地域からも脱炭素へ!地域はどんな取り組みを?~ニッポンの未来フォーラムVOL.2<後編>

EVENT
2023.2.3
地域からも脱炭素へ!地域はどんな取り組みを?~ニッポンの未来フォーラムVOL.2<後編>

→前編から続く

【第2部〈1〉】天然ガスから考える これからの社会像
 ◆持続可能社会を開く

――カーボンニュートラル社会の実現に向けた東京ガスの取り組みは。

小西雅子・東京ガス執行役員 ガスと(火力発電による)電気を使うと二酸化炭素(CO2)を排出する。そのため、お客様と一緒に取り組むのが大事になる。低炭素化、脱炭素化が大きな柱だ。

低炭素化は、省エネルギー効果が高い機器に変えたり、環境にやさしいエネルギーに置き換えたりすることが挙げられる。東京ガスではカーボンオフセットに力を入れている。脱炭素化では、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーを使う取り組みがある。

東京ガス執行役員 小西雅子氏
東京ガス執行役員 小西雅子氏

――カーボンオフセットとは。

小西氏 CO2の排出量を可能な限り減らし、それでも削減できない分は、森林などで削減、吸収した分と差し引きゼロにする考え方だ。脱炭素の技術はすぐに実現できるものばかりではない。

吉高氏 カーボンオフセットは、コストが高いと導入しにくい。その場合、CO2を減らすことに価値をつけたカーボンクレジットを購入する方法がある。クレジットは国際連合や政府が主導して認証するものと、民間や任意の団体によるものと主に二つある。

――カーボンオフセットの取り組みは、日本ではどう捉えられているのか。

保坂氏 一番良いのはCO2を出さないことだが、なかなかすぐにはできない。(排出量の多い)鉄鋼や化学などの技術や生活水準を維持するため、2050年でもCO2の排出は続くだろう。地球単位でカバーする、最後に残る手段となる。

――カーボンオフセットの仕組みを生かした東京ガスの取り組みは。

小西氏 ーボンニュートラルLNG(液化天然ガス、CNL)を推進している。森林保全や植林でCO2を吸収、削減したクレジットを購入することによって、天然ガスの採掘から利用までに排出した分のCO2を埋め合わせ(オフセット)する。19年に日本で初めて導入し、多くの企業や自治体、法人にガスを届けてきた。

この取り組みを推進するため、カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンスという団体を設立した。

カーボンニュートラルLNGの仕組み
カーボンニュートラルLNGの仕組み

<福島県いわき市の化学工場は、エネルギー源を重油から天然ガスに切り替えた。多くの熱を必要とするため、環境負荷を減らすのが目的だ。CO2削減につながることを期待し、CNLバイヤーズアライアンスにも参加している。商業施設のルミネもCNLを導入した。参加企業が採用するCNLのクレジットは、インドネシア・カリマンタン島での森林保全プロジェクトの支援に活用されている。>

五味氏 地域の森林という身近なところで環境を保全し、気候変動対策にもなる仕組みができるのはいいことだと思う。

国立環境研究所福島地域協働研究拠点室長 五味馨氏(オンライン参加)
国立環境研究所福島地域協働研究拠点室長 五味馨氏(オンライン参加)

――CNLバイヤーズアライアンスへの参加企業が増えている。

小西氏 環境への貢献だけでなく、世界が抱える社会的な課題を解決できる側面に共感する企業は多い。

特に生物多様性の保護や雇用の創出といった、SDGs(持続可能な開発目標)の観点からもCNLは非常に重要な意味合いを持っていると思う。

クレジットの情報がわかりやすく、開かれたものであることが重要だ。良質なクレジットが評価される仕組みも必要で、日本や海外で評価される制度があれば、広がっていくのではないか。

