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フォーラム「がんと生きる 〜こころとからだ 私らしく〜 」(徳島)

広告 企画・制作 読売新聞社ビジネス局

フォーラム「がんと生きる 〜こころとからだ 私らしく〜 」 (徳島)

 がん医療の最新情報を伝えるフォーラム「がんと生きる」が5月27日、JRホテルクレメント徳島 クレメントホールで行われ、多くの聴講者が参加した。患者にとって新たな治療の選択肢が広がる一方、がん患者は身体的な痛みだけではなく、精神的な痛みも含めて様々な苦痛におそわれている。がんになっても自分らしく生きるためにはどうすればよいのか —。医療関係者とがん当事者が語り合った。

パネルディスカッション 第1部「がん医療の最前線」

抗がん剤治療で手術が可能に


町永 そもそも、がんとはどういう病気ですか。
島田 人間の体には約37兆個の細胞がありますが、実は毎日約500~1000のがんの芽ができています。がんの芽とは、遺伝子に突然変異で傷がついてできるもの。できてもふつう大きくなることはないのですが、免疫力がなくなってきたりすると、次第に大きくなり増殖して、がんという診断になります。
町永 どのような治療法があるのでしょう。
島田 局所的治療である手術や放射線治療、全身治療の抗がん剤治療。中でも内視鏡手術と抗がん剤治療が非常に進歩しています。内視鏡手術は体に負担をかけずにがんを切除できますし、抗がん剤はうまく使うことで効果的な治療が望めます。がん細胞に対する免疫力を高める免疫療法も、抗がん剤を組み合わせることで治療効果が高まります。また、以前は手術で病巣を切除した後に再発予防のために抗がん剤を使っていましたが、今は手術ができない患者さんに抗がん剤を使い、病巣が小さくなったところで手術に切り替える「コンバージョン手術」という方法が注目されています。「コンバージョン(切り替える)」が困難な難治性のがんもありますが、手術できるほどにならなくても、がんが小さくなれば症状も改善します。
渋谷 10年前、悪性リンパ腫のステージ4の末期と診断されました。抗がん剤が効かなければ余命半年といわれましたが、9か月の抗がん剤治療で回復しました。
町永 抗がん剤は副作用に苦しむケースもありますね。
島田 正常な細胞にも作用するため、脱毛や皮膚の変色、下痢など、様々な症状があらわれることがあります。
渋谷 私の場合、手足のしびれがひどく、モノをつかむことができなくなりました。舌もしびれて水を飲んでも口の横からこぼれてしまう。体力も低下して、仕事をやめなくてはなりませんでした。
河南 そうした副作用のつらさを含めた様々な苦痛に向き合うのが緩和ケアです。身体的な痛みを和らげるだけでなく、患者さんに寄り添い心のケアも行います。漢方薬などを使って体調を整えるのも大切な役割です。
島田 漢方薬は信頼できるエビデンスが出てきて、非常に用いられるようになっています。西洋医学では対処しにくい手術後の不調や副作用の症状にも、工夫して投与することで効果を発揮する場合があります。

【VTR】
大腸から肝臓にがんが転移した池田さん。病巣の大きさから手術困難と診断されたが、2か月の抗がん剤治療で手術ができるまでに病巣が縮小、切除に成功する。それから3年、再発の心配はあるが、池田さんは趣味の野菜作りを楽しんでいる。

徳島大学大学院医歯薬学研究部 消化器・移植外科学 教授
島田 光生氏
しまだ・みつお/九州大学医学部卒業。同大学第二外科に入局。2004年より現職。最前線のがん治療から、漢方なども用いた全人的な患者ケアまで実践している。

がん患者会「ガンフレンド」代表
悪性リンパ腫当事者

渋谷 義久氏
しぶや・よしひさ/10年前、56歳の時にステージ4の悪性リンパ腫が見つかる。抗がん剤治療で回復するが、副作用に悩まされ、仕事を退職。昨年キノコ栽培業に再就職。

徳島県立海部病院 総合診療科 特別医員
徳島大学大学院総合診療医学分野 助教

河南 真吾氏
かわみなみ・しんご/徳島大学医学部卒業。2017年より徳島県立海部病院に勤務。在宅診療を通して患者と家族が望む暮らしに寄り添う。「終活」の啓発にも努める。

心も前向きにするがんリハビリ
町永 吉川さんが行っている「がんリハビリ」も緩和ケアの一つですね。
吉川 精神的に落ち込んでいる患者さんなどには「リハビリなんて」と拒絶されることもありますが、「苦痛を緩和するためのリハビリです」と伝えます。マッサージなどを行い、体を動かしながら患者さんに話しかけるんです。世間話などから始めて様々な話をするうち前向きになられる方は多く、そうすると体も動くようになり暮らしを楽しむ余裕も出てきたりします。
河南 「物語に基づいた医療」といって、人生や過去の経験などを患者さんに語ってもらうことは大きな力になります。ともすると医療現場で見えにくくなりがちなそのひとらしさが取り戻されるのだと思います。
島田 こうした緩和ケアは従来、終末期に行っていましたが、今は診断と同時に始めます。体調を整え、生活の質をあげることは、がんになっても自分らしく生きることの助けになりますし、手術や抗がん剤治療にのぞむ前に体づくりをしっかり行うことも有効です。患者さんの心と体を支えながら、がん治療を進めていくことが大切なのです。

