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フォーラム「がんと生きる 〜こころとからだ 私らしく〜 」(北海道)

広告 企画・制作 読売新聞社ビジネス局

フォーラム「がんと生きる 〜こころとからだ 私らしく〜 」(北海道)

科学的医療 「物語」が支える

 最新のがん情報を紹介するフォーラム「がんと生きる」が11月7日、北海道大学学術交流会舘から全国にオンライン配信され、多くの視聴者が参加した。がん医療では治療効果を科学的にはかる「エビデンスに基づく医療」が重視される一方、その治療過程で困難を抱える患者を支援する取り組みも行われている。こうした今注目されるがん診療の現場をめぐり、医療者や医療関係者、2度の子宮がんを経験するタレントの原千晶さんが語り合った。

“人生に責任” がんに教わった
町永 原さんは30歳の時に子宮頸(けい)がん、その5年後に子宮体がんを罹患(りかん)しました。
 両方経験しているのは珍しいケースだと思います。
町永 売れっ子のタレントで仕事が忙しい時でした。最初に診断を受けた時にはどのように感じましたか。
 とても理不尽に感じて、受け止めることができませんでした。医師に子宮の全摘手術をすすめられましたが、納得できずに温存することに。その後、2年ほど定期検診に通いましたが、もう大丈夫かなという勝手な判断でやめてしまいます。それから3年ほど経った頃、体調を崩して慌てて病院に行ったところ、またがんが見つかりました。がんは早期発見早期治療が大切だということを痛感しています。
町永 がんになって得たものや自分の中での変化を深く考察しています。
 他人や環境のせいにして、自分に都合よく解釈してしまうところがあったかもしれません。がんから逃げ切れると思っていましたが、そんなことはできないのです。自分の人生は責任をもって生きていかなくてはいけないということを、がんが教えてくれました。
町永 自身の体験が他の人の支えになるかもしれないという思いから、婦人科がんの患者会を立ち上げました。
 ブログでの交流が発展したものです。10年が経ち、参加者は約700人にのぼります。他のがん患者がどういう思いでいるのか、どういう過程を経て今にいたっているか、そういう物語を聞かせてもらい、私自身大きな力になっています。

タレント・よつばの会 代表
原 千晶 氏
はら・ちあき 1974年、北海道生まれ。94年に芸能界デビュー。2005年に子宮頸がん、09年に再び子宮にがんが見つかる。10年には子宮体がんを罹患。11年、婦人科がん患者会「よつばの会」を設立し、各地で講演会やイベントに参加している。

パネルディスカッション

重視したい科学的根拠 小松
漢方薬で「守りの医療」今津
物語で自分を取り戻す 大島

エビデンスに基づく医療
町永 「今、一番知りたいことは?」という視聴者アンケートで、約半数の方が「治療のこと」と答えています。
小松 治療法はひとつではありません。様々な治療がある中で、自分にとって何が一番いい治療か判断がつかないという方も多いのかもしれません。
 情報過多で、がんになって慌ててネット検索しても正しい情報に行きつくのは難しいですね。
小松 がんと診断された方は非常にショックを受け、「がん=死」ととらえて、「それならば治療を受けない」といった誤った考えにとらわれてしまうケースもあります。しかし、医療技術の進歩で今では仕事をしながらでも治療はできるし、短期間で回復する場合もあります。そういうがんについての情報を教える「医育」を、子どもの頃から始めることが大切だと感じています。
町永 エビデンスのある医療とは、どういうものでしょう。
小松 エビデンスは直訳すると「証拠」「根拠」。医師個人の経験則によらず、科学的に効果を判定できる医療のことです。エビデンスは段階を踏んで確立されます。化学物質の基礎研究から可能性があるものが動物を対象にした非臨床試験に進み、さらに人間に対する治験が行われます。治験は第Ⅰ相~Ⅲ相まであります。厳しいチェックを通ったものが審査にかけられます。
町永 標準治療とは何ですか。
小松 最新のエビデンスに基づく最良の治療のことです。一次治療、二次治療…と進み、すべてやりつくした、あるいは副作用の影響で標準治療の継続が難しいと考えられる場合には、治験に参加する選択肢もあります。他の薬剤の治験では健康な方が参加しますが、抗がん剤の場合は患者さんに参加いただきます。治験は新治療の開発が目的ですが、標準治療を終えた患者さんの治癒につながる可能性もあります。

