「ニッポンの未来フォーラム VOL.2 気候変動に挑む地域 地球の未来へ」が昨年12月11日、東京都内で開かれた。民間企業や行政からパネリストが参加し、温室効果ガスの削減に向けた取り組みを話し合った。コーディネーターは元NHK解説委員の柳澤秀夫さんとフリーアナウンサーの草野満代さんが務めた。
【第1部】地域とともに 「洋上風力発電」で描く未来
――温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の実現にどう取り組んでいるのか。
岡藤裕治・三菱商事執行役員 三菱商事は2021年に、ロードマップ(工程表)を公表した。30年度までに温室効果ガスを半減する。エネルギートランスフォーメーション(EX)関連に2兆円規模の投資を行い、デジタルトランスフォーメーション(DX)と一体化して新たな未来創造に挑戦する。
洋上風力を始めとする再生可能エネルギーに加え、水素やアンモニアといった次世代エネルギーにも取り組む。移行期間におけるエネルギーの安定供給に対する責任も果たしていく。さらに、デジタル技術も活用して地域の課題に対応する。この結果、生産性の高い社会、自立分散型の豊かなコミュニティーを目指していきたい。
――再生可能エネルギーの国の取り組みは。
保坂伸・資源エネルギー庁長官 国内で太陽光発電の導入は進み、平地に占める太陽光の量は世界一になった。今後は洋上風力への期待が非常に大きい。30年に1000万キロ・ワット、40年には3000万~4500万キロ・ワットの導入目標を掲げている。実現に向け、毎年200万キロ・ワットほどの入札を進めていて、今後10年間続けていく計画だ。
――民間企業との間で情報交換や展望の共有はできているか。
岡藤氏 洋上風力に関しては官民協議会を設立し、政府と民間企業が連携を取る体制ができている。国には地域や地元自治体といった関係者に同意を得る段階などで支援してもらい、進めていく必要がある。
保坂氏 セントラル方式という、国も入って地元と話し合いをする方式を考えている。国も一歩前に出て議論をする形だ。
――なぜ洋上風力に参加しようと思ったのか。
岡藤氏 再生可能エネルギー先進地域の欧州で、10年以上前から洋上風力の発電事業に取り組んでいる。国内でも21年に初めて一般海域の洋上風力発電の事業者を選ぶ入札が実施され、欧州での知見を生かそうと参加した。その結果、秋田県の2海域、千葉県の1海域の事業者として選ばれた。この3海域の発電量は計170万キロ・ワット程度になる。
――洋上風力発電の課題は。
岡藤氏 30年にわたる長期の事業。大切な資源である風を使わせてもらう。地域との連携が欠かせない。決して押しつけではいけない。地元の声を聞きながら、丁寧に取り組むという視点が大事だと考えている。
<秋田県では国内最大規模の洋上風車の建設計画が進む。28~30年の稼働に向け、由利本荘市沖に65基、能代市、三種町、男鹿市沖に38基の風車が建つ予定だ。昨年11月には世界洋上風力サミットが秋田県で開催された。県内では、風力発電を地場産業にしようと企業連合「秋田風作戦」も発足し、建設業や金融など約130社が参加している。風車が海の生態系に与える影響については、千葉県銚子沖で魚の数や種類の変化を調査している。銚子沖では28年の運転開始に向け、31基の洋上風車が建設される予定だ。各地で洋上風車と地域共生の取り組みが進んでいる。>
佐藤裕之・ウェンティ・ジャパン社長 地元企業と協力して「秋田風作戦」を13年に作った。厄介者だったシベリアから吹いてくる北西風、これを日本のエネルギーを支える産業として地域を元気にするネタにできるのではないかと研究を始めた。
風力発電だけではなく、部品製造など、関連する産業をつくっていこうとしている。(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させる)カーボンニュートラルを日本で支えているのは秋田。いわゆる「地域プライド」を持つことが大事だと思っている。
――この取り組みをどう思うか。
吉高まり・三菱UFJリサーチ&コンサルティングフェローカーボンニュートラルの流れで今、産業構造の変革が始まっている。地元の人にとって、これまで当たり前だと思っていたものが、外から見れば価値がある。秋田には、洋上風力も地熱もバイオマスもある。
――漁業者を含め、地元と入念に話し合うことで地域の理解も得られてきた。
佐藤氏 全国共通の課題だが、魚のエサ場となる藻場が減少して魚が沿岸からいなくなっている。それが海の中に風車が建つとそのまわりに魚が集まって、魚礁ができる展望がたってきた。今まではわからない中で「不安だ」と言われていたものが、いろいろな会話やデータを見ながらわかってきたことが大きいと思う。
五味馨・国立環境研究所福島地域協働研究拠点室長地元の産業とつなげて、そこでできるだけ作れるものを作るというのはすばらしい。ぜひ秋田方式として、世界に紹介してほしい。
――地域と共に作り上げる洋上風力。こうした事例をどう捉えているか。
岡藤氏 事業を通じて地域と一緒に取り組む事例がたくさん出てきている。発電だけの一過性の取り組みではなく、長期にわたる事業として地域が豊かになることで、私どもの事業にも返ってくる。事業が地域活性化の源泉になっていけばいいなという思いで取り組んでいる。こうした思いを、地域にいる方々と一緒に根を張って伝えていくことが大事だ。
保坂氏 太陽光の導入は進んでいるが、パネルは国内産になっていない。洋上風力は欧州で先行していたが、なるべく国内でサプライチェーン(供給網)を作り、国内のビジネスにして、地域の活性化につなげることを推奨していきたい。
太陽光発電の固定価格買い取り制度のように、洋上風力でも、一定期間は固定価格で買い取りが進む保証をしていく。市場価格にそろう形まで支援しながら、最終的にはマーケットの中で回っていくことを想定している。
登壇者一覧
主催=読売新聞社、NHKエンタープライズ
後援=環境省、経済産業省
協賛=三菱商事、日本郵政、東京ガス(カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンス)