植樹をはじめ世界各地で環境活動に取り組むイオン環境財団が2023年12月、
第1回 イオンSATOYAMAフォーラムを開催。
「里山が持つ新たな価値創造=ネイチャーポジティブとウェルビーイング」をテーマに、
5つの大学から有識者や学生が参加し、持続可能な未来につながる里山の可能性を議論した。
人と自然の共生の場となってきた日本各地の里山において、イオン環境財団は生物多様性や健康増進など、幅広いテーマの活動を行っています。一方で工業化や都市化、農業の市場経済化、エネルギー革命といった社会変化の中で、放置され、荒廃した里山が少なくありません。このまま進めば、生態系、そして地域の景観にも、暗い影響が懸念されているところです。本フォーラムでは5つの大学が特色ある研究を発表し、討議することを通じて、新しい時代の里山の価値をともに考えます。一緒になって考え、その価値を高めていけば、まだ間に合うはずです。実りある議論を祈念します。
環境省では2021年G7サミットを機に、2030年までに陸と海の30%以上を保全する「30by30」目標を掲げ、里地・里山、都市の緑地、沿岸域など122カ所を「自然共生サイト」に認定しています。世界的にも2022年12月の国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」で、2030年までに自然の損失を止めてプラスに転じるネイチャーポジティブ(自然再興)の方向性が示されました。これを追い風により環境保全に貢献していきます。
当研究所が事務局を務めるSATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップは、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」を受け、新たに2030年までの戦略的目標を設定しました。知識の創造・管理・普及、制度化と能力構築、保護区など、生態系の回復、持続可能なバリューチェーンの5つを柱とするもので、これらは本フォーラムでも重要なテーマになるでしょう。持続可能な未来へ、実行の時期に開催される本フォーラムが、取り組みや連携を加速させられればと思います。
伝統的な日本社会では、自然と人が共存する「里山」が、地域のコモンズ(資源を共同管理する仕組み)として大切にされていました。薪炭といった資源の採取源であり、また適度に人手が入ることで、豊かな森林が保たれていました。同じように日本の沿岸部や沖合には、人が生きることで豊かな海が守られている「里海」も存在します。
人と自然が互いに支え合って、状況に合わせて変化しながら最善のバランスを保つ。だからこそ豊かな環境が維持され、ウェルビーイングを実現できる──こうした好循環を、私はSATOYAMAコモンズと呼んでいます。
2010年に名古屋で開催されたCOP10で、日本は、里山・里海に代表される自然と人の共生を国際社会に訴えました。そして国連大学に事務局を置くSATOYAMAイニシアティブが発足し、自然の恩恵を守り、伝統と近代を融合させ、農林水産業従事者、都市の住民、NGO、企業など多様な主体が参画する「新たなコモンズ」を探究することになったのです。
それから10年あまり経った今、世界中の国が2030年、2050年に目標を置き環境保全や気候変動対策などに努めています。コロナ禍からのグリーンリカバリー(環境に配慮した回復)も注目されています。しかし、ばらばらの施策では効果が薄いものです。統合的な課題解決こそが求められるのではないでしょうか。
例えば日本は30by30目標を達成するために、国立公園など保護地域の拡充に加えて、里地・里山や企業緑地などをOECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)として公に認定することで、環境面と同時に、地域活性化や民間の企業価値向上につなげることを目指しています。手つかずのまま保護する自然、都市のような人間中心の空間、農林水産業地域のように人と自然が共存する圏域──これらをどう位置付けていくかが大切なのです。
一方で開発途上国では、里山的な森林を切り開いて養殖場に変えるといった過剰開発が続いています。イオン環境財団なども回復に向けた支援に乗り出していますが、課題は多く残されています。
2021年から2030年までは「国連生態系回復の10年」。人と自然の調和を回復させる活動に国際社会が目を向けており、各国とつながりながら、国内外でSATOYAMAコモンズの再生と地球の持続性向上に貢献することが一層求められています。