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フォーラム「がんと生きる 〜こころとからだ 私らしく〜 」(つくば)

広告 企画・制作 読売新聞社ビジネス局

フォーラム「がんと生きる 〜こころとからだ 私らしく〜 」 (つくば)

 

 がん医療の最新情報を紹介する「フォーラム がんと生きる」が5月26日(日)に、つくば国際会議場で開催された。医療の進歩によって新しい治療法が生み出される一方、がん患者が直面する痛みや困難を和らげるために様々な取り組みが行われている。「がんになっても自分らしく生きる」をテーマに、医療関係者とがん体験者が語り合った。

パネルディスカッション 第1部「広がる〝参療〟の理念」

患者の声届けて より良い医療

町永 がんの治療には、どのようなものがありますか。
永井 手術、抗がん剤、放射線治療が3本柱で、最近では免疫療法が加わっています。組み合わせて行うことで治療効果が高まります。
関根 肺がんや膀胱がんなど、免疫療法が適用されるがんの種類は増えていますが、まだよくわかっていない部分もあります。いろいろな治療がある中で、有効性が確認されているのは現状、免疫チェックポイント阻害薬のみです。外からくるものを攻撃する免疫細胞に対して、がん細胞は「自分を攻撃するな」という指令を発します。免疫チェックポイント阻害薬には、その指令をブロックする作用があります。

【VTR】
2年前、肺がんになった男性(83)。手術が困難で、抗がん剤治療も副作用のため中止になり、抑うつ状態に。しかし免疫療法の効果で、5センチの腫瘍が肉眼では見えなくなるまで縮小。希望を取り戻し、医師や支えてくれた妻への感謝の言葉を口にする。

茨城県立中央病院 名誉院長
さいたま記念病院 院長
自治医科大学 名誉教授

永井 秀雄 氏
ながい・ひでお/1973年に東京大学医学部卒業。2015年より茨城県立中央病院名誉院長、19年よりさいたま記念病院院長。患者や家族、一般市民など全員参加型の医療を提唱している。

町永 ゲノム医療という名前も耳にします。
関根 がん細胞内にある遺伝子変化を調べて、一人ひとりに適した治療を行うもので、6月から保険が適用されます。これもどの程度の効果があるのか、まだよくわかっていませんが、もう少しすれば明らかになるでしょう。
町永 新しい治療法が次々と生まれていて、情報のリテラシーも課題です。
志賀 患者側もアンテナを張って、医療者からうまく情報を得るようにしなければいけませんし、情報の取捨選択も重要です。
永井 医療情報にせよ診療方針にせよ、多くは医師から患者さんに一方通行的に提供されていますが、双方向のコミュニケーションが望ましいと思っています。全員参加型が医療の理想。誰もが主体的に医療に参加する「参療」の理念を提唱しています。健康なうちから病気についての知識を得ることも大切です。
町永 がんと診断されると、生活が「がん患者」ということで塗りつぶされてしまうといいます。しかし、当然それ以外の自分もいます。
天池 患者さんも家に帰れば母や妻などの役割がある。病人ではなく、一人の人間として見てほしいという声が患者さんから聞かれることもあります。
志賀 がん体験者が経験を語るスピーカーバンクという活動をしています。18年前に肝臓がんと診断された時、がんについての知識が何もなくて苦労した経験がベースにあります。患者の気持ちやつらさを医療者に気づいてもらい、双方でより良い医療を作っていきたいということと、学校の授業などを通じて、子どもたちに健康や命の大切さを知ってもらいたいという思いがあります。
天池 2人に1人ががんになるといわれます。自分がならなくても友達や親がなる可能性もあり、誰もが他人事ではいられません。まさに参療で、みんなが自分の問題として関わっていく必要があると思います。

【VTR】
「がん体験談スピーカーバンク」で活動する男性(25)が、看護学生に向けて講演する。3年前に大腸がんになった時に感じた医師への違和感や看護師との何気ない雑談の喜びとともに、すべての人が参加してより良い医療を目指す〝参療〟の理念を伝える。

筑波大学 医学医療系臨床腫瘍学 教授
筑波大学附属病院 腫瘍内科 科長、総合がん診療センター 部長

関根 郁夫 氏
せきね・いくお/1989年に千葉大学医学部を卒業後、国立がん研究センターなどを経て2015年4月より現職。免疫チェックポイント阻害薬の有害事象対策と、がんゲノム医療の普及に取り組む。

副作用の症状 漢方で抑える
町永 医療が進歩しても、抗がん剤などの副作用のつらさが患者さんにつきまといます。
常盤 私の場合、初期の頃は吐き気と脱毛、途中から口内炎がひどくなって、食事がとれなくなりました。育児や仕事もあって、日々いっぱいいっぱいの生活でした。
関根 抗がん剤は細胞分裂の速い正常な細胞にも作用するのです。免疫療法でも、全体の数パーセントと頻度は低いものの、重篤な症状になる場合があります。ただ、有効な薬があるので、早めに対処すれば症状を抑えられます。抗がん剤と違って副作用の出る時期がわからず、放っておくと悪化することもあるので我慢せずに早めに相談してください。
町永 がん医療では緩和ケアが必須といわれています。
永井 以前と異なり、早期から行います。治療の副作用を軽減するのが大きな目的ですが、精神的なショックをケアしてあげることも大切。治療しながら生活全般を支えるというのが本来のあり方です。食欲がない、何となく体がだるいといった症状を抑えるのには漢方がよく使われています。いろいろな話をする中で痛みやつらい部分などを詳しく探って、その人に合う治療法を考えることも必要です。