吉高氏 大きな資金が動くので、過去には様々な犯罪も起きている。国連や政府が国際的な基準、認証制度を作って、安心して資金を拠出できる仕組み作りが必要だ。

<横浜市内の東京ガスの研究所では、CO2と水素を人工的に合成し、都市ガスの主要な成分となるメタンを作り出すメタネーションの研究が進んでいる。見た目も性能も既存のガスと変わらず、家庭内のガス機器や地域に供給するインフラ設備がそのまま活用できる。将来的には、住宅や工場から排出されたCO2を資源として循環させることも検討している。>

――国はメタネーションをどう見ているか。

保坂氏 嫌われていたCO2が、原料としてメタンを生み出すことになる。燃焼によって排出されたCO2に水素を結びつけて使い続ける仕組みができればいい。国際的なルール作りと、水素のコストを下げることをセットで進める必要がある。

――事業者としてはどのように普及を目指すか。

小西氏 今あるものがそのまま使えるのは魅力的なので、研究を加速して進めている。横浜では、技術確立のほか、水素や電気の融通といった、地域との連携についても検証している。

30年に向け、都市ガスの1%を合成メタンに変えることを目指し、海外での実証にも着手した。具体的には、商社やエネルギー会社と一緒に研究を始めていて、今ある都市ガスの基地や船をそのまま使い、海外から日本に持ってくるということを考えている。

五味氏 再生可能エネルギーだけですべてを賄うのは難しい。安心してガスを使うためにも導入を進めてほしい。


〈カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンス〉
 カーボンニュートラルLNG(CNL)の普及拡大を目指す団体。企業や法人、自治体で構成する。東京ガスを中心に2021年3月に設立し、現在は71団体が参加している。参加企業はオフィスビルや工場での燃料としてCNLを積極的に利用する。

【第2部〈2〉】
 ◆地域発!カーボンニュートラル社会とは

――各地に郵便局がある日本郵政にとって、地域が抱える問題も乗り越えるべき課題なのではないか。

増田寛也・日本郵政社長 その通り。1000近い自治体は人口も減っており、支所や出張所を縮小して本庁だけで仕事をしようとしている。全国2万4000の郵便局ネットワークを公的な地域の課題を解決する拠点に使えないか。そういう考え方でカーボンニュートラルについても役割を果たしていきたい。

日本郵政社長 増田寛也氏
日本郵政社長 増田寛也氏

<静岡県の沼津郵便局は電気自動車(EV)と電動バイクを導入した。走行距離が長く、高低差のある地域での効率的な運用を探っている。電源として再生可能エネルギーを購入し、ガソリン車から移行した分のCO2の排出はゼロになった。高校生と共に環境について学び、地域に啓発する取り組みも進めている。東京都立千早高校の生徒たちは、人や環境に配慮した「エシカル商品」を効果的に伝える方法を近くの郵便局で実践し、検証した。>

――日本郵政の仕事は、バイクを始め、CO2を排出することになる。

増田氏 我々の多くの社員はエッセンシャルワーカーで、リモートワークで完結できない、移動を伴う仕事を担っている。EVに切り替えるという方向性は示しているが、1年間通してそれで大丈夫かどうか。

たとえば冬場は充電性能がうんと落ちる。1年間、正確にデータを取ってみないとわからない。

ただ、ガソリン車に比べて維持コストは半分になる。初期費用は高いが、国の導入支援もある。11年間使うとトントンだ。電動化によるハンデは費用の面ではないと思っている。

うちのようにネットワークのあるところは、地域の特性がだいぶ違う。沼津だけでなく、栃木県小山市でもやっているが、こちらはかなり寒冷地で、走行パターンも変わってくる。地域にあったやり方で広げていきたい。

――太陽光発電を導入した沼津郵便局の電力消費に変化は。

増田氏 データをみると、正午から午後2時にかけて電力使用量が増える。走行車両が郵便局に戻って充電をするからだ。また、温度が上がると再び使用量が増えることがわかった。この(使用量の)山をいかに崩すか。配達時間を大幅にずらすことができれば、最初の山はかなり崩せる。この基礎データを基に、他の要素を組み合わせていきたい。

