健康と病気の間にある「未病」~大腸から全身の健康を考える~
SDGs:すべての人に健康と福祉をSDGs:住み続けられるまちづくりを

2020年9月26日

 未来貢献プロジェクトのオンラインシンポジウム「新時代の『未病』 今、大腸を見直そう」が9月4日、開催された。松本哲哉・国際医療福祉大学医学部感染症学講座主任教授による基調講演、森永乳業の阿部文明・常務執行役員研究本部長兼素材応用研究所長によるプレゼンテーションなどに続いて、「今こそ大腸から全身の健康を考える」をテーマにしてパネルディスカッションが行われた。5回目のシンポジウムだが、今回は、新型コロナウイルスの流行を考慮して、初のオンライン開催となり、全国から約700人がパソコンやスマートフォンなどで参加した。(司会 タレントで元日本テレビアナウンサー・上田まりえ)

主催:
読売新聞社
後援:
内閣府・日本医師会・日本歯科医師会・日本看護協会・日本薬剤師会・健康マスター検定協会
協賛:
森永乳業

ゲストスピーチ

腸内環境は「未病」改善のシンボル

大谷 泰夫氏

神奈川県立保健福祉大学理事長(元内閣官房参与)
大谷 泰夫氏
1953年生まれ。厚生労働省で厚生労働審議官などを務め、2014~16年に内閣官房参与。18年4月から現職。

 未病改善へ3つの柱

 人間の健康は、健康と病気という二つで整理されていました。ある日突然病気になるということもありますが、多くは、徐々に変化して、進行して、病気になって治療する。健康と病気は連続しています。この二つが交錯した状態が未病です。

 未病をどうやって良くするのかには三つの大きな柱があります。ひとつは「食」。中でも腸内環境が非常に有効だと、大きなテーマになっています。

 それから「運動」。筋力や運動能力が衰えると、病気を招きかねません。睡眠も運動の一つの変形です。最近では口の中の健康状態も新しいテーマになっています。

 また、大きな着眼点は「社会参加」です。コミュニケーションをとる、人と関わることが社会参加。これらのどれが欠けても改善には結びつきません。

 未病の改善を実現するためには、自分の体調に気づくことが大切です。そして、知識を得て行動を変える。もっと難しいのはそれを持続するということです。便の状態で腸内環境を確認できます。状態がわかれば改善を続けやすい。腸内環境は、未病改善を実感できる、実践のシンボルです。

基調講演

免疫力を高めるために個人個人ができること、やるべきこと

松本 哲哉

国際医療福祉大学 医学部感染症学講座主任教授
成田病院感染制御部部長
松本 哲哉氏
1987年、長崎大学医学部卒業。2005年から東京医科大学微生物学講座主任教授。2018年から現職。日本環境感染学会副理事長なども務める。

 免疫力向上 効果に期待

 まず皆さんの関心が高い新型コロナウイルス感染症についてお話しします。この病気は、10歳未満はかかりにくい、10歳代は感染しても症状が出にくい。20代、30代は感染もしやすいし、社会の中で広げてしまう。60歳以上では重症化し、80歳以上になると死亡率が高くなるという状況です。

 せきをしたときの飛沫が届く範囲はだいたい2メートルです。もうひとつ非常に細かな粒が出ています。それがエアロゾル、マイクロ飛沫というものです。大きな飛沫が大事だと思われてきましたが、最近、このエアロゾルが注目を集めています。エアロゾルは空気の流れによっては10メートルぐらい届きます。狭い部屋で換気もよくなければ、ずっと舞って、室内にいる人たちに感染させてしまうという問題があります。

 手にウイルスが付着しただけでは感染しません。目、鼻、口といったところに触って感染します。何か触ったら消毒することも大切ですが、顔に手を持っていかないことが大事なポイントです。うがい、手洗い、マスクの着用。そして3密を避ける、ソーシャルディスタンスや換気など、感染しない心がけをしばらくは続けてください。

