2050年の脱炭素社会実現への道筋を考えるシンポジウム「読売カーボンニュートラル・デイ vol.2」が8月25日、オンライン形式で開かれた。ノーベル化学賞受賞者の吉野彰・旭化成名誉フェローが、「カーボンニュートラル社会の実現に向けて」と題して基調講演を実施。トークセッションでは、渡部肇史・電源開発社長や経済産業省、環境省、企業の担当者が、再生可能エネルギーの普及策などについて議論した。
セッション1:カーボンニュートラルに向けたエネルギー社会の実現について
◎電源開発社長 渡部肇史氏
◎資源エネルギー庁新エネルギー課長 能村幸輝氏
水素 安定供給が必要
――カーボンニュートラル実現に向けた現在の取り組みは。
能村幸輝・資源エネルギー庁新エネルギー課長 カーボンニュートラルは世界全体の取り組みで、中国やインドなども関与している。ロシアによるウクライナ侵略があっても、各国は旗を降ろしていない。欧州では、むしろ再生可能エネルギーの比率を高めている。
日本も太陽光や風力などの再生可能エネルギーによる発電を最大限導入する目標に向け、官民を挙げて取り組んでいる。それには再生エネで作った電気を送る送電網の強化や、蓄電池の活用が鍵になる。さらに、燃やしても二酸化炭素(CO2)が発生しない水素やアンモニアの活用も期待されている。
渡部肇史・電源開発社長 電源開発は戦後復興期の大規模な水力発電所の開発に始まり、オイルショック後からは輸入石炭による火力発電に取り組んできた。今年9月で創立70周年となるが、気候変動への対応は事業活動の根幹で、エネルギーの安定供給との両立を最優先の経営課題としている。
――具体的には。
渡部氏 複数の地点で陸上・洋上風力を建設しており、建設計画も進めている。海外でも事業を手がけ、得た経験や技術は日本で生かすこともできる。
――水素の活用については。
渡部氏 今後、日本でCO2フリー水素社会を実現するためには、大量かつ低コストで、安定的に供給できる仕組みを作ることが必要だ。電源開発は、海外から輸入した石炭から国内で水素を製造する技術を持っており、再生エネによる電気で水を分解して水素も作っている。
――カーボンニュートラルを目指すためのポイントは。
渡部氏 脱炭素化、低炭素化に役立つ技術を使いこなしたり、組み合わせたりしていくことが重要で、どの方法が一番効果的かがわかるには時間がかかる。火力発電も動かしながら新技術を投入し、CO2を段階的に減らしていくことをしばらく続けていく。
能村氏 エネルギーの安定供給を考えると、カーボンニュートラルは一つの技術やエネルギー源だけでは解決できない。政府では「S+3E」(S=安全性、3E=エネルギーの経済効率性、安定供給、環境への適合性)という考え方を重視しており、再生エネや水素など様々なエネルギー源をうまく使いこなしていくことが大切だ。
(用語解説:カーボンニュートラル)
カーボンは「炭素」、ニュートラルは「中立」を意味する。森林整備や二酸化炭素(CO2)の再利用・地下貯留による吸収量と、石油などの利用で発生するCO2など温室効果ガスの排出量が、差し引き実質ゼロになった状態を指す。政府は2030年度までに温室効果ガスの排出量を13年度比で46%削減し、50年までに実質ゼロとする目標を掲げる。
(2022年8月25日に実施した「カーボンニュートラル・デイVol.2」の採録です。)
主催=読売新聞社
後援=経済産業省、環境省
特別協賛=電源開発
協賛=アストラゼネカ、ドール、楽天グループ