将来見据え、「脱炭素」を目指す日本企業~ニッポンの未来フォーラム(後編)

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2022.3.4
将来見据え、「脱炭素」を目指す日本企業~ニッポンの未来フォーラム(後編)

「ニッポンの未来フォーラム 挑戦!カーボンニュートラル」が1月20日、オンライン形式で開かれた。温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の実現に向け、企業・官庁のトップらが意見を交わした。歌手・タレントの中川翔子さんと評論家の荻上チキさんがゲスト参加し、コーディネーターは元NHK解説委員のジャーナリスト柳澤秀夫さんが務めた。

(※出演者の肩書・所属はいずれも2022年1月20日時点のものです。)

第2部「未来のゼロ」<「炭素の足跡」>

◎地球環境戦略研究機関上席研究員 小嶋公史氏
◎日本郵政社長 増田寛也氏
◎「プチオフグリッド」を実践する サトウチカさん
◎歌手・タレント 中川翔子さん
◎評論家 荻上チキさん
(コーディネーター・柳澤秀夫さん)

――地球環境戦略研究機関ではどのような研究をしているのか。

小嶋公史・地球環境戦略研究機関上席研究員 アジア太平洋地域の持続可能な開発の実現を目指した研究機関で、気候変動問題や循環型社会などに関して政策研究を行っている。
私は「カーボンフットプリント(CFP)」を活用し、脱炭素社会に向けて暮らしをどのように変えていけばいいか、そういった取り組みを政府や企業がどう支えるべきかについて研究している。

<CFPは直訳すると「炭素の足跡」。正式名称は「カーボンフットプリント・オブ・プロダクツ」という。暮らしを支える製品や食品の生産から廃棄まで、どれくらいCO2が排出されるか見える化できる手段とされる。>

主なカーボンフットプリントの事例

――これまでのCO2排出の考え方とどう違うのか。

小嶋氏 これまでの測り方では産業部門からの排出が(主に)あり、家庭からの排出は全体の約2割。CFPでは、暮らしからの排出が6割以上を占める。逆に言うと我々が行動することで、大きな影響を与えられる。
1人が年7・6トンくらい生み出している。2030年までに3分の1の2・5トンまで減らさなければ、(国際的な目標として合意された世界の気温上昇幅の上限である)「1・5度目標」の実現が難しい。

地球環境戦略研究機関上席研究員 小嶋公史氏
地球環境戦略研究機関上席研究員 小嶋公史氏

<電気の一部「自給」>

<サトウチカさんは淡路島で「プチオフグリッド」を実践している。「オフグリッド」は電気を完全に自給するが、「プチ」は電力会社の電気を使いながら、できる範囲で電気を自給する暮らし方だ。サトウさんは、折りたたみ式の太陽電池から携帯型バッテリーに充電し、家電の電気をまかなう。東日本大震災の時に住んでいた川崎市で停電になったのがきっかけ。現在のCFPは年2・1トンだという。>

「プチオフグリッド」を実践する サトウチカさん
「プチオフグリッド」を実践する サトウチカさん

サトウさん 特に不便さは感じていないし、忍耐の暮らしではない。日々、(電気の)10%でも20%でも自給することが大切だと感じている。バッテリーの価格がまだ高いので、これがクリアされると導入しやすいと感じている。

――周りでやってみようという人は出ているか。

サトウさん これならできそうだと、導入する人が増えている。

――郵便局はどう取り組んでいるか。

増田寛也・日本郵政社長 全国で自動二輪8万台、軽四輪3万台がCO2を出さざるを得ず、EV(電気自動車や電動バイク=二輪EV)への入れ替えをしている。遠くまで行く時、昼間の短い時間に充電しなければいけないので、急速充電設備を郵便局でモデル的に整備している。

<沼津郵便局(静岡県)と小山郵便局(栃木県)では昨年から実証実験が始まり、配送用EVと急速充電設備が整備された。実証実験には東京電力グループと三菱自動車も参加し、EVの配送データを共有して運用の改善に取り組む。急速充電設備は地域住民も利用できるようにしている。>

