大阪・八尾で、地域の患者や家族と真摯に向き合う
最期のときまで患者の体と心に寄り添い、
在宅医療、在宅看取りの普及と充実に尽力
「しろばとクリニック」は2010年4月、栗岡宏彰院長が開業。一般診療、検診のほか、在宅医療に尽力してきた。在宅看取りをより充実させ、八尾での取り組みが日本のモデルケースになることを目指している。
院長
栗岡 宏彰
くりおか・ひろあき/日本内科学会認定総合内科専門医、日本救急医学会認定救急科専門医、日本消化器内視鏡学会認定消化器内視鏡専門医。
自分らしく、満足して最期まで暮らせる療養環境を整備
「末期がん患者様の中には、亡くなるギリギリまで抗がん剤を飲み、最期まで諦めずに闘病を続ける方もいれば、しかるべきタイミングで緩和ケアに切り替え、行きたい場所を訪れたり会いたい人に会ったり、家族に伝えておきたいことを伝えたりと人生の総まとめのような時間を持つことで非常に満足して亡くなられる方もおられます」
そう語るのは、大阪府八尾市で在宅医療に尽力している「しろばとクリニック」の栗岡宏彰院長だ。
元勤務医だった栗岡院長は「自分の関わった患者様は最後まで責任を持って診たい」との思いから同院を開業。以来11年間にわたって八尾市を中心とした在宅医療に取り組んできた。現在、同院が診療する患者は約150人。年間約120人を在宅で看取っている。
2015年には末期がんや神経難病などの患者を入居対象とした「しろばと緩和ケアホーム」(八尾市山賀町)や、医療依存度が高い人のためのサービス付き高齢者向け住宅「しろばとメディカルケアホーム」(八尾市桜ヶ丘)を開設。いずれも看護師が常駐し、栗岡院長が1日数回巡回。病院と老人ホームの中間的位置付けの施設だ。ふだんは自宅で療養し、容体が悪化した場合はこちらにきてもらうなど、これまで同院は、在宅で療養する患者の要望やニーズに沿った施設、仕組みを築き、一人ひとりに寄り添ってきた。
「『寄り添う』というのは、倒れないようにぎゅっと掴むのではなく、倒れそうになった時にそっと支えるということ。自分らしく、ふだん通りに、満足して暮らして頂けるよう努めています」と栗岡院長は微笑む。
「多くの方は、『最期のときをできれば住み慣れた自宅で迎えたいけれど、同居家族に迷惑をかけたくない』、『病気になったら病院に入院し、病院で死ぬのが当たり前』などと思っておられるかもしれません。けれども、私たちの『生き方』が自由であるように、『死に方』についても自分で選択ができ、その仕組みはすでにあるのです」
医師
高田 宏宗
たかだ・ひろむね/ 2011年自治医科大学医学部卒業。2021年3月しろばとクリニック入職。日本精神神経学会認定精神科専門医。
在宅看取りを普及させるために必要なこと
2025年には団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)に達し、超高齢化が進む日本。近年、日本人の約8割は病院で亡くなっているが、病院には団塊の世代を看取れるだけのベッド数はなく、2040年には41万人もの「死に場所難民」が出るとの試算もある。そのため、在宅での看取りの普及が期待されているが、「在宅医療は思うように広がっておらず、病院で亡くなる人は減っていないのが現状」と栗岡院長はいう。その理由として次の2点を挙げる。
一つには、本人や家族が自宅での看取りは無理だ、介護力がないので難しい、などと思い込んでいること。「それで施設に入るわけですが、医療依存度が高くなると『うちでは診られない』と退去を宣告され、病院へ入院することになるわけです。しかし、独居の人がホームヘルパーの助けを借りて看取りができていることからもわかるように、おむつ交換、入浴、調理、食事介助など家族の介護力不足は介護保険制度の在宅介護サービスで十分に補えるんです。ヘルパーの助けを借りながら、定期的な医師の訪問診療や訪問看護を受ければいいのです。このように在宅医療と在宅介護の仕組みを活用すれば在宅での療養、看取りを行うことができるということを知らないご家族が多いので、ぜひ知ってもらいたいです」
二つ目は、在宅看取りをする医師がなかなか増えていかないこと。「訪問診療医は患者からの呼び出しがあれば、24時間365日、いつでも駆けつけて診る義務がありますが、診療所は医師一人体制が多く、診るのは容態が安定した患者様が中心になります。在宅看取りができるのは24時間対応をしている頑張り屋の先生がいるところだけというのが実情なんです。私もこの11 年間、1時間以内で戻ってこられる圏内で生活してきました。しかし、そうした医師の努力に頼るのではなく、在宅医療を行う診療所同士が『看取り当番制』といったシステムを作って互いに連携し、複数の医師たちが看取れる持続的な体制を整えるべきです」
栗岡院長は11年間の経験から、診療所と訪問看護ステーションといった医療従事者同士の繋がりや、患者のそばにいる介護者と医師、看護士との緊密な連携が肝要だとも指摘する。「自宅で看取りするのが当たり前の国になってほしい。そのためにも、この八尾地域での在宅医療をより充実させ、日本のモデルケースとなるようにしていきたいというのが私の願いです」
「救えない命、心だけは救う」を信条に
開業以来、同院は栗岡院長一人体制だったが、今年3月からは新しく高田宏宗医師が加わり医師2人体制に。「治療が主な目的の病院とは違い、在宅は患者様の生き方、要望に沿って支えていくというスタンス。その軸がブレないよう自分たちができることをやっていく」と高田医師。同じ患者を2人の医師が診療するスタイルをとることで、患者の心により深く寄り添い、在宅医療の質をさらに高めていくつもりだ。
栗岡院長の信条は一貫している。それは「救えない命、心だけは救う」だ。「特に末期がん患者様の場合、命は救えなくても心だけは救ってさしあげられる、そんな在宅医療をこれからも行っていきたい」と力を込めた。
■サービス付き高齢者向け住宅
しろばとメディカルケアホーム
〒581-0869 大阪府八尾市桜ヶ丘1-3TEL.072-929-9401
http://www.shirobato.com/medical/
■在宅医療相談所も併設
しろばと在宅医療介護情報センター
ご相談はこちらまで
TEL 072-924-5070
FAX 072-924-5071