「産婦人科医の先生に低用量ピルに関する質問ぶつけてみた」の第2弾として、産婦人科医の高橋怜奈先生(四ツ谷レディスクリニック)に低用量ピル(以下、ピル)に関する疑問を15問ぶつけました。高橋怜奈先生はピルに限らず、産婦人科や産婦人科医が診療対象とするさまざまなテーマについて(「生理つらい。産婦人科医ならどうする?」、「私の子宮頸がん検診見せます」など)YouTubeやSNSを通じて情報発信し、とりわけ10代を中心とした若年層に受け入れられています。それでは1問目にまいります。
質問1. ピルはそもそもどういった人が使用するものなのでしょうか
生理前に身体的、精神的不調を伴う月経前症候群(PMS)や生理期間中の腹痛・頭痛・吐き気などの重い症状を指す月経困難症や「過多月経」など、主に生理で困っていてその症状を改善させたい人というのが一つ。または、避妊を目的として服用する人、との二つの用途で用いられます。
質問2.「周期投与」と「連続投与」とがありますがどのような違いがありますか
毎月休薬期間を設けて生理を定期的に起こさせるのが周期投与です。一方、年数回の休薬期間の他は連続で服用し、生理の回数を減らしたり生理の発生そのものをコントロールしたりするのが連続投与です。もちろん個別の患者さんの状況や希望次第ではありますが、生理の回数は減らした方が生理に伴う様々な症状の改善や月経前症候群の症状も少なくなるので、個人的には連続投与でいいのではないかと思っています。
質問3. 保険適用されるピルはどのようなものですか
生理痛やPMSなど、生理に関して何かしら困っている方には「月経困難症」という病名で診断し、保険適用が可能になります。ただ、医師によっては「生理中におなかが痛くなる」という症状がないと月経困難症とは診断されない場合もあります。しかし、月経困難症の医学的な定義からいくと、月経時に随伴する何かしらの症状があれば月経困難症と言えるのです。
質問4. 「避妊目的」でのピルの処方は保険適用されないということですね
はい。現状では、「避妊目的」だけでの処方については保険適用が認められていません。 ただ、目的が避妊だけでは保険適用にはなりませんが、診察でさまざまな話をお聞きしていく中で、「実は生理痛もひどくて」というような何かしら生理中の症状のお話が出てきた場合は保険適用にできる場合も多いです。そのため、診察時の医師とのコミュニケーションがとても重要ですね。
質問5. ピルを服用上の注意点はありますか
ガイドライン上、慎重投与や禁忌の事例に当てはまっていないかは問診でしっかりチェックします。
喫煙者や肥満の方、血圧や糖尿病等についてはかなり細かく問診します。また、セイヨウオトギリソウ(セントジョーンズワート)などを使用したサプリメントを併用している場合、避妊効果が減弱するので注意が必要です。あとは血栓ができるリスクもピルを服用していない人と比べると少し高くなるので、何かあったら医者にご相談ください、と伝えています。
ただ、この血栓リスクについては「患者さんを怖がらせ過ぎない」というのも重要です。エストロゲンという女性ホルモンの影響で血栓ができやすくなりますが、海外の疫学調査によると、低用量ピルを服用していない女性の静脈血栓症発症のリスクは年間1万人あたり1~5人であるのに対し、低用量ピル服用女性では3~9人と報告されています。
一方、妊娠中および出産後12週間の静脈血栓症の発症頻度は、年間1万人あたり、妊娠中は5~20人、出産後は40~65人と報告されています。なので、ピルを服用していない人と比較し服用している人のリスクは高くなりますがそこまで怖がりすぎる必要はないという話も併せてしています。
質問6. 費用はいくらくらいかかりますか?
保険適用で一番安いものだとフリウェルというもので、3割負担で1,000円以内、それ以外の保険のピルだと2000〜2700円くらい。自費のピルだと医療機関によりますが1か月2,000〜4000円くらいです。
質問7. 通院する頻度を教えてください
保険適用のものは3か月分までの処方になるので、3か月に1度の通院となります。自費のピルであれば半年に一度くらいは何か症状がないかなど確認することになると思いますが、これは医療機関によってバラつきがあるところだと思います。
質問8. 飲み続けるにあたって検査など必要ですか
血圧と体重は定期的に測りましょうということになっています。血液検査は症状やリスクがなければ必須ではありません。肝機能が引っかかる人などいるので、心配な患者さんに対しては採血したりしますが、このあたりは医療機関によって異なるところです。一般的な子宮頸がん検査や超音波検査などは定期的にしていただくようお勧めをしています。
質問9. 昨今のコロナ環境下で注目されるようになった、オンライン診療のメリットについて教えてください
やはりわざわざ病院に来なくていいのは時間や労力だけでなく心理的にも負担は軽くなると思います。とりわけ地方や遠隔地の場合だと顕著です。地方や遠隔地では近くに産婦人科のない地域で特にこのオンライン診療が重宝されるようになってきています。
地方だとピルに消極的な産婦人科も散見されるようです。Webなどで調べてみると、ピルを積極的に処方してくれるようなクリニックはオンライン診療を受け付けている場合が多いような気がします。また、地方の患者さんからよく聞くのは、地域の産婦人科で受診するとすぐにうわさが立ち、広がりやすい。「あの子、制服で産婦人科言ってたわよ」みたいにすぐうわさされてしまう。そういう点で、自宅から簡単にアクセス可能なオンライン診療で気軽にもらえるというのは大きなメリットですね。
質問10. 一方で、オンライン診療のデメリットは?
