前編に続き、産婦人科医の遠見才希子先生(筑波大学大学院ヒューマン・ケア科学専攻社会精神保健学分野所属)に、「かかりつけ婦人科医を持とう~Find My Doctor~プロジェクト」の立ち上げメンバー4人(25歳女性、23歳女性、24歳男性、39歳男性)が、低用量ピル(以下、ピル)についての疑問や不明点をぶつけます。話題は不測の事態の対処法やパートナーとのより良い関係づくりなどに及び、ピルについての理解を深めます。
質問16. 海外製と日本製のピルの違いを教えてください
日本製のピルは医師の診察を受けなければ手に入りませんが、海外製のピルはおもに個人輸入(または業者による代行輸入)によってネット上で流通しています。海外では、ピルを安く市販化してネットで販売することが認められている国があるからです。
しかし、海外製のピルを日本で使用する場合は、国内未承認であることや法律上の問題のために、万が一、重い副作用が出たときに「医薬品副作用被害者救済制度」という国の補償制度の対象にならないという問題があります。海外製のピルが流通する背景には、日本製のピルが高額で手に入れにくいという環境があるため、正規ルートのアクセスを改善する必要があると思います。また、安全性が担保できないという問題もあります。
質問17. ピルは太る、肌荒れするといううわさを聞きました。本当ですか?
ピル自体の副作用で太るということはありませんが、ホルモンの作用によって食欲が増進する可能性はあります。また、飲み始めて3か月くらいでおさまる症状(マイナートラブル)のひとつには浮腫(むくみ)があります。
ピルの副効用には、ニキビの改善があげられており、肌荒れはむしろ改善する可能性があります。
質問18. 将来妊娠したいと思っていてもピルを飲んでいいですか
もちろんOKです。ピルは将来の妊娠への影響はありません。
質問19. ピルの服用で生理を止めることによって悪影響はないのですか
ピルのサイクルで出血を起こすこと、周期投与で休薬期間をおかずに出血を起こさないこと、どちらも体に悪影響はありません。(→前編質問3参照)
ストレスや体重の変化などによって生理が遅れることはよくあるので、毎月生理が来ることが健康のバロメーターという考え方もありますが、昔の女性は、妊娠出産回数が多く、生涯の月経回数が約50回であったのに対し、現代の女性は約450回といわれています。
重い月経困難症や不妊症につながる子宮内膜症は、月経回数が多いほど発症したり進行したりする可能性があるので、ピルで出血の量や回数を減らすことは健康維持にもつながります。
質問20. ピルを飲んでいることをパートナーには伝えるべきですか
ピルの服用は自身の健康を守る選択肢であり、避妊の選択肢でもあります。避妊はパートナーとの問題でもあるので、飲んでいることを共有することでより良いパートナーシップが築けるのであれば、伝えていいと思います。
ただ、伝えるか伝えないかの選択は部外者が決めることではありません。ピルを飲む自分自身が選択していいことです。
質問21. ピルとアフターピルは、どう違うのですか
避妊や月経に伴う症状などの改善のために毎日飲むのが低用量ピル、経口避妊薬(通称ピル)、避妊に失敗したときや性暴力被害にあったときなど、万が一のときにセックスから72時間以内に飲むのが緊急避妊薬(通称アフターピル)です。
質問22. アフターピルについて教えてください
アフターピルは、黄体ホルモンのお薬です。避妊が不十分だったセックスから72時間以内に1錠飲む薬です。ヤッペ法という中用量ピルを2回飲む方法は妊娠阻止率が低く、副作用も多いことから、現在は推奨されていません。安全性が高く、重大な副作用もなく、血栓症のリスクや将来の妊娠への影響もありません。排卵を遅らせる効果によって妊娠を回避するので、セックスの後早く飲むほど効果が高いです。
アフターピルを使用することで多くの妊娠は回避できますが、それでも妊娠の確率は約1~2%あります。避妊効果は、緊急時にアフターピルを飲むよりも、日頃からピルや子宮内避妊具を使用する方が高いのですが、バックアップとしてアフターピルは非常に重要な存在です。
質問23. アフターピルを飲まなければならない場面になったとき、まずはどうすればいいですか
低用量ピルと同様に、緊急避妊薬も日本では、医師の診察と処方が必要なので、受診をお願いします。おもに産婦人科で取り扱われていますが、最近は産婦人科以外やオンライン診療での処方もあります。自由診療(自費)で約6000円~2万円以上かかります。
性暴力被害の場合は、#8891(早くワン)に電話をかけると全国の性暴力・性犯罪被害者のためのワンストップ支援センターにつながります。性暴力の場合は、緊急避妊薬の費用が公費負担となる場合があります。
質問24. アフターピルを服用する際の注意点はありますか
