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フォーラム「がんと生きる 〜こころとからだ 私らしく〜 」(神奈川)

広告 企画・制作 読売新聞社ビジネス局

フォーラム「がんと生きる 〜こころとからだ 私らしく〜 」(神奈川)

適切な治療 導く医療を

 最新のがん医療を紹介するフォーラム「がんと生きる」が、1月17日に新都市ホール(横浜市)からオンラインで配信され、全国から多くの視聴者が参加した。1部の対談では、ステージ4の舌がんから回復した歌手・タレントの堀ちえみさんが、福祉ジャーナリストの町永俊雄さんを相手に、自身の闘病や、今後の夢について力強く語った。2部のパネルディスカッションでは医療者と堀さんらがん当事者が、死亡率が高い高齢者のがんなどをテーマに語り合った。

対談 堀ちえみ×町永俊雄

心の底から“生き抜こう” 堀

町永 2年前にステージ4の舌がんが見つかりました。
 「口内炎」と思い込んでいて、痛みが半年以上続いた末に初めて診察を受けました。その時はがんについて調べて、ある程度覚悟の上でしたが、ショックは大きかったですね。
 先生からは三つの治療法と、それぞれの生存率を示され、家族で相談してくださいといわれました。私としては、最も生存率の高い手術ではなく、薬だけの緩和ケアを望む気持ちに傾いていました。痛みのせいで食べられない、眠れないという日々が続いて疲労困憊(こんぱい)し、それ以上つらい思いを味わいたくなかったからです。人より早く仕事を始めて結婚し、子どもにも恵まれ、人生に悔いはないという思いもありました。
町永 ご家族の反応はいかがでしたか。
 主人には手術をすすめられ、当時高校1年生だった末娘には、「生きてほしい、どんな形でもそばにいてほしい」と泣かれました。その思いを受け止めて、手術を決心しました。術後のことは考えず、とにかく命を守る選択をしなければいけないと思い直したのです。
町永 11時間に及ぶ大手術でした。
 がんがかなり浸潤していたため、舌の約6割を切除しました。さらに、太ももの皮膚を移植して縫い合わせ、新しく舌の役割を担う皮弁を再建しました。術後すぐは皮弁が分厚く、口が閉まらないので、よだれを止めることができません。鏡で自分の姿を見た時には絶望しました。

歌手・タレント
堀 ちえみ 氏
ほり・ちえみ 1967年生まれ。83年に主演したドラマ「スチュワーデス物語」で人気者に。2019年1月にステージ4の舌がんとリンパ節への転移が見つかり、舌の6割の切除と再建手術を受ける。

難しい「ら行」 リハビリで克服
町永 リハビリの日々が始まります。
 嚥下(えんげ)と発声の練習です。嚥下のリハビリでは、とろみのついた水を舌の上にのせて飲み込めるようにします。舌には咀嚼(そしゃく)したものをまとめて、のどの奥に送り込む働きがあり、皮弁でその動きができるようにするのです。発声は言語聴覚士の先生の指導で、一言ずつ音を作っていきます。難しい「ら行」がいえたときは、先生と2人で喜びあいました。
町永 話し続けることが力になっていますね。
 初めの頃は、思うようにいかないことに悩み、なぜ早く病院で検査を受けなかったのかと後悔の念にさいなまれました。しかし、生きると決めたら、くよくよしても仕方ない。自分が食べている姿、話している姿、歌っている姿を夢見ながら困難に立ち向かっていくしかありません。ここまで来たら、這(は)い上がるだけ、生き抜いてやろう。命さえあれば、いいこともある。助けていただくこともある。人生捨てたものじゃない。今は心の底からそう思っています。
町永 全身から生きる力を発散しています。
 来年はデビュー40周年。みんなの前で歌声が披露できるよう、がんばろうと思っています。

コーディネーター
福祉ジャーナリスト

町永 俊雄

パネルディスカッション 高齢者のがん医療

術後の負担少ない手術 比企
高齢者の機能見極める 西嶋
つながる力、コロナ禍も 松沢

再発リスクか 暮らしの質か
町永 がんの死亡率は高齢者、特に75歳以上になると、はねあがります。高齢者のがん医療の課題は何でしょう。
比企 医療者は患者に対して、最良の医療として標準治療をすすめますが、高齢者には適用されません。標準治療は、効果や安全性をはかる臨床試験を経たものですが、高齢者は正確なデータが得られないため、臨床試験の対象外になっているからです。高齢者の治療においては、各主治医が患者の健康状態から治療の強度を調整しています。
西嶋 患者の状態をきちんと把握して、過剰治療や過小治療を避けなければなりません。過剰治療とは、患者が耐えうる以上の治療を行ってしまうこと、過小治療は患者に耐える力があるのに治療を手控えてしまうことです。
町永 比企先生が考案した胃がんの新しい手術法。どんな方法でしょうか。
比企 おなかに小さな穴を開けて器具を挿入し、胃壁の外側から行う腹腔(ふくくう)鏡手術と、胃カメラの先についているメスを使って胃壁の内側から行う内視鏡手術、それぞれのメリットを組み合わせたLECSという方法です。内視鏡で胃の内部の病変を見ながら切り取り線を作り、それに従って腹腔鏡と内視鏡、双方を駆使して手術を行います。
 病変のみを正確に切り取ることができるので、体への負担は少なくて済みます。ただ、胃全摘や胃の3分の2を切除する従来の手術と比べると、再発のリスクが残ります。一方、従来の手術は体への負担が大きく、術後に食事量が減るなどして体力が低下し、他の病気を誘発する可能性があります。再発のリスクか体への負担か。難しい選択です。
西嶋 一般的に手術では治癒を第一に考えますが、特に高齢者では、生活の質をより重視する方も多いので、LECSが新たな選択肢となることを期待します。
町永 従来の手術では術後のサポートが大切になります。
比企 体力が落ちないように栄養指導したり、運動を促進したりします。食欲に働きかける漢方薬を使うのも有効です。

