コロナと、未病と。働く女性のWell-beingを考える
SDGs:すべての人に健康と福祉を

2021年3月24日

 未来貢献プロジェクトのオンラインシンポジウム「INNOVATION WITH COVID―19(空間づくり編)」(読売新聞社主催)が2月4日に開かれ、生配信された。建築家で起業家の谷尻誠さんと、ホテル運営などを手がける「L&Gグローバルビジネス」代表取締役の龍崎翔子さんが新型コロナウイルス禍でのライフスタイルや働く環境などについて意見を交わした。司会・コーディネーターは、読売新聞東京本社調査研究本部の高橋徹主任研究員が務めた。

主催:
読売新聞社

集まる場所 やはり大事

谷尻 誠氏

建築家・起業家
谷尻 誠氏
1974年、広島生まれ。2000年に建築設計事務所「SUPPOSE DESIGN OFFICE」を設立。大阪芸術大学准教授。著書に「CHANGE 未来を変える、これからの働き方」(エクスナレッジ)など。

 谷尻 誠氏(建築家・起業家)

 新型コロナによって、働く場所の意味合いは大きく変わった。これからのオフィスは、働く場所というより、集まる場所としての目的がより重要になっていくと考えている。

 コロナ以前、オフィスの設計依頼で求められる要素は、効率的に仕事ができる環境だった。しかし、コロナ禍で在宅ワークが拡大し、どこでも仕事はできるということがある程度証明された。そのため、オフィスは必要ないという見方もあるのだが、コミュニケーションをとったり、組織力を向上させたりするためには、やはり集まることは大事だ。これからの会社には、その理由を作り、場を提供することが求められると思う。

 自社で言えば、社員食堂だ。一人暮らしの従業員は「会社に行けなくなると困る」と言っていた。健康面だけでなく、仲間と一緒に会話しながら食事することで、互いの理解を深め、仕事にいかすことができるからだ。社員食堂を含め、休むための場所をどれだけ作れるかは、これからのオフィスデザインに欠かせない要素になるだろう。

 コロナ禍における建築のあり方としては、外部の活用が重要になる。現在は、住宅も、オフィスも、商業施設も、高気密・高断熱が主流だが、個人的には、低気密・高断熱が体に一番いいと思っている。断熱さえしっかりしていれば、窓を開けていても温度変化が起きにくい環境を作ることはできる。

 1度目の緊急事態宣言が出た頃に完成した自宅は、エアコンを設置しなかったが、空気が動きやすい状況を整えたので快適だ。今は別荘を作ろうと考えていて、寝る部屋と水回り以外は全部外というぐらい、居住空間をどこまで外部化できるか実験したいと考えている。

 夏は半袖、冬はダウンジャケットを着ているのに、建物の中に入った途端、温度管理されているような環境が本当に必要なのか? エネルギーの使い方として適当なのか? コロナ対策にとどまらず、考えていかなければいけないテーマだと思う。

 コロナ禍は、今までのことをキャンセルするかのごとく、価値観をスイッチさせた。不安の一方で、ちょっと不謹慎だが、わくわくする自分もいた。みんな一斉に「よーいドン」となるようなことは何度もない。周回遅れだった人も今なら、先に走り出せるかもしれない。私はリーマン・ショックの時、「リーマンチャンス」と言ったが、今も「コロナチャンス」。現場をどう捉え、どう動くかが重要だ。

ホテルの可能性 広げる

龍崎 翔子氏

L&Gグローバルビジネス 代表取締役
龍崎 翔子氏
1996年生まれ。東京大学在学中の2015年に「L&Gグローバルビジネス」を設立し、代表取締役CEO。「petit‐hotel #MELON」(北海道)など、国内5か所でホテルを運営。

ホテルシェルター

「ホテルシェルター」の
ホームページ画面

 龍崎 翔子氏(L&Gグローバルビジネス 代表取締役 )

 新型コロナは本当に大、大打撃で、昨年4、5月はホテルを休業して、毎日眠れないくらい大変だった。ただ一方で、楽しかった時期でもある。

 自分が感じる不便や不満、不幸。自分の生活にある「不」を自分の力で解消することをポリシーにしている。社会全体が一気に同じ課題に直面することになったコロナ禍において、私が不満に感じていることは、ほかの人も不満に感じている可能性が高い。そういう思いで、いくつかの取り組みを行った。

 単純に休業するだけでは面白くないと思って昨年4月に始めたのが、インターネット上の架空のホテル「HOTEL SOMEWHERE」だ。お客様に足を運んでもらえなくなっても、ホテルのメディア機能は失われない。自分たちの思いを発信し続ける場として作った。

