思います。60代、千葉県にお住まいの方から。「腸から認知機能の維持、未病について考えたことがないので、どのような関係があるのでしょうか」ということです。

大谷 人間の脳というのは、どちらかというと、あまり体に良くないことを好みます。脂っこいものを食べたいとか、甘い物が好きとか、酒を飲みたいとか。だからそうした生活習慣は、脳腸相関があるということを考えて行動を変え、それを続けていくことが大切だと思います。

続いての質問は大阪にお住まいの60代の方から。「認知症になりにくい方法と改善の仕方を教えてください」。

伊賀瀬 これだけをすれば大丈夫、ということはないと思いますが、まだ話していない内容として、動脈硬化の予防のためには、1日に8000歩くらい歩きましょうということ。実際問題8000歩はなかなか歩けなくて、特に高齢者の方は難しい。現在は、認知機能予防ということで、4000歩という数字が出ています。認知機能予防で運動しましょうという方には、4000歩を一つの目安にということを話しています。それと、人と話すこと。会話のキャッチボールが大切です。自治体でも「頭の健康チェック」がよく行われていますが、そうしたチェックを繰り返し受けることで、認知機能の予防効果がありそうだ、というデータも出始めています。

脳との3経路

神奈川県の60代の方から。「脳腸相関と言う言葉は聞いたことがありますが、腸内細菌が認知機能とどのように関係しますか」

清水 人のおなかにはたくさんの菌が住んでいて、免疫を高めるとか、アレルギーの関連性とか多くのデータが示されています。一方、脳とおなかがこれだけ離れているのに、どうして腸内細菌が脳に影響するのかと不思議に思うかもしれません。ビフィズス菌の場合は短鎖脂肪酸とか、他の菌もいろいろなアミノ酸とかを作っています。こういう代謝産物、菌体成分がどうやって脳にシグナルを送るのか。それには三つの経路があると言われています。一つは血液を通して。2つ目は免疫系です。そしてもう一つ、最近注目されているのは神経。脳と腸管は迷走神経でつながっています。代謝産物や菌体成分が神経に作用して、脳に行く。こういう経路で腸内細菌と脳が非常に密接に関わっています。

脳腸相関も考えて行動を変えていくことが大切ですね。

大谷 学び、頑張ることはすごく大事。でもなぜ頑張るのか、認知症になりたくない、とか脳梗塞になりたくないからとかそういう動機付けもありますが、もっとポジティブに、こういう人生を送りたいというような楽しい目標があると、続けられると思います。

伊賀瀬 医学の世界というのはどんどん細分化していまして、専門性で分かれ、私も全然ついていけないような専門領域がたくさんあります。でも人間の体というのは一つしかありません。おそらく根本は一緒。最も大切なことは、大谷さんのおっしゃるような、未病からのアプローチではないかと思っています。

脳と腸のためのオリジナルエクササイズ

 パソコンやスマホを見ながら簡単にできる「腸と脳のためのオリジナルエクササイズ」が、オンライン体操として行われた。講師は、株式会社ティップネスの井出由起さん=写真右=。

 「体を動かしながら頭を使って、五感を刺激することで認知機能の維持・向上が期待できるプログラム(シナプソロジー)と、腸の働きを良くするための腸エクササイズを紹介します」と井出さん。

 まず、数字を言いながら、右ひじと左ひざ、左ひじと右ひざをつける動作を交互に行い、「1、2、3」「4、5、6」と3の倍数で動作を止める運動が紹介された。次に、五十音を言いながら同じ動作を行い、「あいう」「えおか」と三つ目で止める。

 指導を受けた町さんは少しぎくしゃくした動きになり、「数字だと分かりやすいのですが、あ、い、う、え、お、を考えながら三つ目で止めるというのは難しいですね」と語った。

 その後、いすに座り、「伸びる」で胸をそらす、「縮む」で背を丸める、「右」で右に体をねじる、「左」で左にねじる、という動作を井出さんの指示で行った。

 続いて、いすに座ったまま足首をほぐす運動や体をねじる運動などが紹介され、最後に、おなかに大きな「の」の字を書くようにマッサージ。 町さんは「私は混乱しましたが、それがいい刺激になるということです。みなさんもぜひお試しください」と話した。

エクササイズの画像
エクササイズの画像SP

「腸と脳のためのオリジナルエクササイズ」が、オンライン体操として行われた。

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