【VTR1】
胃がん(ステージ1)と診断された守谷さん(83)に対し、胃全摘や胃の3分の2を切除する従来の手術と、再発リスクはあるが体への負担が少ないLECS、どちらを行うか。比企医師は、チームでカンファレンスを重ね、結局LECSで患部を切除する。術後の守谷さんは食生活に制限のない日々を元気に過ごしている。

北里大学医学部 上部消化管外科学 主任教授
比企 直樹 氏
ひき・なおき がん研有明病院の胃外科部長を経て、2019年より現職。胃がんを専門とし、LECS(腹腔鏡・内視鏡合同手術)を開発。「病変は取るが、機能のある胃を残す手術」に定評がある。

町永 患者が医療者に意思を伝えることは大切ですが、高齢者の場合、うまく表現できないケースもあります。
松沢 治療の選択肢を示されても、判断できないことは多いかもしれません。
町永 西嶋さんは、その困難に医療者からアプローチする取り組みを行っています。
西嶋 高齢者機能評価といいます。持病、身体機能、認知機能などの点から、どういう問題を抱えているか、時間をかけて客観的に評価していきます。その方の価値観も参考にします。そうして導きだされた評価をもとに、最終的には主治医、患者、家族が治療法を決めますが、一人ひとりにとって最適な治療につながればという思いで取り組んでいます。
 自分で自分のことに気づいていない場合もあります。こうした評価を治療に役立てたいですね。
町永 評価をもとにした暮らしのサポートも行っています。
西嶋 見つかった問題点に対して、理学療法士や栄養士ら多職種で連携して機能改善に努めます。入院中にせん妄(一時的な意識の混乱)を発症すると、治癒やその後の生活に支障が出るため、危険性が高い人には予防を行います。

【VTR2(スケッチ)】
尿道がん(ステージ3)と診断された丸岡さん(81)。尿道と膀胱(ぼうこう)の切除手術が検討されたが、西嶋医師の高齢者機能評価で手術のリスクが高いとされ、放射線と抗がん剤治療を行うことに。40日間の入院でがんは縮小して無事退院。今は自宅で家族と暮らしている。

九州がんセンター老年腫瘍科科長(消化管・腫瘍内科併任)
西嶋 智洋 氏
にしじま・ともひろ 2009年に熊本大学医学部医学科卒業。米国の大学で血液・腫瘍内科と老年医学の専門医を取得。18年に帰国後、九州がんセンターで国内初の老年腫瘍科を設立する。

暮らしの不安 独居者に顕著
町永 一人暮らしの高齢者に向けて視聴者アンケートを行いました。「がんと診断されて不安なことは」という問いに対して、最も多かったのは「日々の暮らし」でした。
松沢 同感です。食べる、寝る、動くという基本的なことが大事だと感じています。
町永 コロナ禍では、この不安に誰しも共感するのではないでしょうか。
松沢 10年近く患者会の活動をしてきましたが、同じ経験者とのつながりが力になると感じています。なかなか直接会うことが難しい現状ですが、オンラインでの交流も力になっています。がん当事者がどうすれば孤立せずに生きていけるか、今後も考えていきたいと思います。
 がん医療は日進月歩で進んでいます。再発を考えると怖いですが、そうなったときにはもっと医療は進んでいるはず。そう思って、どんと構えて生きていきたいですね。
西嶋 高齢者機能評価を取り入れている病院はまだ少ない。少しでも一人ひとりの患者に合ったケアにつながるように取り組みを進めていきたいと思います。
比企 医学的に適切なだけでなく、患者の気持ちに添う選択が適切な治療。その思いをもって、これからも医療を行っていきたいです。

【VTR3】
オンラインで行われた患者会「コスモス」の、シングルの集い。一人暮らしの困難を口々に語る中、一人の女性は、自分の病について打ち明けたことで、近所の住人と親しくなった話をする。それは自分から心を開いたことで、新たなつながりができた体験だった。

神奈川県立がんセンター患者会 「コスモス」世話人代表
松沢 千恵子 氏
まつざわ・ちえこ 1954年生まれ。81年から2006年まで米国に在住。08年に乳がんと診断され、左乳房全摘、同時再建手術を受ける。12年から患者会の活動を始め、がん教育などにも力を注ぐ。

主催:読売新聞社 NHK厚生文化事業団 NHKエンタープライズ
後援:NHK横浜放送局 厚生労働省 神奈川県 横浜市
協賛:ツムラ

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