 次に免疫の話です。私も15年くらい前から、ビフィズス菌を使って免疫の研究を続けています。マウスにビフィズス菌を毎日飲ませ、その上で、緑膿菌という病院の院内感染を起こしやすい菌に感染させます。その生存率を見ると、飲ませている方が明らかに高いという結果を見て、私も驚きました。これは動物実験です。

 それでは人ではどうか。未熟児で生まれた赤ちゃんにビフィズス菌を含む整腸剤を飲んでもらいました。飲ませた20例と、飲まなかった19例を比較しますと、ビフィズス菌を投与していた群は、投与していない群に比べて、感染症が起こる割合が低くなりました。

 高齢者でも6週間、ビフィズス菌をとってもらったグループとそうでないグループを比較した、他の研究者のデータがあります。ビフィズス菌を摂取したグループは、菌を食べて殺す作用がある好中球という細胞の殺菌効果が確かに高くなる。NK細胞というウイルスに対して働く別な細胞も活性化します。

 病原菌に対して抵抗力を持つIgA(免疫グロブリン)では、ビフィズス菌を投与された人たちの方が、血中のIgAが高くなっている。そうするとおそらく、感染を予防する効果が高まるのではないかということが推測できます。

 インフルエンザワクチンを打ったときにどれくらい免疫の獲得に影響するかということを見ますと、ビフィズス菌を取っていた方が、免疫を獲得する人の割合が明らかに高い。

 ビフィズス菌を取ると、NK細胞の活性が維持される、IgAが上がる、インフルエンザワクチンを接種した後にその抗体価が上がりやすくなるという効果が認められています。

 ビフィズス菌が新型コロナウイルスの感染予防になるとか、重症化を防げるなどということは、まだ論文などで報告されてはいません。しかし、従来の感染症では、こうしたプロバイオティクス(ビフィズス菌、乳酸菌など善玉菌を含む製品)で重症化のリスクを抑えられることも報告されていますので、うまく使ってお過ごしいただけたら、と思います。

プレゼンテーション

腸内フローラと人の健康~腸から身体を守るビフィズス菌~

阿部 文明氏

森永乳業株式会社 常務執行役員 研究本部長 兼 素材応用研究所長(農学博士)
阿部 文明氏
1961年生まれ。87年、森永乳業株式会社に入社。88年よりビフィズス菌、腸内細菌の研究を始める。食品基盤研究所長などを経て現職。

 酢酸を生成 有害な菌抑制

 腸の中には数百種類の菌がいて、せめぎあっています。その腸内フローラで有益な働きをする菌を善玉菌、悪い作用を持っている菌を悪玉菌と呼びますが、ビフィズス菌は善玉菌の代表です。

 生まれたばかりの赤ちゃんの腸内フローラは無菌です。母乳の中にはビフィズス菌を育てる成分がいっぱい入っていて、母乳を飲むと赤ちゃんの腸内はビフィズス菌でいっぱいになります。健康な赤ちゃんの場合、腸内の菌のうち、ビフィズス菌が90%以上を占めています。その後、子どもから大人にかけて普通の食事をしていくと、ビフィズス菌の割合は徐々に減っていき、10~20%になります。

 乳酸菌も善玉菌と呼ばれますが、ビフィズス菌とは全く違う菌です。ビフィズス菌は、※短鎖脂肪酸の一種である酢酸という酸を作ります。この酢酸が体にとってすごく良い作用をしていて、有害な菌を殺菌する作用もあれば、体の代謝、免疫系を含めて活性化してくれる作用も報告されています。

 ビフィズス菌というとヨーグルトをイメージしますが、実はすべてのヨーグルトにビフィズス菌が入っているわけではありません。ビフィズス菌を取りたいのであれば、その点に注意してください。

