「ニッポンの未来フォーラム 挑戦!カーボンニュートラル」が1月20日、オンライン形式で開かれた。温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の実現に向け、企業・官庁のトップらが意見を交わした。歌手・タレントの中川翔子さんと評論家の荻上チキさんがゲスト参加し、コーディネーターは元NHK解説委員のジャーナリスト柳澤秀夫さんが務めた。
(※出演者の肩書・所属はいずれも2022年1月20日時点のものです。)
第1部「今できるゼロ」<風力発電>
◎三菱商事執行役員 朝倉康之 氏
◎資源エネルギー庁次長 山下隆一 氏
◎歌手・タレント 中川翔子 氏
◎評論家 荻上チキ 氏
(コーディネーター・柳澤秀夫さん)
――温暖化問題にどう取り組んでいるのか。
朝倉康之・三菱商事執行役員 三菱商事は昨年10月、カーボンニュートラル社会へのロードマップ(工程表)を公表した。温室効果ガスを2030年度に20年度比で半減させ、50年度にカーボンニュートラルにする。
(エネルギーを転換する)エネルギートランスフォーメーション(EX)関連投資を30年度までに2兆円規模行う。DX(デジタルトランスフォーメーション)とEXを一体推進して、新たな未来を創造していく。
――政府は50年にカーボンニュートラルを実現すると宣言した。
山下隆一・資源エネルギー庁次長 達成しないといけないが、非常に難しいチャレンジだ。産業界だけでなく、暮らし方や社会システムを変えていかないといけない。石炭や石油、ガスで発電してきたエネルギー(消費全体)の3割を非化石に変えていく。再生可能エネルギーもあれば、水素やアンモニアに変えていく手段もある。
7割を占めるのは車のガソリン、家庭で使っているガスや熱、あるいは原材料で、脱炭素化しないといけない。政府は2兆円の「グリーンイノベーション基金」を作って研究開発への支援を進めており、具体的にプロジェクトが動き始めている。
――脱炭素化は欧州が先行しているイメージがある。
朝倉氏 三菱商事は1980年代から米国を手始めに世界中で発電事業を始めていた。2000年代に入って欧州で環境への意識が急速に高まり、オランダの電力会社エネコと協業を始めた。
<エネコは再生可能エネルギーを中核にした発電事業を手掛ける。オランダ西部沖合のルフタダウネン洋上風力発電所では40基以上の風車を展開し、発電容量は15万世帯分に相当する13万キロ・ワットに上る。三菱商事は13年に建設が始まったこの事業を後押しし、20年に中部電力と共同でエネコを買収した。>
「洋上風力 国内で拡充へ」
朝倉氏 欧州で洋上風力が黎明(れいめい)期にあった10年ほど前、エネコと初めて洋上風力に取り組んだ。(それから10年間の)知見が日本でも生かせる。日本でも昨年から取り組みが始まっている。40年に向けて30~45ギガ・ワット(3000万~4500万キロ・ワット)まで増やす国の目標が出ており、積極的に取り組みたい。
洋上風力には気象や海底地盤のデータ、地元との調整など、どの事業者にも必要なものがある。欧州では政府がまとめて提供する「セントラル方式」が広く使われている。日本での拡大にも助けになるのではないか。
――政府はどういうサポートができるか。
山下氏 まず洋上風力について法律を整備し、一定期間の権利を認めて発電できる状況を作った。特に洋上風力は(陸上風力よりも)風車がかなり大きい。エネルギーの主力部分に持っていきたい。(セントラル方式は)洋上風力をやりたいと思われる方々の共通の意見。その方向に制度整備を進めていこうと思う。
評論家の荻上チキさん 環境アセスメント(環境影響評価)も必要だ。災害対策、景観、地場産業への影響はどうなるのか。技術的な対策と法整備に加えて、事前に住民と合意形成していくことが必要だ。
<二酸化炭素の回収・貯留>
――(二酸化炭素回収などの)技術で日本は注目されている。
山下氏 CO2(二酸化炭素)を回収して地中に埋めることと、CO2を原料に新しいものをつくっていくことは非常に重要だ。暮らしをそれほど変化させずにうまく回していく仕組みも、研究開発を進めている。
<CO2を地中深くに貯留する技術はCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)と呼ばれる。北海道苫小牧市で16年に実証実験が始まり、約3年半で30万トンのCO2を地層に貯留した。一方、九州大の藤川茂紀教授は、空気中からCO2を回収する技術の開発に取り組む。DAC(Direct Air Capture)と呼ばれ、厚さ30ナノ・メートルの膜を通じて回収しようとしている。>
山下氏 (DACは)技術的にまだ難しい課題があるが、世界中がチャレンジしている。(CCSは)元々ガス田だったところにCO2を入れてしまえば、普通は出てこない。どこが適地なのか、30年に向けて考えていく。
(燃料用の)アンモニアは現実に近い話だ。JERAという東京電力と中部電力でつくった発電会社が、20%のアンモニアを石炭と混焼しようとしている。その分、石炭を燃やさなくていいのでCO2が減る。
――アンモニアもコストが課題ではないか。
朝倉氏 アンモニアは三菱商事も貢献しようとしている。コスト削減が非常に大事になるが、サプライチェーン(供給網)の構築や技術の発展を組み合わせながら、達成されていくと思う。
山下氏 実際に動き始めると、アンモニアをどこから調達して、どこの港にどの船で運んでくるのか、国内でどうやって作るのかという話になる。計画を作り、実装していくことを考えないといけない。技術開発途中のもので社会実装を含めた準備をしていかないと、具体的な投資に結びつかない。これをどうやっていくかが非常に難しい。
「柔軟性を持って挑戦」
――(アンモニア燃料などが)実用化されるまでにどれぐらいかかるか。
山下氏 ものにもよるが、30年にどれだけ実現できるのか、様々な分野の計画を作っている。「クリーンエネルギー戦略」の中で具体的な段取りを示していければと思う。50年は約30年後。30年前からみて、今の生活を予見できただろうか。最初から完全なシナリオができているというのは不可能だと思う。柔軟性を持ちながら、可能性があるものにチャレンジしていくことが、いまの時点では考えるべきことだ。
歌手・タレントの中川翔子さん 30年前に想像できたかといわれると……。インターネットもスマートフォンも、なくてはならない当たり前のものになった。(新しい技術が)当たり前になってくれると信じたい。若い世代の自由な発想で、ガンッと進む瞬間が来るのでは。
朝倉氏 脱炭素は世界共通の課題であり、三菱商事はこれに全力で取り組む。再エネの拡大、デジタル技術を組み合わせて、安定した電気を届けることで貢献していきたい。
山下氏 産業界もいまできることを必死でやっている。成長の機会にしようと頑張っている。支えるのは最終的に、そういう製品やサービスを買う消費者だ。どの企業がどういう活動をして、どういう製品を出しているのか、ぜひ関心を持ってほしい。
(2022年1月20日に実施した「ニッポンの未来フォーラム 挑戦!カーボンニュートラル」の採録です。)
主催=読売新聞社、NHKエンタープライズ
後援=環境省、経済産業省
協賛=三菱商事、日本郵政グループ