茨城がん体験談 スピーカーバンク 代表
志賀 俊彦 氏
しが・としひこ/2001年、25歳の時に肝臓がんを罹患。2016年から「がん体験談スピーカーバンク(現・茨城がん体験談スピーカーバンク)」に参加し、県内の学校などで講演活動を行っている。

パネルディスカッション 第2部「がん患者の生活支援」

仲間との支え合い 生きる力に

町永 トータルペイン(全人的苦痛)とは。
天池 患者さんの苦痛についての概念です。手術や抗がん剤に伴う痛みや倦怠感といった身体的苦痛、家庭や経済的なことなどに起因する社会的苦痛、不安や抑うつなどの精神的苦痛、死への恐怖に代表されるスピリチュアルな苦痛からなります。
町永 天池さんはがん専門相談員として、患者さんのそうした多様な不安に向き合っています。
天池 がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターで、治療だけでなく生活や就労のことなど、幅広く相談に応じています。ピアサポート事業の支援もしています。ピアとは仲間という意味で、がん体験者が仲間として、来室者の思いを丁寧に聴き、寄り添います。自宅や職場では見せられない弱さを吐き出したり、思い出を語りに来るご遺族もいらっしゃいます。
志賀 私もピアサポートの活動をしていますが、患者さんは、ただでさえ迷惑をかけているという思いから、悩みがあっても家族にもいえない葛藤を抱えているもの。われわれがその話を聞いて、経験を伝えるだけで、すっきりした顔で帰られる方は多いです。
関根 医師にはなかなかできないこと。足りない部分を補ってもらっていると感じます。

【VTR】
緊張した様子でがんピアサポート相談窓口に訪れた腹膜がんの女性。同じ副作用の脱毛経験があるがん体験者との会話で表情がやわらぐ。1か月前に夫を亡くし、自責の念にかられていた女性も、静かに耳を傾ける体験者の前で楽しかった思い出を語るようになる。

日立総合病院 がん相談支援室長
認定がん専門相談員、社会福祉士

天池 真寿美 氏
あまいけ・ますみ/2006年より日立総合病院にて現職。がん専門相談員として、患者や家族の様々な悩みに向き合う。2008年からは、がん体験者が患者に寄り添うピアサポート活動を支える。

元気なうちに 最期と向き合う
町永 人生の最終段階にどういう医療を受けるのかは大きな課題です。常盤さんが施設長を務める有料老人ホームでは、入居者の方々ともそういった話をされるとか。
常盤 アドバンス・ケア・プランニングといいます。本人が元気ではっきり話ができるうちに意思を伝えてもらうことが大事です。いざという時にも慌てずに済み、亡くなった後に残された方の後悔も少ないといわれます。先のことが明確になって、やりたいことが具体的に見えてくるなど、本人にもいい効果があるようです。
永井 病院にも、最終的な治療などについての意思を確認するチェックリストがありますが、形式的なもの。時間をかけて話を聞くというものではない。医療現場の課題かもしれません。
町永 高齢になると、本人より家族の意思が先行してしまうこともあります。
天池 まずは本人の意思を尊重したいですね。例えば、患者さんが退院する際に、どこでどう過ごすのか本人と家族の意思がずれることがあります。本人が自宅を望み、家族が介護できないという場合でも、在宅医療や介護サービスを組み合わせることで自宅に戻れることもある。社会資源の情報が意思決定の助けになります。
町永 早いうちに家族に話をするという習慣ができるといいのかもしれません。
関根 医学には「患者が最高の教師」という言葉があります。参療が広まり、患者さんが積極的に医療に参加していただくことで、われわれ医療者も成長していければと思います。
永井 病気になった人をみんなで支える、そういう社会を目指すべきです。がんに限らず、心臓疾患や認知症など、様々な病気に生活習慣が影響しています。その点を見直しながら、究極的に命を大切にしていきたいですね。

【VTR】
肝臓からリンパへのがんの転移が見つかった女性。入所する老人ホームの施設長・常盤さんが、寿命が近づいた時のことについて尋ねると、苦しい思いまでして治療を続けたくない、ここで穏やかに最期を迎えたいと答え、こうした話ができて安心したと語る。

住宅型有料老人ホーム グランヒルズ阿見 施設長
看護師

常盤 朝子 氏
ときわ・あさこ/2013年より現職。6年前に乳がん、昨年9月に子宮頸がんになった経験を生かし、がん患者や家族が慣れ親しんだ自宅や施設で最期まで過ごせるように寄り添っている。

コーディネーター
福祉ジャーナリスト

町永 俊雄

主催:読売新聞社、NHK厚生文化事業団、NHKエンタープライズ
後援:NHK水戸放送局 厚生労働省 茨城県 つくば市 社会福祉法人茨城県社会福祉協議会 社会福祉法人つくば市社会福祉協議会 一般社団法人茨城県医師会 一般社団法人つくば市医師会 公益社団法人茨城県歯科医師会 一般社団法人茨城県つくば歯科医師会 公益社団法人茨城県薬剤師会 つくば薬剤師会 公益社団法人茨城県看護協会 茨城県がん診療連携協議会
協賛:株式会社ツムラ

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