2050年の脱炭素社会実現への道筋を考えるシンポジウム「読売カーボンニュートラル・デイ Vol.3」が8月30日、オンライン形式で開かれた。※GX(グリーン・トランスフォーメーション)の本格始動にあたり、企業・団体や経済産業省をはじめとする関係省庁の各担当者が、温室効果ガスの排出削減と経済成長を両立する方策などについて意見を交わした。(各肩書は8月30日時点)
オープニングトーク:世界の取り組み 日本が先導役に
◎経済産業副大臣 太田房江氏
気候変動対策、エネルギー安全保障、経済成長を同時に進めるにあたって、大事にする考え方が三つある。各国の事情に応じた多様な道筋によるエネルギー移行、イノベーション(技術革新)の促進、世界全体で脱炭素化を進める――だ。
GX推進法など二つの法律が成立した。「GX経済移行債」による投資の促進やカーボンプライシングなどを組み合わせ、新技術の社会実装を前倒しする。
世界全体の脱炭素化に向けた取り組みの一つは、九つの国際会議を集中的に開催する東京GXウィーク(25日~10月5日)だ。参加閣僚などの全体会合、水素の供給拡大に向けた国際協力を議論する場を設ける。アジアが対象の「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」構想も、日本が先導して進めていく。
基調講演:カーボンニュートラルの推進が描き出す世界の姿
◎東大名誉教授 伊藤元重氏
GX推進投資が重要に
産業革命の時代から、我々は温暖化ガスを出す生活をし、地球全体に影響を与えてきた。皆が加害者であり被害者である壮大な規模の「市場の失敗」であり、是正にはその市場の力を活用するしかない。
GXは、経済成長を促す原動力として推進していくことが大事となる。キーワードは、「創造的破壊」。化石燃料の発電をやめて別の発電方法に変えるなど、今の仕組みを破壊し、新しい取り組みに大胆に挑戦することだ。
国内で投資を進めることも重要といえる。再生可能エネルギーの導入をはじめ、GXに向けた研究・技術開発、人材育成などへの大量の投資は、経済に大きな影響を与える可能性が高い。
世界中がこれに気付いており、主要国ではGXに関する政策競争が始まっている。欧州は「グリーンディール」という名のもとに大規模な投資を行い、アメリカは近年まれに見る巨額の財政資金を想定している。
重要なのは競争に勝つことではない。海外の動きから学びを得て、GXを積極的に促す政策を進め、経済を活性化させることだ。
GXの推進には、10年間で官民合わせて150兆円ほどという膨大な規模の投資が必要と見込まれている。政府が発行する新たな国債「GX経済移行債」で20兆円規模の資金を調達し、150兆円の呼び水にする。
この構想で重要なのは、(温室効果ガスに価格をつけ、排出者に負担を求める)カーボンプライシングの考え方を持ち込んだことだ。カーボンプライシングは、かなりの規模の税収を生む可能性があり、GXの投資に使えば、非常にうまく回る。負担が少しずつ増えることを事前に示せば、個人も企業も準備として色々な行動を起こすことができる。
GXの推進には、国民全体が気候変動問題を意識し、どんな仕掛けをつくり、どう行動するかを考える必要がある。政府が、あるところまでは積極的に関与し、同時に国民全体が取り組めるような政策を進めることがカギを握る。
主催=読売新聞社
後援=経済産業省、環境省、林野庁
協賛=千代田化工建設、Earth hacks、NTTドコモ、三菱地所、東京証券取引所、ナイス
協力=日本ウッドデザイン協会、日立製作所
* 日本ウッドデザイン協会は、木のある豊かな暮らし、木材利用、脱炭素など、木を活用した社会課題解決を推進している。脱炭素プロジェクトを推進している読売新聞東京本社は、本年8月に同協会に入会した。