【VTR】
寝たきりだったせいで気力を失いかけていた中川さん。理学療法士の吉川さんのリハビリを通して対話を重ねるうち、これまでの人生を語るように。気持ちも前向きになり、2週間後には歩けるまでに回復。家族と生け花を楽しむ余裕もでてきた。

パネルディスカッション 第2部「医療超えた共生社会」

がん患者の就労、国もサポート


町永 がん患者は生活面でも困難を抱えてます。がんで仕事を続けられなかったり、就職できなくなるケースもあります。
島田 国もがん患者の就労に力を入れています。全国のがん診療拠点病院にあるがん相談支援センターでは、治療状況や体調などを踏まえた仕事探しを手助けしています。周囲に迷惑がかかるからと仕事を諦めてしまうのではなく、できる範囲で働くことも可能かもしれない。まずは相談してもらいたいですね。
渋谷 私も病状が安定してから再就職先が見つからず、がん相談支援センターで仕事を紹介してもらいました。その職場で働いて1年あまり。働くことには社会から認められる喜びもあります。がんになってもあたり前に働ける世の中になってほしいですね。
小倉 私は父と夫がともにがんになり、夫には認知症の症状もあったので、その介護のために仕事をやめなくてはいけませんでした。生活は年金に頼るほかなく、経済的にも大変な時期がありました。
島田 そうした負担を患者さんや家族だけが負うのではなく、みんなで支え合うような共生社会を目指さないといけないですね。

【VTR】
がんのために仕事探しが難航した渋谷さん。ハローワークと連携して職探しをサポートするがん相談支援センターの紹介で、キノコ栽培農家で働くことに。体調に合わせた午前中のみの勤務だが、1年あまりが過ぎた今、職場で欠かせない存在になっている。

家族、准看護師
鳴門市オレンジカフェ連絡会 事務局長

小倉 和代氏
おぐら・かずよ/准看護師として内科病院に勤務の経験がある。10年前に夫が直腸がんを発症。2年前には父親に小細胞肺がんが見つかり、自宅で看取りを経験した。

「もしも」の備えでより良く生きる
町永 がんになっても自分らしく生きるということを考えると、その延長線上に終末期の問題が出てきます。
小倉 看護職経験があったこともあり、父を自宅で看取ることができました。死は悲しい出来事ですが、家族みんなで看取れましたし、父らしい最期を迎えられたのではないかと思っています。
吉川 遠くに住む家族などは死に立ち会うことが難しいですが、家族には後悔が残るかもしれない。生きているうちにどういう最期を迎えたいか話し合っておくことも大切です。
河南 自分は治るから死ぬことは考えないという方もいます。そういう気構えは大切ですが、不安を無理に押し込めているだけかもしれない。「もしも」の準備をしておくと、気持ちにも余裕ができて治療効果につながることもあります。
渋谷 がんになって失ったものもたくさんありますが、得たもののほうが自分にとっては大きい。がんの告知を受けてから12年、その歳月のほうが自分らしく充実した日々を送れている気がします。もし自分が告知を受けても負けないでがんばってほしいですね。
河南 がんになっても自分ひとりで闘わないでください。たとえ身寄りがなくても支えてくれる方はいます。いろいろな方に頼って、みんなで病気とつきあってほしいし、医療者としてそのサポートをしたいと思います。

【VTR】
食道がんで余命半年と診断され、自宅療養する小池さん。河南医師は緩和ケアを行いつつ今後予想される状態も伝える。離れて暮らす長女に、訪問看護師が小池さんの様子を逐一報告する。小池さんの容体が急変、息を引きとった。最後まで寄り添ってくれた看護師に長女は父親の話を聞かせる。

近藤内科病院 リハビリテーション部 理学療法士
徳島がんリハビリテーションネットワーク研究会 世話人

吉川 睦美氏
よしかわ・むつみ/徳島医療福祉専門学校卒業。2016年より近藤内科病院に勤務。緩和ケア病棟でがん患者と関わる。患者が自分らしい生活を送れるよう支援するリハビリを目指す。

コーディネーター
福祉ジャーナリスト

町永 俊雄

主催:読売新聞社、NHK厚生文化事業団、NHKエンタープライズ
後援:NHK徳島放送局、厚生労働省、徳島県 徳島市、社会福祉法人徳島県社会福祉協議会、社会福祉法人徳島市社会福祉協議会、一般社団法人徳島県医師会、一般社団法人徳島県歯科医師会、一般社団法人徳島県薬剤師会 公益社団法人徳島県看護協会、一般社団法人徳島市医師会、徳島県民生委員児童委員協議会、徳島市民生委員児童委員協議会、徳島県がん診療連携協議会
協賛:株式会社ツムラ

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