 世界中の研究者がビフィズス菌について研究しており、免疫力が高まる効果が報告されています。インフルエンザにかかりにくくなったり、花粉症の症状が抑えられたりするデータも出ています。最近は脳腸相関といって、脳と腸が相関しているというデータもあります。

 ビフィズス菌は生涯を通じて非常に大事な菌です。乳幼児から高齢者まで、ぜひビフィズス菌を取って腸内環境を良くし、未病の改善を含めて健康になっていただきたいと思います。

※短鎖脂肪酸:酢酸、酪酸、プロピオン酸など、脂肪酸の一部で、炭素の数が6以下のもの。ヒトの大腸内で、腸内細菌が食物繊維やオリゴ糖を発酵・分解する際に生じる。悪玉菌の増加を抑え、腸内環境を整えてくれるほか、発がん、肥満などの予防効果が認められている。

パネル討論

今こそ大腸から全身の健康を考える

田中 律子氏

女優・タレント
田中 律子氏
1971年生まれ。1984年、モデルデビュー。女優、タレントとして活動ながら、2011年からヨガインストラクターとしても活躍している。

様々な意見が交わされたパネル討論

司会 視聴者の方に、最も気になることは何か、リアルタイムでアンケートに答えていただきました。「腸内環境と免疫力の関係は?」が40%。次いで「免疫力を高めれば感染症に勝てる?」が28%、「年齢を重ねると腸内環境は悪化する?」が22%。そして「高齢者はみんな免疫力が低い?」が9%という結果になりました。

阿部 腸内には数十兆個の菌がいるとも言われます。腸内菌と腸の細胞はお互いに影響し合っています。全身の免疫細胞の7割が腸にあるという報告もあります。ですから食べた物や腸内菌が腸管の免疫細胞に作用して、それが全身に影響してきます。

大谷 未病と免疫力、これは表裏一体の関係にあると思います。人生やはり健康で長く生きたい。しかし、人間の脳はよからぬ方に欲求することが多い。肉が食べたい。油が好き。甘い物が食べたい。塩分が好き。どれもが過ぎると全身のいろんな生活習慣病の引き金になっていきます。それをよく分かってコントロールできていると良いのですが、うまくいかないと結果的に免疫力が下がって、外部の菌や感染に対して抵抗できなくなります。

松本 免疫力を高めれば感染を全く防げるかもしれないと期待されるかもしれませんが、体にウイルスが入れば増えます。しかし、ある程度免疫力が高い人は、ウイルスの増え方が鈍くなります。抵抗力が弱っている人は簡単にウイルスが増え、重症化しやすくなります。腸の中の環境は年齢が高くなってくるに従って、良くない菌が増えてきます。そういう人の免疫機能は少し下がりますし、感染症だけでなく、他の病気も起こってきます。

阿部 最近、脳腸相関、脳と腸が関係しているのではないか、ということが言われています。腸内環境を整えることが健康に良いということは世界中の研究で証明されています。特に高齢者の方には、ビフィズス菌を積極的に取ってもらいたいと思います。

田中 私の祖母が93歳なんですが、乳製品をあまり取りません。ヨーグルトを食べないのですが、ビフィズス菌をとれる方法はありますか?

阿部 私たちはカプセルや錠剤、粉末などのサプリメントも作っています。乳製品がとれない方にお勧めしています。

粉ミルクでも摂取可能に

様々な意見が交わされたパネル討論

田中 律子氏

女優・タレント
田中 律子氏
1971年生まれ。1984年、モデルデビュー。女優、タレントとして活動ながら、2011年からヨガインストラクターとしても活躍している。

阿部 母乳を飲んでいる赤ちゃんは、1週間でビフィズス菌が圧倒的に増えていきます。ところが1500グラム以下で生まれた赤ちゃんはビフィズス菌がほとんどおらず、いろんな病気になってしまいます。私たちは30年くらい前から、ビフィズス菌を病院に配って、そういう赤ちゃんに飲んでもらっています。世界中でかなりの国でビフィズス菌が入った育児粉乳が出ていますが、日本では法律の壁があって入れられませんでした。過去のこのシンポジウムでもお話ししてきましたが、大谷さんにもご意見を伺いながら、国に働きかけて認可され、9月8日からビフィズス菌が入ったミルクを発売することになりました。