アフターピルを飲むと排卵が遅れて、飲んだ後に妊娠しやすい時期がくる可能性があります。なので、緊急避妊が成功したかどうかわかるまでセックスを控えたり、コンドームを使用したりすることが勧められます。継続的な避妊を希望する場合は、低用量ピルや子宮内避妊具という選択肢があります。
避妊できたかどうかは生理が来るかや、妊娠検査薬(セックスから3週間後)でわかります。生理が1週間以上遅れたり、妊娠検査薬が陽性になったりすることがあれば産婦人科を受診しましょう。
ピルは、アフターピルを使った当日から開始できます。その場合、飲み始めて7日以上たたないと低用量ピルによる避妊効果は十分に出てこないので、注意が必要です。
質問25. アフターピルは病院に行かなければもらえないのですか
現状は、対面かオンラインでの医師の診療が必要です。海外では多くの国で薬局で安く販売されています。日本でもアフターピルを薬局で手に入れられるシステムを早急に整える必要があると思います。
質問26. アフターピルについて男性が知っておくべきことはありますか
「アフターピルは中出しできる薬」「アフターピルを飲めば72時間避妊効果がある」といった誤った認識をもっている人がいます。これらは間違いです。
アフターピルを使うことは、コンドームを使わない理由にはなりません。女性だけでなく男性もアフターピルのことを正しく知って、避妊や性感染症、性的同意など、性や体のことを一緒に考えて、より良いパートナーシップを築けるといいと思います。
質問27. 婦人科の内診台に抵抗があります。ピル処方の際は内診台に乗らないといけないですか
ピルの処方に内診台の診察は基本的に不要です。最低限、血圧測定と問診で処方できます。(→前編質問12参照)
生理痛が強い場合などはエコー検査をすすめられることがありますが、もし内診台に乗りたくない場合は、腟からではなく、おなかからエコーをあてることもできます。セックスの経験がない人に内診や腟からのエコー検査をすることは基本的にありません。どうしてもおなかからエコーが見づらく、しっかり診察しなければいけないときは肛門からエコー検査を行うこともあります。
どんな診察や検査でも、医師はその検査の目的を説明したり、患者さんの意志を確認する必要があります。内診台のカーテンがあったほうがいいかないほうがいいかについても、本来は患者さん自身が選べるものでなければならないと思います。実際の診察や検査についてわからないことや不安があればどうか遠慮なく医師や看護師に聞いていただければ幸いです。
質問28. 自分に合ったかかりつけ婦人科医の見つけ方を教えてください
産婦人科には妊婦さんだけでなく、子どもから高齢者まで幅広い年代の人が通院しています。
しかし、学校や仕事を休んで受診すること自体にハードルがあったり、金銭的負担が大きかったり、せっかく受診したのに医療者の対応などによって嫌な気持ちになったりして、産婦人科に抵抗を感じている人もいると思います。本来は、初経が来た頃や、性的パートナーができた頃から、産婦人科は体や性のことをなんでも気軽に安心して相談できる存在として、プライバシーやこころと体を尊重したヘルスケアを提供しなければならないと思います。
実際に診療を受けて、自分に合うか合わないかを判断しなければいけないこともあって恐縮ですが、健康をサポートするチームの一員として、かかりつけの婦人科医を見つけてもらえたらと思います。
質問29. 生理が煩わしいから(PMSなど)という理由でピルを飲むのは間違っていますか
ピルは基本的に避妊の薬ですが、月経に伴う症状やPMS(月経前症候群)を改善する効果もあるので、副作用や血栓症のリスクなどを知った上で選択することは間違ってはいません。
ちなみに女性の7割以上は月経前から月経中に、なんらかの不調を感じているといわれています。PMSの原因はいまだに解明されていないこともあり、ピルだけでなく、症状日記をつけて自身で症状を把握することや、精神科の診療をあわせて行うことで対処する場合もあります。
質問30. 最後にこの記事を読んでいる読者にメッセージはありますか
ピルは、女性の健康をサポートする選択肢のひとつです。ぜひメリットやデメリットを知って選択するかどうかを考えてもらえたらと思います。
「ピルを飲んでいる女性は性に奔放だ」といった科学的根拠のない、デリカシーのない声を聞くこともいまだにありますが、ピルを選択するということは、自分の健康を考えて行動した大切な選択だと思います。
ただ、女性ホルモンや生理の問題は、ピルだけで完全に解決することはできません。妊娠を望むときや、加齢などにより血栓症のリスクが上がってきたときなど、ライフステージや生活環境によって使えなくなることもあります。性や体の問題は、年齢やライフスタイルによって変化していくので、そのときどきで必要な情報やサービスにアクセスできる社会になるといいなと思っています。
※肩書等は取材時のものになります。