日本郵政社長 増田寛也氏
日本郵政社長 増田寛也氏

増田氏 CO2削減にかなり効果が出ている。地域の皆さんのEV導入の環境整備もできるので大変良い。今は2か所だが、全国で進めたい。我々は「共創プラットフォーム」と言っているが、郵便局を色んな企業や地域の方にできるだけ使ってもらえるようにしたい。

――中川さんは普段EVを利用している。

中川さん すごく静かだし、急速充電もあるが、まだ普及していない分、いつも電気の残りを気にしなきゃいけない。郵便局で開放していただくのはありがたいし、あると知っておくだけで安心度が違う。EVが普及するのに必要な取り組みだと思う。

増田氏 今は二輪も軽四輪もEVは少ないが、5年間で二輪は2万8000台、軽四輪は1万3500台を入れることで、半分弱をEVに切り替える。そうすると急速充電設備がもっと必要になるので、整備を進め、一般の方がもっとEVに乗りやすくなるよう貢献したい。郵便局で使う電源は再生可能エネルギー由来のものに切り替える。できるだけ急いで切り替えて数値を皆さんに示していきたい。

歌手・タレント 中川翔子さん
歌手・タレント 中川翔子さん

――CFPは都市部と地方で違いが出る。

小嶋氏 自家用車からの排出では、(増田氏が知事を務めた)岩手県は東京都の3倍くらいだ。東京は公共交通が非常に整備されているが、岩手は基本的に車で移動せざるを得ない。全国平均だけで議論できないので、土地の特徴を考えながら対策も考えていく必要がある。

荻上さん CFPで可視化され、地域ごと、世代ごと、消費・生活スタイルごとの課題が見えてくると、対応策も考えることができる。何を買ったとしても社会問題を悪化させずに済むという状況をつくることが重要だ。そのためには、可視化の先に地域との対話に進む必要がある。

<郵便 脱炭素>

<日本郵政は昨年12月、東京都立千早高校2、3年生20人を本社に招き、環境問題について意見交換した。生徒たちは、業務をデジタル化して使われる紙を減らすなど日本郵政が進めるべき脱炭素の取り組みを提案した。>

増田氏 考える良いきっかけになったと言ってくれたので、この場を設けたのは良かった。ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の手続きや通帳は紙ベースが多い。どんどんスマートフォン世代も使いやすいようにしていくべきだと思うと同時に、手紙文化や手書きの良さも調和させたい。今年の年賀はがきは(森林環境に配慮した)FSC認証紙を使っている。年賀状が環境に役立つ森林を増やしていくことにつながる。来年以降も継続していく。

――日本郵政は食べ物の取り組みにも踏み出した。

増田氏 鳥取県では56の郵便局が共同で子ども食堂に食材を届けている。継続するのに郵便局単位や支社などの持ち出しが出てくるが、郵便局は地域に溶け込んでいるので、地域にも手伝ってもらえるきっかけを作れる。全国に広げていきたい。

小嶋氏 フードロスの問題は温室効果ガス削減でも大事だ。日本の食は輸入にかなり頼っているので、例えばアマゾンの森林伐採につながるなど生物多様性保全の問題にも関わる。脱炭素社会を目指すのは皆が幸せに暮らせる社会を持続させるために不可欠なピースであるように、子ども食堂は皆が安心して暮らせる社会に向けた取り組みだ。

中川さん (フォーラム全体を通じて)ちょっと電気を無駄にするのを我慢しようとか、気持ちを一人一人が変えることが大事。企業が未来を見据えて変えようとしている。この努力は実を結ぶと思う。

荻上さん (脱炭素の実現へ)政府の中でルール作りの議論がこれから行われていく段階になる。一人一人のできることは、家庭の電力の話だけではない。国会での議論に声を上げていくということが大事なので、多くの人に目を向けてほしい。

フォーラムの様子

→前編はこちらから

(2022年1月20日に実施した「ニッポンの未来フォーラム 挑戦!カーボンニュートラル」の採録です。)

主催=読売新聞社、NHKエンタープライズ
後援=環境省、経済産業省
協賛=三菱商事、日本郵政グループ

協賛

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