【VTR】漢方薬を科学で解明
河野医師は、複数の生薬で構成されているため科学的な解明が難しいといわれる漢方薬の治療効果を検証している。臨床的に効いているものを証明していくという西洋薬とは異なる研究方法だった。一方、研究が進んで、適応が広がる漢方薬も出てきている。

北海道大学病院 腫瘍センター 化学療法部・CancerBoard部 診療教授・部長
小松 嘉人 氏
こまつ・よしと 1989年に東京医科大学卒業。93年から国立がんセンター中央病院で、がんの薬物療法を学ぶ。2008年に北海道大学病院に腫瘍センターを立ち上げる。2011年から現職。最新医療から緩和ケアまで、がん患者のトータルケアを目指す。

ゲノム医療で治療効果を予測
町永 ゲノム医療とは。
小松 がんは遺伝子変異によって発症しますが、患者さんの遺伝子変異を調べることで、個々の患者さんに効果が期待できる薬剤を見つけて行う医療です。検査を受けた方の約6割に何らかの情報を提供できていますが、実際に治療に至ったのは1割程度にとどまります。ゲノム医療の検査で保険承認になるのは、標準治療を終えた方か一部の希少がんの患者さんのみです。結果が出るまでに時間がかかるという問題もあります。
今津 最新の医療情報は国立がんセンターのがん情報サービスのホームページで確認できます。がん種別に検査方法や治療法などの情報がわかりやすくまとめられています。
町永 どんなに治療効果があるがん医療でも副作用を伴います。
 患者会にもリンパ浮腫や排せつ障害などの副作用に悩まれている方がいます。
今津 サポーティブケアで対処します。がん細胞をたたくのが「攻めの医療」とすると、副作用から体を守るのは「守りの医療」といえます。漢方薬がよく使われます。漢方薬はこれまでエビデンスの構築が難しいとされてきましたが、徐々に明らかになっています。例えば、胃腸薬として使われてきた漢方薬が、口内炎に効くといったことなどもわかってきました。

芝大門いまづクリニック 院長
藤田医科大学 医学部 客員講師

今津 嘉宏 氏
いまづ・よしひろ 1988年に藤田保健衛生大学医学部卒業後、慶應義塾大学医学部外科学教室に勤務。2011年の震災を機に患者の傍にいられる町医者を目指し、芝大門いまづクリニックを開業。漢方医学を学び、総合的な観点から診療にあたる。

ナラティブに基づく医療
町永 ナラティブ(物語)に基づいた医療とはどういうものでしょう。
大島 病院で私たちは、患者としてエビデンスに基づく治療を受けています。そこでは細胞や遺伝子、臓器にアプローチする治療が行われますが、それは私たちのごく一部分です。職場や地域、家庭といったところで日々の暮らしをおくる人としての全体像を、自身の人生を語ることで取り戻したいというのがナラティブ医療の目指すところです。
 診療の中で、先生から「仕事はどう?」といった形で医療とは関係のないことを尋ねられることがありますが、うれしいものです。他愛ない会話に救われる実感があります。
町永 医療者もナラティブ医療の必要性を感じています。
今津 若い頃は自分の医療を進めることで精いっぱいでしたが、ある頃から患者さんの話を聞くように心がけています。医療を豊かなものにしてくれるし、自分自身の成長にもつながると思っています。
小松 長年の診療現場での経験から、患者さんのナラティブを聞くだけの関係性は築いていると思っています。ただ、限られた診察時間で充分ではないという実感もあります。ナラティブ医療はそこを補完するものととらえています。
大島 がん経験者や家族が、がん体験を学校や医療従事者の研修の場で語ってもらう活動を行っています。体験を語ることは本人のためであるとともに、聞き手にも感動や学びを与えます。
 いろいろな語り方がありますが、時間の流れに沿ってできごとを、その時々の感情とともにまとめるのが私たちが実践している方法です。つい反省や原因探しをしてしまうものですが、解釈なしに過去をただ追体験する。そうすると、できごとの一つひとつに何かしらの意味が生まれてきます。

