2021年12月23日
未来貢献プロジェクトのオンラインシンポジウム「コロナ禍から考える これからのまちのあり方と財源」(読売新聞社主催)が11月24日に開かれ、生配信された。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの大塚敬・自治体経営改革室長と工学院大建築学部の遠藤新教授が、公共空間に求められる役割などについて意見を交わした。司会はフリーアナウンサーの神田愛花さんが務めた。
- 主催:
- 読売新聞社
「地方移住に関心」大きな動き
三菱UFJリサーチ&コンサルティング自治体経営改革室長 大塚 敬氏
東京の人口は1997年から20年以上、一度も減っていない。だが、2020年にコロナ禍で転入超過数が大きく減少に転じた。こういう変化が起きているのは東京だけだ。人口減少は主に特別区で起きている。
緊急事態宣言時の20年4~5月には進学・就職期の若い人たちが東京に出て来られなかったが、同7~8月にはそれが幅広い世代に広がっている。住み替えの時に東京を選ばなかった人が増えたのではないか。
20歳代後半や30歳代前半は、結婚や出産などで家族形態が変わって引っ越す動機がある。東京の子供が減るという変化につながる部分がある。
内閣府の調査によると、コロナ前の19年12月には、東京23区でテレワークをしていた人は不定期を含めても17・8%だった。コロナ禍で過半の人がテレワークをするようになった。劇的な変化だ。
テレワークの経験がある人の約8割は、続けたいと言っている。会社に出て来なくなり、自宅に機材や机を買い、部屋を確保し、資料もある。こういう人たちは(テレワークから出社に)戻すのも大変だ。
雇用している側はどう考えているのか。港区政策創造研究所が区内の事業所(を対象)に調査したところ、コロナが去った後に週5日出社を考えている事業所は6割だった。残り4割は一定割合テレワークをすると言っている。結構高い割合だ。必要に迫られて、働き方が変わった。コロナが解消されても、ライフスタイルがある程度変わっている人がいるので、戻らない部分が一定程度残るだろう。
次に何が起きるか。東京23区で地方への移住に関心がある人が増えているのは、大きな動きだ。テレワークの普及で、仕事を変えずに地方に住める可能性が出てきた。
東京都心部のオフィス需要は緩むという予想が成り立つ。都内に本社がある会社への調査では、テレワークが9割以上と答えた会社の3分の1が本社の縮小を検討している。
都心で空いた空間をどう生かしていくか、考えなければいけない。良い形でコントロールしないと、都心の魅力が維持できなくなる可能性もある。
(居住地に求める生活環境の変化を尋ねた)同研究所の港区民調査では、コロナの影響で買い物(のしやすさ)や医療機関(の充実)、安全性などの需要が高くなった。オフィスワーカーが減ると飲食店などはダメージを受ける一方で、在宅勤務者の生活に絡む需要は増える。
「空き」工夫し都心に付加価値
工学院大学建築学部まちづくり学科教授 遠藤 新氏
日本は人口減少もあり、長い目で見ると今後、建物の空きや空き地が増えていくだろう。
東京の再開発は、東京五輪・パラリンピックまでを目指してやってきたところがあり、一段落した。東京などでも何を目標にしていくか、考え直さなくてはいけない時期に来ている。
都市を変えていくにはすごく時間がかかる。インフラ(社会基盤)をつくって、それに土地利用がついていく。東京など大都市では、駅を中心にして公共交通を使いながら移動する形が大半だ。この大きな構造自体はなかなか変わらないと思う。人気のある場所、ない場所もそこに関連づいている。
今後の都市開発は、空きも資源として次の魅力につなげていく様々な工夫が必要となり、三つのことを考えていくべきだ。
一つ目は「量から質へ」。床(面積)を増やさずに付加価値をつけていくということだ。東京は、文化・芸術にすぐに触れられ、実は海が近いなど立地の特性を持っており、新しい都市開発のヒントを見いだせる。
