地域がん診療連携拠点病院「高度型」に認定。
すべての診療科で最適な治療を追求。
がん患者がどこに住んでいても標準的な治療を公平に受けられるように、厚生労働省では全国に339の地域がん診療連携拠点病院を指定しているが、2019年4月にその中でも診療機能が高い14の病院を「高度型」に指定。その一つに認められた帝京大学医学部附属病院の関順彦医師は「今後もより良い治療を追求するだけです」と真摯に話す。
帝京がんセンター長
腫瘍内科科長・教授
外来化学療法室長
関 順彦
せき・のぶひこ/1994年防衛医科大学校医学科卒業。同大学病院や四国がんセンターなどで肺がん治療に従事。専門は肺がんの薬物療法と臨床試験。日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本呼吸器学会認定呼吸器専門医など。
診療実績に加えて、緩和ケアや相談支援センターも高評価
当院では2008年に「地域がん診療連携拠点病院」に認定され、年間2000人以上のがん患者さんを治療してきました。そのサポートの中心が、「帝京がんセンター」です。ここでは、がん相談支援室、がん登録室、外来化学療法室、緩和ケアチームなどを運営するとともに、近年はがんゲノム医療の進歩に対応する診断・検査・カウンセリングなどの実施部門も開設しました(下のコラム参照)。
今回、「高度型」に認定されたのは、規定の診療実績をクリアしているのに加えて、私たちが日々取り組んでいるがん医療が総合的に評価されたものと受け止めています。チーム医療に携わる全てのスタッフが、それぞれの立場で、患者さんにとって最善な医療サービスを提供しようと努めていますが、そのお墨付きを得たという思いです。
たとえば、私が室長を務める「外来化学療法室」では、入院と同等のクオリティで、外来でも抗がん剤治療が可能となっています。また、治療だけでなく、患者さんの精神的・社会的な負担に対してもフォロー。「このまま仕事を続けられるだろうか」と心配している方にはソーシャルワーカーが就労支援を行い、医療費などの経済的な不安がある方には、利用できる公的支援制度について、がん相談支援室や医事課に問い合わせることもあります。
もちろん、当院では文字通り「高度」な設備も充実させています。放射線科では新型のリニアックを導入したばかりですし(左ページ参照)、外科ではロボット手術も実施しています。さらに、臨床試験・治験統括センターも備え、適切な対象者には最先端の新薬や治療法を試みてもらうことも可能になっています。こうした環境を最大限に活用しながら、これからも一人ひとりの患者さんにベストマッチするがん治療を提供していきます。
ゲノム診療外来・遺伝カウンセリング外来
最適ながんゲノム医療を提供
「がんは遺伝子のコピーエラーによって発生し、細胞が増殖して周囲に広がったり、別の臓器に転移する病気です。遺伝子に起きた変化を調べて、それに応じた薬(抗がん剤)を使っていくのが『がんゲノム医療』です。従来は肺がん、大腸がん、乳がんなどと臓器別に対応していましたが、今後は遺伝子のタイプ別に分子標的治療薬を使うなど、治療が個別化・精密化していくでしょう」(渡邊医師)
「ゲノム検査によって自分のがんが遺伝性であったことが確定するケースがあります。遺伝性のがんでは、本人のみならず、ご家族や親族も同じがんになりやすい体質を受け継いでいる可能性があることを意味します。こうした時に対応するのが遺伝カウンセラーです。まずは本人が家族・親族に遺伝性のがんについて情報提供します。中にはパニックになる方もいるので、そうした場合はその心配や不安を全部話していただき、相談者が落ち着くのを待ちます。遺伝カウンセラーとしては、ご本人が現実と向き合い、治療を受け入れられるように、また本人のみならず家族や親族の健康管理のお手伝いをしたいと考えています」(青木さん)
肝臓がん
がん転移を防ぐため、確実な切除を徹底
豊富なスタッフで手術・術後管理ともにチーム医療を実践しています。
肝臓がんには原発性と転移性があり、その割合は半々ぐらいです。とはいえ、原因であるB型、C型肝炎患者が減っているので、原発性肝臓がんは減少傾向にあります。
手術は、原発性の場合は開腹で行い、転移性の場合は、腫瘍の数によって、少なければ腹腔鏡で、多いようなら開腹で行います。
