日本の「脱炭素」技術、展望と課題は?カーボンニュートラル・デイ<パネルディスカッション>

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2021.9.21
日本の「脱炭素」技術、展望と課題は?カーボンニュートラル・デイ<パネルディスカッション>

2050年の脱炭素社会実現への道筋を考えるシンポジウム「読売カーボンニュートラル・デイ vol.1」が8月31日、オンライン形式で開かれた。基調講演で有識者が再生可能エネルギーの普及がカギを握ると強調。パネルディスカッションでは、企業トップらが脱炭素に向けた次世代技術の展望を巡り活発な議論を交わし、官民総力を挙げて実現を目指す必要性を訴えた。

「排出ゼロ」発電 目指す:水素・アンモニアを活用した火力の脱炭素化

―JERA社長 小野田聡氏
―資源エネルギー庁 石油・LNG企画官 渡辺雅士氏
―資源エネルギー庁 新エネルギーシステム課長 日野由香里氏
(コーディネーター・政井マヤ氏)

――水素・アンモニアの活用のあり方は。

日野由香里・資源エネルギー庁新エネルギーシステム課長 東京五輪・パラリンピックでは歴史上初めて、水素で聖火が燃えた。福島県浪江町で、太陽光発電から作られた二酸化炭素(CO2)フリーの水素だ。
水素は自動車や住宅、工場などでも、CO2排出量を減らすことが期待できる。自動車は今、ガソリン車が多いが、水素を使う燃料電池車や電気自動車に変わっていく。住宅では家庭用燃料電池で水素を作って湯を沸かし、電気を使う家庭もある。

渡辺雅士・同庁石油・LNG企画官 アンモニアは水素よりも早く、大規模な利用が始まるかもしれない。火力発電で燃料として利用できる技術が生み出されている。
アンモニアはCO2を排出しない燃料だ。国内電力大手の石炭火力発電で燃料の20%にアンモニアを使った場合、発電部門の1割のCO2を削減できる。大きな潜在能力がある。

小野田聡・JERA社長 再生可能エネルギーを増やすとともに、(CO2を排出しない)ゼロエミッションの火力発電所を実現させたい。火力発電の機能を活用しながら、CO2を削減していく。

JERAは愛知県の碧南火力発電所でアンモニア発電の実証事業を始め、30年までに本格運用を開始する。その後、アンモニアの量を増やしていき、40年代には100%アンモニアを使った火力発電を目指す。
水素も実証を始めているが、経済性などのハードルが高く、本格運用は30年代から検討していく。国内最大の発電事業者として、再生可能エネルギーとゼロエミッション火力を組み合わせながら、50年の脱炭素にチャレンジしていく。

小野田聡・JERA社長
小野田聡・JERA社長

――導入や拡大に向けた課題は。

日野氏 水素は商用を目指して開発・実証を進めるが、まだまだコストが高い。天然ガスに比べ水素の価格は最低でも5倍以上する。利用を増やして、コストダウンを目指すという好循環を作りたい。

渡辺氏 (アンモニアの導入は)関係各国と一緒にサプライチェーン(供給網)を作った上で、日本企業がメインで入り、エネルギー安全保障も見据えて進める必要がある。
日本が音頭を取ってアンモニア市場を作り、(製造過程で出る)CO2対策もしっかり行い、クリーンなアンモニアを世界に届けたい。

小野田氏 調達は経済性に関わるので、非常に重要な問題だ。碧南火力の2基でアンモニアを20%混焼すると年100万トン消費し、日本で肥料や工業用に使っているアンモニアの全量に匹敵する。これを調達するための新たな供給網を構築する必要がある。
JERAはLNG(液化天然ガス)の調達を巡り、生産や輸送、貯蔵、発電といった全ての過程に関わっている。アンモニアの供給網を作る上で親和性がある。

渡辺雅士・資源エネルギー庁石油・LNG企画官
渡辺雅士・資源エネルギー庁石油・LNG企画官

――国などへの要望は。

小野田氏 水素やアンモニアの発電は技術面で課題がある。主体的に取り組んでいくが、我々だけでは難しい面もあり、産学官で共同して解決していく必要がある。国には脱炭素技術を開発していくための支援をお願いしたい。
アジアは、欧州とはエネルギーやインフラ事情が違う。火力を使いながら脱炭素を進めていくのは、アジアのモデルになる可能性が高い。アジアの人たちと共に発展しながら成長していく時に、国の支援があるとありがたい。