テレビ電話だと話はできますが本来の診察はできません。初回から以後もずっとオンライン診療を希望される場合だと、血圧測定や採血や子宮頸癌検診など本来しなければならない診察ができないので、実際に来てもらうメリットは診察を受けられるというところです。
また、コミュニケーションという点についても、やはり対面の方が話しやすく、微妙なニュアンスも伝わりやすいことが多いと思います。
患者さんによっては漫然と以前処方されたものを服用し続ける場合がありますが、実はよくよく身体の具合や服用した際の細かな変化について話を聞いてみたら、他のピルに変えるともっと自分に合うピルが見つかった、といったケースがよくあります。ですので、オンライン診療を受けられる場合は、事前に自分の症状や細かな変化についてまでメモしておいて受診に臨むのがいいと思います。
質問11. ピルを服用することのデメリットについてもう少し詳しく教えてください
先ほども言及した通り、服用していない人と比べると血栓症のリスクが上がります。あと、子宮頸がんのリスクも若干ながら上がります。HPVワクチンを打ったり、子宮頸がん検診を実施したりすることでこのリスクはカバーできます。
質問12. 低用量ピルを使用することで、妊娠に影響はありませんか
一切ありません。むしろ長期的にピルを服用していた方が妊娠しやすさが上がる、という論文やデータもあります。私個人としても、適切にピルを服用していた方がいいと思っています。
ピルは排卵を抑制することによって卵巣の壁を奇麗に保つことができます。排卵は毎回卵巣の壁を突き破るプロセスがあるのですが、これによって少しずつ卵巣の壁が傷つきます。それが卵巣がんのリスクになったり、繰り返す排卵で卵巣の壁が硬くなったりし、本当に排卵したいときに排卵しづらくなる可能性があります。ピルを飲むことでこの卵巣の壁を奇麗に保つことができるのです。
質問13. ピルを飲んでいる女性をパートナーに持つ男性が知っておくべきことはありますか
ピルを飲んでいるからといって100%避妊できるわけではありません。下痢や体調不良などで身体に吸収されずに、毎日飲んでいるのに妊娠してしまうという方もごくまれにいらっしゃいます。
また、ピルを飲んでも性感染症予防にはならないので、性感染症予防をしたいのであればコンドームは使用するべきです。ピルとコンドームなど2つ以上の避妊方法を掛け合わせると万全だと思います。
質問14. ピルは太る、肌荒れするといううわさを聞きました。本当ですか
今までのたくさんの研究によりピルと体重増加には因果関係はないとされています。服用初期は体質によってむくみなどがある方もいらっしゃいますが数か月すると改善されるケースが多いです。それでもあきらかにむくむ、という方がいらっしゃった時はピルの種類を変えたりすると改善する場合があります。
また、排卵によるホルモン変動で一時的に肌荒れを起こすことがあります。ピルの中でも男性ホルモンが含まれているものと含まれていないものがあり、含まれていないピルは肌荒れが改善しやすいです。その代わり男性ホルモンが入っていないものの場合、活力や性欲が落ちるといった反応がみられる場合があります。ですので、患者さんの一人一人の改善したいポイントを聞きながらピルを選んでいきます。
質問15. SNSやYouTubeを通じて、産婦人科について精力的に情報発信されています。これらの活動に対する反響や受け手の反応について、さらにこれにかける高橋さんの思いを教えてください
私がSNSで医療情報の発信をしている理由は、産婦人科を受診しない人に正しい情報を届けるためです。
産婦人科を受診する人には、病気に関すること、予防や検診についてじっくり説明することはできますが、そもそも産婦人科を受診できる人ばかりではありません。特に小中高生は症状があっても親に言えなかったり、親に言っても「産婦人科はまだ早い」とか「生理痛があるのは当たり前」と言われてしまったり、そしてそれが当たり前になってしまうと、その人たちが大人になった時にも、まず余程のことがなければ産婦人科を受診することはないでしょう。生理痛があるのは当たり前じゃない、我慢しなくていい、ワクチンや検診は大事。そんな事を知ってもらうために、日々発信しています。何げなくSNSやYouTubeを開いた人が、もっと人生をよくするために医療を利用できるようになればいいなと思っています。
※肩書等は取材時のものになります。