人生100年時代シンポジウム「健康寿命を延ばそう」
SDGs:すべての人に健康と福祉をSDGs:住み続けられるまちづくりを

2021年4月4日

 未来貢献プロジェクトの人生100年時代シンポジウム「健康寿命を延ばそう」(読売新聞社主催、ディーエイチシー協賛)が3月9日、読売新聞東京本社で行われた。新型コロナウイルス感染症対策として新しい生活様式が始まった今、健康で幸せに生きるには何をすべきかについて、脳科学者の沢口俊之さんが基調講演。パネルディスカッションでは、問題なく日常生活を送ることができる人生の期間「健康寿命」について活発な意見が交わされた。

主催:
読売新聞社
協賛:
ディーエイチシー

基調講演

好奇心 幸福長寿のカギ

沢口 俊之氏

脳科学者
沢口 俊之氏
1959年、東京都生まれ。京都大学大学院理学研究科修了。2006年から人間性脳科学研究所長。11年から武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部教授、12年から大学院教授を兼任。脳科学に基づく教育相談なども行っている。著書多数。

 脳科学者 沢口 俊之氏

 脳の老化と予防については、「前頭前野(ぜんとうぜんや)」という脳の領域が大きく関わっている。前頭前野とは、脳全体の情報をまとめる総合センターのような役割で、脳の監督役。人間性知能とも表現できる。創造性や協調性に関わり、今後の人工知能(AI)社会においても、人間にとって重要になる。

 だが脳科学の視点からいうと、前頭前野は20代から老化が始まっているといえる。個人差は非常に大きいが、分かれ目になるのは40代。今、中年の方はあまり気にしていないかもしれないが、40代くらいから認知症については意識した方がいい。

 では、脳の老化を防ぎ、前頭前野の働きを向上させるためにはどうすればいいか。王道としては、身体運動に尽きる。特に、二足歩行は人類の大きな特徴であり、効果的だ。毎日20分くらいジョギングする。ウォーキングでもよい。

 自重(じじゅう)運動といって、自分の体を自分で支える運動であれば、週に2回、1日30分でも効果がある。スクワットや腕立て伏せなど、ぜひやってほしい。

 また、前頭前野に強い影響を及ぼすとされるのが、好奇心だ。好奇心は人類進化の本質だろう。好奇心で不安感に打ち勝つこともできる。

 今、新型コロナウイルス感染症の流行で不安を感じている人が多い。不安は、一時的ならまだしも、持続するのは良くない。1年以上もコロナの不安が続き、脳科学者が危惧しているのは脳の萎縮(いしゅく)だ。不安感が長引くと、脳が萎縮する。若者でもそうだ。ぜひ、好奇心を持って、コロナの不安に打ち勝ってほしい。

 近年、「アダプト・エイジング」という考え方が注目されている。「適応長寿」、つまり、高齢者が時代にうまく適応して生きること。健康長寿はもちろん重要なのだが、いくら健康でも、時代に適応できず、取り残されたら化石になってしまう。その適応長寿のカギが、好奇心なのだ。

 IT化などで激変する時代にうまく適応し、時代に取り残されないためには、様々なことに興味を持つ必要がある。例えば、インターネットで物事を検索したり、SNSで友人たちとつながったり。ただし、ネガティブな関係だとよくないので、ポジティブな関係で。不安感がなくなって、前頭前野も活性化する。

 さらに、好奇心は幸福感の大きな源の一つだともされている。健康で長生きし、幸せだと感じながら生きることが「幸福長寿」だ。年齢を重ねても好奇心を持って人生を歩んでほしい。

パネルディスカッション

 パネルディスカッションでは「健康寿命を延ばすために、いま知っておくべきこと・やるべきこと」をテーマに、脳科学者の沢口俊之さん、評論家の樋口恵子さん、医学博士の蒲原聖可(かもはら・せいか)さん、ファイナンシャルプランナーの井戸美枝さんが、それぞれの専門分野をもとに意見を交わした。進行役は、フリーアナウンサーの松本志のぶさんが務めた。

機能性食品を上手に活用して

樋口 恵子氏

樋口 恵子氏
1932年、東京都生まれ。東京大卒、同大新聞研究所本科修了。NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長、東京家政大学女性未来研究所名誉所長なども務める。