【VTR】進行がん 在宅で支援
ナラティブ医療を実践する富山県の在宅医・佐藤医師。進行がんで在宅での緩和ケアに切り替えた患者の体調に目を配りながら暮らしを支えている。医師としてではなく個人として患者に向き合うことが大切だといい、診察後の医師との雑談に、患者は「心が透明になる」と語る。

【VTR】がんの語り手養成講座
4年前、精巣がんに罹患した和賀さん(40)は、「がんの語り手養成講座」の活動で自身の体験を人前で語っている。職場を離れなければならなかったことがつらかったという和賀さんだが、やがて、あまり顧みることがなかった家族のありがたみに気づき始める。

北星学園大学 文学部 心理・応用コミュニケーション学科 教授
大島 寿美子 氏
おおしま・すみこ 千葉大学大学院理学研究科生物学専攻修士課程修了、北海道大学大学院医学研究科博士課程修了。新聞記者時代のがん取材をきっかけに、がんと社会に関する研究と実践を始める。NPO法人キャンサーサポート北海道理事長

エビデンス伝える大切さ
町永 60歳でがんで亡くなった平間さんという女性をVTRで紹介しました。治療が難しい希少がんに罹患した平間さんは、抗がん剤を中止し、行き場のない子どもたちを支援する青年や子どもたちとの交流を続けます。平間さんの死後も、彼女のナラティブは残された者の中に生き続けました。
小松 私の患者さんはほとんどが進行がんですが、正しいエビデンスを患者さんに伝えることの大切さがわかりました。平間さんは医師から治療の難しさを伝えられたことで、積極的治療をやめて自分の経験を次世代に伝えるという方向転換をしました。がんになってどう生きるのかという一つの手本だと思います。
 がんを経験するのは人生の大きなできごと。どうとらえて自分の人生を生きるかは一人ひとりに託されています。私自身は2度のがんを経てぼろぼろになった時、もう一度社会に戻って「誰かのためになりたい」と思った。その思いとともに頑張っていきたいですね。
今津 がん細胞を責める医療と漢方薬を併用して、今後も医療を行っていきたいと思います。
小松 患者さんを長く生かすことを追求したい。そのためにエビデンスに基づいた医療とともに、今日多くを学んだナラティブ医療を取り入れていきたいと思います。

【VTR】死後も生きるナラティブ
堀田さんは少年院や児童養護施設を退所した子どもたちと共同生活を送っている。その家は、希少がんで亡くなった平間さんが生前、行き場のない子どもたちを支援したいという堀田さんの考えに共感して提供したものだった。「自分らしく生きたい」と抗がん剤治療を中止しながらもはつらつと生き、「死ぬのは怖くない」という生前の平間さんの姿に、堀田さんは感銘を受けていた。平間さんの死後も、その言葉は堀田さんの中に残る。堀田さんは「精一杯生きれば死は怖くないのだろうか」と自問を続けている。

コーディネーター
福祉ジャーナリスト

町永 俊雄 氏
まちなが・としお 1971年NHK入局。2004年から「福祉ネットワーク」キャスターとして、各地でシンポジウムを開催。現在はフリーで活動。

■ダイジェスト動画

主催:読売新聞社 NHK厚生文化事業団 NHKエンタープライズ
後援:NHK札幌放送局 厚生労働省 北海道 札幌市
協賛:株式会社ツムラ

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