ゲノム医療をはじめ、世界をリードする
先端的な医療に取り組むトップランナー

国立がん研究センター東病院は、国内外の有望な新規治療薬の実用化で世界トップクラスの実績を持ち、2017年に新設した医療機器開発センターでは手術支援ロボット開発が進行中。多職種でサポートしながら最先端のがん治療を患者さんに提供している。


院長 大津 敦

院長

大津 敦


おおつ・あつし/ 1983年、東北大学医学部卒業。86年国立がんセンター入職後、92年東病院開院時からのメンバー。2012年 早期・探索臨床研究センター長等を経て16年より現職。


血液でがんの遺伝子変化を調べる次世代ゲノム診断

 2019年にがんのゲノム診断が保険適用になったが、国立がん研究センター東病院(以下、東病院)の大津敦院長は「現在行われているゲノム診断は、当院では5年前から実施しています。今は、血液だけで遺伝子を調べる『リキッドバイオプシー』という新しい診断法の実用化にも挑んでいます」と話す。このリキッドバイオプシーは、検査結果が早期に判明するだけでなく、複数回検査も可能なため個々の患者への最適な薬剤投与が受けやすいという。
 これまでも同院では1998年に日本で初めて(世界では2番目)陽子線治療を開始するなど、がんの研究と治療のトップランナーとして、先駆的な技術を次々と開発・導入してきた。2017年に完成したNEXT棟では、身体的負担の少ない体腔鏡・ロボット手術を実施するとともに、AI技術などを応用した手術支援機器などの企業との共同開発を進行中。21年には三井不動産などとコラボした研究施設「三井リンクラボ柏の葉(仮称)」が始動する。
 一方、がん患者へのケアに対して、多職種で連携していることが際立った特長だ。医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師などの医療専門職、ソーシャルワーカー、リハビリを行う理学療法士などが横断的なチーム医療を行っている。また、緩和ケアも開院当初から採り入れており、14年に専門部門として「サポーティブケアセンター/がん相談支援センター」を開設。看護部、緩和医療科、栄養管理室などが、初診時から退院後まで、切れ目ない親身な支援を提供している。
 さらに22年には敷地内に東病院連携宿泊施設をオープンする。
「宿泊しながら先進的な医療を受けられる新発想の施設になるでしょう。ご期待ください」と力強く語る。



陽子線の照射精度が大幅に向上

秋元 哲夫 放射線治療科長
秋元 哲夫
放射線治療科長
放射線治療科のスタッフ
放射線治療科のスタッフ

 東病院では放射線治療の一種である陽子線照射を1998年に開始。2016年に小児がんが、続いて18年に前立腺、骨軟部腫瘍、頭頸部のがんの陽子線治療が保険適用になった。
「当院は陽子線のほかに通常の放射線治療も行っています。リニアックという機器を用いて、がんに集中して照射するIMRT(強度変調放射線治療)を実施。この技術を陽子線に応用したIMPT(強度変調陽子線治療)という技術を開発中です。陽子線はがんをピンポイントで攻撃することが可能ですが、IMPTならその精度をさらに高めることができます。咽頭がんが対象になる予定で、根治も可能になります」


前立腺と胃がんを中心にロボット手術を実施

木下 敬弘 胃外科長
木下 敬弘
胃外科長
増田 均 泌尿器・後腹膜腫瘍科長
増田 均
泌尿器・後腹膜腫瘍科長
新型「ダビンチXi」を使用
新型「ダビンチXi」を使用

 同院では手術支援ロボット『ダビンチ』を2台設置。前立腺がん摘出手術に使用してきたが、2018年からは胃や肺のがんでも保険適用になった。「前立腺は骨盤の深部にあり、微細な神経が多数あります。ダビンチではこうした難しい手術を安全かつスピーディーにこなせます」と泌尿器科長の増田均医師は話す。また、胃がんでロボット手術を担当している木下敬弘医師は、「アームで手術器具を操作する『ダビンチ』は手ぶれがまったくないのが特長。より繊細な手術が可能になっています」と話す。




肺がん

免疫療法との併用で、治癒率が向上

坪井 正博 呼吸器外科長
坪井 正博
呼吸器外科長
化学療法を行う「通院治療センター」
化学療法を行う「通院治療センター」

 がんの標準治療は、外科手術、抗がん剤(化学療法)、放射線療法ですが、肺がんの場合、免疫療法(免疫チェックポイント阻害剤)が加わり、治癒率が高まってきました。一般に肺がんで手術可能なのはステージ2まで。ステージ3になると抗がん剤と放射線、ステージ4になると抗がん剤のみというのが従来の治療方法。ですから、進行した状態でがんが発見されると、諦める患者さんも少なくありませんでした。
 ところが、近年はステージ3で放射線治療を行った後に免疫療法を行うと治る人が増加。ステージ4でも免疫療法を行うと、がんが小さくなり、手術の対象になるケースも目立ってきています。
 さらに2020年からはロボット手術も本格化。開胸手術でも傷口を小さくする小切開手術を行ってきましたが、患者さんの希望にお応えしながら、適切かつ最善の治療法を提案しています。