 コロナ禍で予約が入らなくなったホテルを支援するための先払い予約プラットフォームも開発した。400軒以上が導入し、月1000万円ほどの予約を受け付けたところもあった。

 ステイホームという言葉が話題になる中、家が安全ではない人もいると思い、「ホテルシェルター」というプロジェクトにも取り組んだ。虐待や配偶者や恋人からの暴力(DV)を受けている人、子どもを保育園に預けづらくなっている医療従事者などのエッセンシャルワーカー、家族仲があまりよくない人……。そうした人たちの安心、安全を確保する場所として、稼働率が低くなっているホテルを活用できないかと考えた。

 実際に始めると、全国各地のホテルから2000室を超える導入意向が寄せられ、多くの人に利用してもらった。

 今準備しているのが、産後ケアホテルだ。私個人の問題意識だが、日本には産後ケアがもっと必要だ。母親なんだから頑張れみたいな社会はハッピーじゃない。父親にとってもそうだと思う。ホテルを通じた社会課題の解決につなげていきたい。

 ホテルは、これまで旅の寝床みたいな側面が強かったが、その定義を変えるだけで可能性が広がる。例えば、人が人をケアする場所と考えれば、ホテルと病院、老人ホーム、保育所などは、実は仲間かもしれない。ある程度長期で滞在すれば、その人の人生の一部分を切り取ってコーディネートできる空間になるのではないか。本当の意味で、その人のライフスタイルのあり方をいい方向に導いていくことができる存在になり得ると思っている。

パネルディスカッション

オフィスの変化 加速

【パネリスト】
 谷尻 誠氏 建築家・起業家
 龍崎 翔子氏 L&Gグローバルビジネス 代表取締役

コロナ禍のキーワード

谷尻 「3密」が印象的。これまでは、都市の中心部に建物を建てて、人や物、情報など、あらゆるものを集めて局部集中型で事業が行われることが主流だった。でも、そういうふうに全てを集めなくてもいいと思う。密の不安要素を減らすという意味では、室内の外部化も必要だ。以前、東京都港区の東京ミッドタウンで自然の庭の風景を取り込んだ喫煙所を設計したことがあるが、これからの空間作りは自然に臨むだけでなく、実際に窓も取っ払って、外とつながるようにしていった方がいい。

龍崎 「在宅ワーク」と「ステイホーム」が記憶に残っている。世の中には、家にいてはできない仕事のほうが圧倒的に多い。ホテル業も、自宅にいながらお客様をもてなすことはできないし、部屋の掃除もできない。それにもかかわらず、家にいましょうと。「在宅ワーク」や「ステイホーム」ができない人たちへの手当てが行き届いていないのではないかという問題意識を持っている。

働き方の変化

龍崎 大きく変化したとは感じていない。在宅ワークという言葉が広がったが、多拠点生活をするアドレスホッパーはコロナ前から増えていたし、コワーキングオフィスやシェアオフィスもあった。都心に大きなオフィスを構えることの価値は既に薄らいでいたのではないか。コロナ禍でその流れが加速したということだと思う。

谷尻 僕はキャンプが好きなので、自宅の屋上にテントをはり、パソコンを持ち込むなどしていた。以前だと「お前、遊んでんのか」と怒られたけれど、今は、「そういう場所で働くのもいいですね」と言われる。自由に働ける社会になった。セブ島で働きたいと言っていた従業員も、実際に送り出した。オンラインでミーティングしながら、問題なく働いている。

苦境の観光業

龍崎 ダメージは大きい。ただ、以前からホテルの需給バランスが崩れる可能性は高いと思っていた。供給過多で値崩れが起き、自社で予約を取れず、予約サイトに依存する傾向が強くなっていた。だから、「インバウンド(訪日外国人客)がなくなって大変」と言っているだけなのはどうかとも思う。日頃から、積極的に行きたくなる、選ばれるホテルづくりをしておかなければいけない。

谷尻 観光地があるからホテルに人が来る、というのが今までの図式だった。でも、本当に大切なのは、このホテルに泊まりたいと思わせることではないか。目的地からホテルという順序ではなく、ホテルから目的地が決まるということもありうる。観光地で人が来るから、きっとホテルにも泊まるだろうという希望的観測だけでホテルを経営しているようでは苦しい。何かに依存するのではなく、自分たちの強み、魅力を見つけて経営することが大事だ。




ディスカッション

生配信されたオンラインシンポジウム(2月4日)

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