【沼津郵便局での太陽光発電量と電力消費量】
【沼津郵便局での太陽光発電量と電力消費量】

五味氏 複数の拠点がある郵便局のデータは重要。海外でもお手本になる活動だと思う。敷地内の太陽光パネルで電動バイクの充電もできるようになるのではないか、期待している。

――千早高校と郵便局の取り組みについて。

増田氏 環境に関心を持つ人が非常に多いという点を素直に喜びたい。単に商品を販売するのと、高校生がエシカルの意味を学んだ上でお客様に説明するのとでは違いがあるはずだ。郵便局はリアルの拠点でもあるので、そういう社会課題を伝えるうえでも意味があると思う。

地方の郵便局はお客様と個別の関係を築くことができるところが多いと思う。エネルギーだけでなく、地域課題を解決する相談の拠点にしていきたい。

郵便局でエシカル商品をPRする千早高の生徒(東京都豊島区で)=NHKエンタープライズ提供
郵便局でエシカル商品をPRする千早高の生徒(東京都豊島区で)=NHKエンタープライズ提供

<奈良県生駒市はエネルギーの「地産地消」を進めている。市民団体などの出資を受けて電力供給会社「いこま市民パワー」を設立し、小水力発電や太陽光発電など、再生可能エネルギーで電力を供給している。郵便局は生駒市と協定を結び、電力の販売取り次ぎを担っている。独自の取り組みとして地元の福祉施設が生産した加工品も販売する。農薬を使わず、輸送距離も短いため、CO2の排出減につながる。>

――生駒市の取り組みをどうみるか。

保坂氏 すばらしいと思う。ロシアのウクライナ侵略の後、エネルギーの価格が下がる見込みのないことを考えると、地方の分散型電源と地産地消は、現実的な考え方だ。

――全国には様々な課題がある。郵便局のチャレンジとは。

増田氏 地域の課題をできるだけ発掘し、解決に貢献していきたい。できる分野とできない分野がある。できない分野は、課題に取り組める別のところにつなげばいい。地域の課題を社員全員が知る機会をもっと増やしたい。

若手社員の公募制で、地域に1人ないし複数の社員を派遣している。抱える課題はそれぞれ違うが、何か貢献できればと思っている。日本郵政と協業できるビジネスを発掘するようにと言っている。地域になじんで勉強し、物事を解決する思考を体験してもらうのが大きな目的だ。

――外から入ると、地域の良さに気付くこともある。

増田氏 例えばファンドというと、地元では拒否感がある。環境を前面に出し過ぎるとうまくなじまない。郵便局という名前だと、比較的受け入れやすくなるのではないか。

郵便局員は以前、国家公務員だった。公的ネットワークには比較的なじみがある。そこをどれだけうまく生かしていくのか、感覚を鋭敏にしたい。ただ、わくわくした気持ちがないと長続きしない。

理想論だけでなく、「郵便局を使うと三方よしになる」ということを考えたい。

登壇者一覧

◇三菱商事執行役員 岡藤裕治氏
◇資源エネルギー庁長官 保坂伸氏
◇ウェンティ・ジャパン社長(秋田の風力発電事業者) 佐藤裕之氏
◇東京ガス執行役員 小西雅子氏
◇三菱UFJリサーチ&コンサルティングフェロー 吉高まり氏
◇日本郵政社長 増田寛也氏
◇国立環境研究所福島地域協働研究拠点室長 五味馨氏

主催=読売新聞社、NHKエンタープライズ
後援=環境省、経済産業省
協賛=三菱商事、日本郵政、東京ガス(カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンス)

地域からも脱炭素へ!地域はどんな取り組みを?~ニッポンの未来フォーラムVOL.2<後編>
EVENT
2023.2.3