肝がん

回復が早い腹腔鏡手術を実施

後藤田 直人 肝胆膵外科長
後藤田 直人
肝胆膵外科長
腹腔鏡による肝臓がん摘出手術
腹腔鏡による肝臓がん摘出手術

 自覚症状がほとんどない肝臓がんは、進行した状態で見つかることが多く、当院では最初に超音波検査やCT、MRIなどで詳細な検査を行い、外科医、内科医、放射線科医など治療にかかわるスタッフでカンファレンスを実施して、診断します。
 手術になる場合は、当院では腹腔鏡手術が一般的です。お腹に数センチの穴を開け内視鏡や各種の器具を挿入して行う腹腔鏡手術は、創(きず)が小さく、術後の痛みが少ないため回復が早いことが特長で、約5~7日程度で退院します。また、肝臓はほかの臓器と異なり、唯一、自己再生します。手術で6割くらい切除しても、数か月後にはほぼ元の肝臓の大きさになり、機能も術前に近い状態に戻ります。腹腔鏡手術は皮膚切開創が小さいだけに、万が一、血管を大きく損傷してしまうと止血が困難になるリスクがあります。このため、当院では常に開腹手術に移行できる準備をしているほか、模擬訓練を実施し、安全性に配慮した体制を常に整えています。



乳がん

多職種が連携して患者と家族をサポート

向原 徹 乳腺・腫瘍内科長
向原 徹
乳腺・腫瘍内科長
様々な相談に応じる「レディースセンター」
様々な相談に応じる「レディースセンター」

 乳がんや婦人科がんを発症すると、治療だけでなく、様々な影響があります。仕事や子育て、治療後に妊娠を希望する方など多様です。そうした患者さんの悩みをなるべく拾い上げて、力になりたいと考え、2018年「レディースセンター」を設置しました。本センターでは、隠れたニーズを逃さないよう、看護師、ソーシャルワーカー、薬剤師、生殖医療の専門家など多職種でサポートする体制を取っています。
 当院の乳がんの治療は、乳腺外科、乳腺・腫瘍内科、放放射線治療科が各専門性を発揮しながら連携して行っているところが大きな特徴です。また、がんゲノム中核拠点病院としてゲノム医療をいち早く取り入れ、がんの遺伝子を網羅的に調べたり、それに対応した開発中の薬を使う治験を提案できたりすることも当院の強みと言えるでしょう。また、遺伝性乳がんの診療体制も万全です。



胃がん

10センチの胃がんも内視鏡で切除

矢野 友規 消化管内視鏡科長
矢野 友規
消化管内視鏡科長
広々とした「内視鏡センター」
広々とした「内視鏡センター」

 2017年5月に完成したNEXT棟の1階フロア全体が内視鏡センターで、私が担当する胃がんのESDもここで行っています。
 ESDは、がんが粘膜内にとどまっていて、転移がない場合に行う手術です。電気メスなどを装備した内視鏡を口から挿入して、がんを切除しますが、身体に傷が残らず、早期に退院できるのが特長です。身体的な負担が軽いので、高齢者でも可能。ESDは2008年から保険適応になっており、当初は直径2センチ以内のがんが対象でしたが、現在は10センチほどの大きいがんでも取り除けるようになりました。
 自治体によっては胃がん検診として内視鏡検査が導入されるようになりました。検診は50歳以上が対象ですが、できれば40歳を越えたら定期的に内視鏡検査を受けて、胃や食道、大腸がんの早期発見に努めていただきたいと思います。



大腸がん

直腸がん患者さんに肛門温存手術を積極的に提供

伊藤 雅昭 大腸外科長
伊藤 雅昭
大腸外科長
年間約150例のtaTME 手術を実施
年間約150例のtaTME 手術を実施

 大腸がんの中でも、最も難しいといわれる直腸がんの手術を当院では積極的に行っています。直腸は骨盤の中にあり、排尿や排便に関わる重要な神経や血管が集中しているため、手術は慎重に行わなければなりません。当科ではtaTME(経肛門的全直腸間膜切除術)を日本で最初に行ってきました。これは肛門から内視鏡を挿入し、神経などの重要な構造物を正確に認識しながら、肛門の温存も良好に実現できる手術です。
 この手術はお腹側からの腹腔鏡手術と同時並行に行うため、手術時間が大きく短縮できるメリットがあります。一方で2チームでの同時手術は、医師が5人必要になり、私はこの課題を解決する手術支援ロボットを、1年後の製品化を目指し企業と共同開発しています。実現すればロボットが助手の役割を担い、医師は1人で手術ができるようになります。こうしたイノベーションを発信できるのも、東病院の特長です。



国立がん研究センター 東病院

国立がん研究センター 東病院

千葉県柏市柏の葉6-5-1
TEL.04-7133-1111(代)
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/
診療科目
頭頸部外科、頭頸部内科、形成外科、乳腺外科、乳腺・腫瘍内科、呼吸器外科、呼吸器内科、食道外科、胃外科、大腸外科、消化管内科、消化管内視鏡科、肝胆膵外科、肝胆膵内科、泌尿器・後腹膜腫瘍科、婦人科、骨軟部腫瘍・リハビリテーション科、血液腫瘍科、小児腫瘍科、総合内科、歯科、麻酔科(山本弘之)、集中治療科、緩和医療科、精神腫瘍科、放射線診断科、放射線治療科、病理・臨床検査科、先端医療科、脳神経外科、皮膚科、眼科
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