二つ目は、駅だけを拠点とする生活を考えなくてもいいということだ。コロナ禍で自宅を中心にして働くと、近所へ買い物に行き、息抜きに公園を散歩するといったことを多くの人たちが経験するようになった。自分の拠点にしているエリアを歩ける暮らし方が必要になるのではないか。
三つ目は、空いている空間を柔軟に使い回していくような工夫だ。空きの時間という着眼点もある。
東京都港区の東京ミッドタウンは、再開発と言いながら、緑豊かな非常に心地のいい広場になっている。既存の公園とも隣接してつくられ、緑豊かな環境がすぐ近くにあることが都市開発の大きな付加価値になっている。
米国・フィラデルフィアから地下鉄で10分ぐらいのところでは、ものすごく土地に空きがあると同時に高級化している。そこを近隣住民が菜園やドッグランなどとして利用できる環境があることが、新しいライフスタイルを実現する手段になっている。
一方、南池袋公園(東京都豊島区)では、飲食店の収益の一部を公園の管理費に充てながら、魅力が続く公共空間づくりをしている。民間がカフェの経営をする良さと公共の仕組みという工夫の組み合わせが大事になる。
これから都市をつくり替えていく時、その価値をどんなところに見いだしていくか。我々はコロナ禍で色んなヒントを見つけているのかもしれない。
パネルディスカッション
公共空間 都市の魅力生む
【パネリスト】
遠藤 新氏 (工学院大学 建築学部 まちづくり学科 教授)
大塚 敬氏 (三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 自治体経営改革室長 兼 港区政策創造研究所所長 兼 せたがや自治政策研究所政策研究員)
【司会】
神田 愛花氏(フリーアナウンサー)
都市部のまちづくりで求められる機能は。
大塚 都内の主要駅周辺で午後2~6時の滞在人口をコロナ前と比較すると、居住者は在宅勤務で増えているが、来訪者は減っている。(千代田、中央、港の)都心3区など昼間の人口が多かった地域では、空間の使い方も変わってくるだろう。(住民が)街の空間に対して求めることが、より細かくなると思う。景観や街並みの快適性など、求める要素は増えていくのではないか。ごみのポイ捨てがなくなるように、喫煙スペースなどの整備も重要だ。
遠藤 都心でも公共空間は結構つくってきた。どうやって活用していくかという視点がこれから大事になる。機能を変えていくところと使っていくところの組み合わせになるだろう。ニューヨークでは道路の空間配分を変えて、車道を広場や歩道にするということをやってきた。公共空間は世の中の動向を見ながら、新しい機能を試しにやってみることが可能な場所だ。社会実験で人の動向を探れる。
まちづくりに活用されている財源は。
大塚 自治体の収入は、使い道が決められた特定財源と、特定されていない一般財源に分かれる。一般財源のうち地方税は、固定資産税と住民税が大部分を占め、都市計画税やたばこ税が続く。ただ、一般財源で実際に自由に使えるお金は一般の市町村で約1割、特別区でも約2割。住民が本当に求めているところに、機動的に対応しないといけない。
遠藤 民間の財源もある。民間のビジネスチャンスにつながる公共空間づくりの仕組みと、公共財源の最適な配分を組み合わせ、ビジネスの拡大や公共空間の魅力向上を両立させる工夫が大事だ。限られた財源を工夫して使うには、試行錯誤も必要になる。社会実験に積極的に投資していけるような機運が高まるといい。実際、何が財源の最適な配分なのかは、動かしてみないと分からない部分もある。
今後のまちづくりのあり方は。
大塚 コロナ禍での大きな変化は、国民のほぼ全員がリモートのコミュニケーションツールを使ったことだ。コロナ禍が去っても、使い続けられるだろう。東京の空間の使い方も変わってくる。アンテナを高く立て、変わっていく動きに対し的確なまちづくりをしていくことが求められる。
遠藤 安全・安心や環境、公衆衛生など色んな価値を、これからの都市の中で考えなくてはいけない。本当に幸せな公共空間や場所をつくれているかどうかが大事だ。コロナ禍のライフスタイルに合わせて、こんな場所になってほしいとチャレンジする社会実験がますます重要になる。
オンライン形式で行われたシンポジウム