井戸 美枝氏

井戸 美枝氏
1958年、兵庫県生まれ。関西大卒。社会保険労務士としても活動。生活に身近な経済問題や、年金・社会保障問題を専門とする。雑誌や新聞への寄稿や、著書も多い。

 88歳の樋口さんは「70代は老いの働き盛り。ところが80を過ぎると限度が来る」と、自身の体験を振り返った。長年住んだ家を耐震のために建て替えたのは84歳の時。経済的にも精神的にも負担が大きく、次第に自分で食事を作る意欲も失い、一時は栄養失調で貧血と診断されるほどの状態に陥った。「そんな時期が来るとは思いもしなかった。全国を駆け回り、ある日ころりと倒れるのが理想だったのに」

 厚生労働省の国民健康・栄養調査(2019年)によると、65歳以上の高齢者で低栄養傾向の人は17%。85歳以上の女性では28%に上った。蒲原さんは「シニアが低栄養になると、生活の自立度や活動能力が低下するほか、様々な全身の不調が起こる原因になる」と指摘。「健康寿命と平均寿命の差は、男性で9年、女性では12年。健康寿命を延ばし、この差を縮めることが重要だ」と話した。

 「どたりと倒れ、立ち上がり、また倒れ、ヨタヨタ、ヘロヘロする。私は『ヨタヘロ期』と言っているが、結構長い」と樋口さん。蒲原さんは「健康寿命の延伸には食事、運動、社会参加が基本。栄養面ではエビデンス(証拠)のある機能性食品も上手に活用してほしい」と述べた。

 健康寿命の延伸、フレイル(虚弱)やサルコペニア(筋力低下)の予防など、高齢者が知っておきたい情報は多い。樋口さんは「そうした情報を、該当年代の人たちにうまく行き届かせてほしい。変動の激しい時代を生きるための情報を国が提供する『第2の義務教育』のような学習機会を考えてほしい」と提案した。

 「セルフケアで健康寿命を延伸しようとすれば、お金の問題も切り離せない」と、蒲原さんは指摘。薬品と違い、ビタミンやミネラルなど機能性食品は継続して飲むことが多い。「ヘルスリテラシーに加えてお金のリテラシーも重要だと思う」と話した。

見果てぬ夢 見るのは高齢者の特権

蒲原 聖可氏

蒲原 聖可氏
高知県出身。徳島大医学部卒、同大学院修了。ディーエイチシー(DHC)特別研究顧問や健康科学大客員教授を歴任した。医療に関する著書も多数。

松本 志のぶ氏

司会を担当したフリーアナウンサーの松本 志のぶ氏

 これに対し、井戸さんは「不安を感じるのは、お金が入ってこないこと、健康でないこと、孤独であることが大きいと思う」と分析。改正高年齢者雇用安定法が4月に施行され、70歳までの就業確保が企業の努力義務となった。「何が足りないか、いつ赤字になるか、医療や介護が必要になったらいくらかかるのか、などを概算してみてほしい。健康寿命を延ばしたりセルフケアで予防したりすれば、概算ほどお金は要らない可能性も高くなる」

 健康寿命も平均寿命も、その差も、女性が男性より長い。樋口さんは「生き残るのは女性。でも稼いでいる期間が男性より短いから、年金も貯蓄も持ち家も少ない。あえて言うが、これからは『貧乏ばあさん』の社会だ」と指摘。「政策も必要だが、貧乏ばあさんをこれ以上増やさないという女性たちの自覚も必要だ」

 井戸さんも「老後は何歳からかとよく聞かれるが、働いていれば老後はやってこない」と強調。「年齢に関係なく、自分の好きなことで楽しく活躍し続けることだ。そうやって働き続けるには、健康と予防が非常に重要になる」と話した。

 「好奇心と、夢を持ってほしい」と語ったのは沢口さん。「大きな夢でも小さな夢でもいい。目的を持つと言ってもいいが、それだけで変わる」と力を込め、樋口さんも「見果てぬ夢を見るのは高齢者の特権。夢を語って共有すれば、必ず次の世代に受け継がれる」と賛同した。

ディスカッション

パネルディスカッションではアクリル板越しに活発な意見が交わされた

DHC

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