また、原発性肝臓がんは転移しやすいので、きちんと切除することが重要です。当院では肝臓の血管に色素を注入してがんの広がりを確認しています。
早期がんで、大きさが3センチ以内かつ3個以内であれば、ラジオ波焼灼療法も考えられます。これは体の外から針を刺して、その先端部分から発する高熱によって、がんを焼くという治療です。
がんの大きさや形、肝機能の状態によって手術法を決めますが、肝機能が低下していると10%程度の切除でも命の危険に及ぶリスクがありますので、それを見極めるのが医師の大切な役割といえるでしょう。
また、手術が無事に終わり、退院した後は自宅近くの診療所でケアしていただきますので、地域のドクターとの連携も重視しています。
整形外科
がんロコモ対策としての骨転移診療
骨転移キャンサーボードでは多診療科・多職種が治療方針を討議します。
「がん時代」を迎え、これまで「がん」から距離をおいていた整形外科が医療界全体からのニーズに応えて姿勢を大きく変換し、がん診療に取り組む活動が「がんロコモ」です。
整形外科医は、がん患者に対峙すると専門外の領域として関与を避けてしまう傾向があります。その結果、がんであるという理由で、運動器疾患の適切な治療を受ける機会を逃していることも少なくありません。今、運動器診療に求められているのは「がんを治す」ことではなく、がん患者さんが「動ける」状態を維持することです。自立した自分自身の生活を送るためにも、就労を維持するためにも、そしてがん治療を継続するためにも、「動ける」ことがとても重要です。
がん診療連携拠点病院(高度型)であり、かつ高度救命救急センターでもある当院は骨転移による病的骨折、脊髄麻痺に対して迅速な対応が可能という特色があります。多くの診療科や多くの職種が集まって治療方針を討議する骨転移キャンサーボードを通じて、整形外科が、がん診療チームの一員として活動しています。
放射線科
高精度照射が短時間で済む、VMATを実施
医師や放射線技師、看護師が協力して身体的負担の少ない治療を実施。
放射線治療は患者さんの負担が軽いことが一番のメリットであり、高齢の方や全身状態が良くない方でも受けることができます。
当院では2018年に1台のリニアックを更新。がんの形状に合わせて照射するIMRT(強度変調放射線治療)に加えて、その進化版であるVMAT(強度変調回転放射線治療)も可能になりました。この2つの違いですが、IMRTでは放射線を照射する大型の筒(ガントリー)は治療中固定するのに対し、VMATでは回転します。所要時間もIMRTが30~40分ほどかかるのに対して、VMATはわずか2~3分。いずれはVMATが主流になっていくと思います。また、体の表面をリアルタイムにモニターするシステムも追加したので、呼吸同期照射が容易になりました。
IMRTやVMATは高精度照射と呼ばれ、がん周辺にある正常な細胞への照射を抑えることができます。ただし、それには緻密な計画が必須。医学物理士がコンピュータで最適化計算を行うのですが、そうしたスタッフと協力しながら、治療実績を高めていきたいと思います。
小児がん
治療後に障害を残さない配慮と工夫
小児科の入院患者が使用するプレイルーム。
「小児科医は子どもに対する総合医です。治療の対象は、小児がんだけでなく、神経系やアレルギー、内分泌・代謝、腎臓、新生児、循環器系などの多岐にわたり、こころの問題にも対応します。予防医学の進歩により、重症感染症は減っていますが、その一方で慢性疾患をもつ子どもの入院が増えています。また、当院では看護師や薬剤師に加えて、保育士も常駐するなど、小さなお子様が安心して長期にわたる治療を受けられる環境に配慮しています」(三牧医師)
「小児がんとは15歳未満の子どもに発症するがんの総称で、当院で一番多いのは白血病(38%※)、2番目が脳腫瘍(16%※)です。白血病には抗がん剤治療が標準治療になっており、8~10か月ほどで治癒して、退院できます。ですが、治療後、数年たってから低身長などの障害が起きることがあるので、これを抑えるように、薬の組み合わせや量に細心の注意を払っています」(中村医師)
※2009年~2011年の合計。
地域がん診療連携拠点 病院指定書