大谷 私は40年以上、厚労省や内閣で仕事をしていました。4年前からこのシンポジウムで粉ミルクの話を聞いて、この規制はどうなのかと確かに思い、行政当局にも情報提供しました。シンポジウムがきっかけで国の規制が解除された例は聞いたことがありませんので、これは非常に注目すべきことだと思います。

田中 今、赤ちゃんも、花粉症の子供たちが多いんです。だからお母さんが妊娠中からきちんとビフィズス菌をとって、自分の腸内環境を整えていれば、赤ちゃんの健康にもつながって、とても大事なことですね。

目標「80歳でサーフィン」

上田 まりえ氏

司会
タレント(元日本テレビアナウンサー)
上田 まりえ氏

司会 ここで視聴者の皆さんからの質問を紹介します。東京都、30代の女性から。腸の不調がどこまで免疫力に影響があるのか、ということです。

松本 簡単に答えるのは難しいのですが、腸の不調というのはおそらく最も多いのは便秘です。便秘の場合は腸の中にいろんな不要な物質がたまり、それによって免疫細胞の抵抗力も下がってきます。それが続くと、感染症が起こったときにも弱くなります。

司会 60代の女性から。ヨーグルトの有効な食べ方を教えてください。

阿部 とにかくビフィズス菌入りのヨーグルトを食べていただきたい。タイミングは影響しませんが、どちらかというと食後をお勧めします。食事をすると胃酸が和らぐので、そのときに食べていただくと効果的かなと思います。

司会 大腸の健康を意識しながら健康で生き生きと生活していくには何が大切でしょうか。

大谷 未病の改善には、おいしいとか、楽しいとか、続けられることが大事。あまり難しく考えないでエンジョイしていただければと思います。

松本 若い方は無理をしてもすぐに回復するからよいかもしれませんが、人生100年の時代、途中でいろんな病気を起こさないように心がけて健康を維持することが大切です。食生活で野菜をしっかり取ることも大事です。

田中 人生100年と言われているので、私は今まで生きてきた中の、まだあと2倍。50年あるんだって思ったら、自分の健康を維持して免疫力を高めたいと思いました。80歳でサーフィンを続けていることが私の人生の目標です。

司会 本日は貴重なお話をありがとうございました。

エクササイズで目指せ「美腸」!! もんで伸ばしてイイ刺激

腸内環境を整えるエクササイズ

講師は、株式会社ティップネスの鈴木真輝子さん。 司会の上田さんとパネリストの田中さんが指導を受けた。

 初めてのオンラインでの開催となった今回のシンポジウム。自宅でテレビを見ているときなどにも簡単にできる「腸内環境を整えるエクササイズ」が、オンライン体操として行われた。講師は、株式会社ティップネスの鈴木真輝子さん。司会の上田さんとパネリストの田中さんが指導を受けた。

 「おなかが硬かったり冷たかったりすると、腸の働きが悪くなっている可能性があります」と鈴木さん。腸の周りの筋肉が弱くなることで腸が下がり、血流が悪くなってしまうという。

 まず、足幅を広げ、膝を曲げてお尻を下げ、ゆっくりと起き上がる運動が紹介された。そして「8」の字を書くように大きく体を動かす。「おなかの中が動くことで腸が活性化されます」と鈴木さんは説明した。

 次に、大腸をもむ運動が紹介された。腹部の右下の股関節のあたりを4本そろえた指の腹でもんでいく。少し上げて、肋骨の下あたりまでもむ。次に左側の肋骨の下。最後に左腹部の下。便秘気味の人は左側の上や下を重点的にもむと効果があるという。

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