低コスト化が課題に:カーボンリサイクルの展望

―大阪ガス社長 藤原正隆氏
―古河電気工業社長 小林敬一氏
―鹿島建設執行役員 坂田昇氏
-資源エネルギー庁 カーボンリサイクル室長 土屋博史氏
(コーディネーター・政井マヤ氏)

――カーボンリサイクルの技術開発の現状は。

藤原正隆・大阪ガス社長 再生可能エネルギーを使って作る水素と工場などで排出するCO2から、都市ガスの主成分であるメタンを作る技術「メタネーション」を研究している。既に世の中にあるCO2を原料としているので、製造したメタンを燃焼させてもCO2は実質的に増加しない。
現在の都市ガスの原料である天然ガスの主成分はメタンなので、既存の貯蔵施設やガス管、家庭のガス機器を交換せずに脱炭素化が可能になる。

藤原正隆・大阪ガス社長
藤原正隆・大阪ガス社長

坂田昇・鹿島建設執行役員 CO2を吸収し、封じ込めるコンクリートを開発し、2011年から実際の工事に使用している。セメントの量を減らし、CO2と反応する特殊な粉を混ぜた上で、専用の「吸収室」の中でCO2の濃度を管理しながらコンクリートに吸収させる。
通常のコンクリートは、原料のセメント製造でCO2を排出するが、このコンクリートはCO2を吸収しながら建設できる画期的な技術だ。

坂田昇・鹿島建設執行役員
坂田昇・鹿島建設執行役員

小林敬一・古河電気工業社長 家畜のふん尿から液化石油ガス(LPG)を作る技術を開発した。ふん尿の発酵で発生したCO2とメタンを新しい触媒に通して作る。電線で使う金属や、それを覆う樹脂の研究で培ってきたコア技術を生かした。
この取り組みは、地域自立の一助となる。LPGは農場や災害時の家庭のエネルギーとして使うこともできる。

小林敬一・古河電気工業社長
小林敬一・古河電気工業社長

――技術やコスト面の課題は。

藤原氏 従来のメタネーションでは、水を電気分解して水素を作る際やメタンを作る際に発生する熱エネルギーを有効活用できていなかった。このため、水とCO2を高温で電気分解する装置を新たに開発し、メタンを作る際に発生する熱を再利用する仕組みを作った。現在は実験室レベルだが、高性能化や低コスト化を進める。

坂田氏 CO2を吸収するコンクリートはセメントを減らし、石炭火力で排出される石炭灰や製鉄過程で発生する高炉スラグなどを使っている。今後、石炭火力の減少や製鉄方法の変更が進めば、その時々で調達できる材料を考えていかなければいけない。
コスト的にはまだまだ高い。この技術が色々なコンクリートに使えることも非常に重要となる。

土屋博史・資源エネルギー庁カーボンリサイクル室長 技術面の課題は、実用化から逆算して取り組みを進めていく必要がある。開発競争が加速すると、課題も非常に複雑になってくる。企業や大学などが互いの技術や発想を共有して事業につなげる「オープンイノベーション」により、強みを掛け合わせる必要がある。
政府はグリーンイノベーション基金で技術開発を支援しており、標準化や知的財産の設定、温室効果ガス排出量の金額換算などで「価値化」にも挑戦していきたい。

土屋博史・資源エネルギー庁カーボンリサイクル室長
土屋博史・資源エネルギー庁カーボンリサイクル室長

――普及に向けて国への要望は。

藤原氏 カーボンニュートラルのメタンは、30年、40年時点では液化天然ガス(LNG)より高いことが想定される。民間事業者はコストダウンのためのあらゆる努力を続けるが、政府には既存の都市ガスとの価格差を埋める、顧客にとってインセンティブ(動機付け)につながるような政策の導入を検討してもらいたい。

坂田氏 CO2を吸収するコンクリートの普及には、制度設計や基準をしっかりと定めておく必要がある。オールジャパンで産学官が連携し、もっと革新的な技術を確立し、海外に打って出ていくことが重要になると思う。

小林氏 1社だけでは技術開発は厳しい。解決するためには仲間作りが重要だ。(政府には技術を)共に創り出すための対話の場などを作ってもらい、色々な意見交換をしていきたい。

→基調講演の模様はこちら

(2021年8月31日に実施した「読売カーボンニュートラル・デイVol.1」の採録です。ご登壇頂いた方のご所属等は当時のものです。)

主催=読売新聞社
後援=経済産業省、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
特別協賛=大阪ガス、鹿島建設、JERA、古河電気工業

協賛

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