2050年の脱炭素社会実現への道筋を考えるシンポジウム「読売カーボンニュートラル・デイ vol.2」が8月25日、オンライン形式で開かれた。ノーベル化学賞受賞者の吉野彰・旭化成名誉フェローが、「カーボンニュートラル社会の実現に向けて」と題して基調講演を実施。トークセッションでは、渡部肇史・電源開発社長や経済産業省、環境省、企業の担当者が、再生可能エネルギーの普及策などについて議論した。
セッション2:GXリーグへの期待と課題
◎経済産業省環境経済室長 梶川文博氏
◎東京証券取引所カーボン・クレジット市場整備室長 松尾琢己氏
◎アストラゼネカジャパンサステナビリティディレクター 光武裕氏
排出量取引を実証
――GX(グリーントランスフォーメーション)リーグの構想は。
梶川文博・経済産業省環境経済室長 カーボンニュートラルは成長戦略だ。企業のビジネスにつながる機会を考えたい。グリーンな製品の価値を認め、率先して購入することで市場を作る後押しもする。
――排出量取引とはどのような取り組みか。
松尾琢己・東京証券取引所カーボン・クレジット市場整備室長 東証では9月22日から1月末まで、カーボン・クレジット市場の実証事業を行う。流通市場の創設は画期的で、実証には法人や団体であれば誰でも参加できるよう門戸を広げている。経産省と環境省が2013年から行っているプロジェクト「J―クレジット」を9月に先行上場し、実際に売買してもらう。
――GXリーグ賛同の背景と期待は。
光武裕・アストラゼネカジャパンサステナビリティディレクター 我々の戦略「アンビション・ゼロカーボン」は25年までに自社のCO2排出ゼロ、30年までにはサプライチェーン(供給網)全体で排出より吸収が多い状態を目指す。健康に奉仕する我々にとって、気候危機で人々の生命がむしばまれていくのは看過できない。人々や社会の健康、その前提となる地球環境のため尽くすのが当社ビジネスの要だ。
――課題や展望は。
梶川氏 環境価値のある製品を消費者にどう選んでもらうのかが重要だ。知らぬ間にカーボンニュートラルを達成できるようなイノベーションを製品やサービスに生かし、カルチャーを作りたい。
松尾氏 取引所には流動性、価格発見、情報発信が期待されている。取引されるカーボンクレジットの供給増加や、CO2排出の削減に使いやすいルール作りが必要だ。多様な企業がビジネスを転換するため、取引所としてカーボンプライシングの機能を果たしたい。
光武氏 ヘルスケア産業全体での排出ゼロを呼びかけたい。もっと多くの人がGXリーグに参加して、脱炭素と経済成長を両立させることが重要だ。さらに、海外も含めて人々の健康を改善することもできるので、期待したい。
(用語解説:GXリーグ)
経済産業省によって設立された、CO2排出量削減に積極的に取り組む企業がGXを先導する枠組み。賛同企業が排出量取引や、環境価値をアピールする製品の認証制度などのルール作りを議論しており、23年度から本格稼働する。賛同を表明した鉄鋼や自動車、電力など440社の合計排出量は、日本全体の約4割を占める。
セッション3:食とくらしから始めるカーボンニュートラル
◎環境省脱炭素ライフスタイル推進室長 井上雄祐氏
◎ドール生鮮第一本部マネージャー 中島小織氏
◎楽天グループパブリックアカウント営業課アシスタントマネージャー 金井大樹氏
食品ロス削減 進める/消費者行動 変化促す
――暮らしから出る二酸化炭素(CO2)の対策は。
井上雄祐・環境省脱炭素ライフスタイル推進室長 消費ベースでみると、日本のCO2排出量の約6割が家計と関係している。製造から廃棄まで様々なところからCO2が出ており、日本全体の温室効果ガスについては家庭が選ぶ商品の影響がある。
中島小織・ドール生鮮第一本部マネージャー 主力商品のバナナでは「エシカルバリューチェーンプログラム」という量り売りの取り組みを始めた。プラスチックの袋で包装して販売せず、裸の状態でスーパーマーケットの店頭に並べており、消費者が必要な量を購入できる仕組みだ。
金井大樹・楽天グループパブリックアカウント営業課アシスタントマネージャー 環境負荷の少ない認証品に特化した「アースモールウィズ楽天」というサイトを始めている。利用者のニーズは高まっており、2021年の流通額は前年比3・9倍に増えた。楽天ではIDを持つ1億のユーザーがいる。IDを活用して社会課題を解決していきたいと考えている。
――消費者の行動を変えるには。
金井氏 消費者の行動変化を後押しする「ナッジ」という行動科学の知見を活用する取り組みを行っている。通信販売では、商品の配達先が不在だと再配達が必要になり、輸送で発生するCO2も増える。お客様には環境や労働の問題、社会規範といった観点から好ましい行動を提案し、再配達をせずに受け取ってもらえるよう促している。
中島氏 食品もゴミとして焼却処分すればCO2が発生する。ドールは食品ロスの発生量の削減を進めたい。食べ残しを出さないことでもゴミは減るので、消費者が意識して楽しく続けられるような取り組みを提案したい。
井上氏 脱炭素のために「何をしたらよいかわからない」という消費者は多い。「クールビズ」をはじめとした行動を「ゼロカーボンアクション」として紹介している。取り組みを2050年までの「マラソン大会」と考え、みんなで一緒にゴールできるよう提案をしていきたい。
――政府、消費者に対する期待は。
中島氏 日本では、消費者から「少しでも傷があると嫌」「包装されているほうが手軽」といった声をいただく。ただ、プラスチック包装を使わない取り組みの大切さを伝えることが、一人一人の行動変容の後押しになると思っている。
金井氏 生活の中でどの選択をすればよいのかが分かることが大事だ。CO2削減を可視化するルール、消費者がモチベーションを維持できる仕組みを共に作っていきたい。「楽天市場」に出店する事業者を巻き込みながら、脱炭素という難題に向かっていきたい。
(2022年8月25日に実施した「カーボンニュートラル・デイVol.2」の採録です。)
主催=読売新聞社
後援=経済産業省、環境省
特別協賛=電源開発
協賛=アストラゼネカ、ドール、楽天グループ