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フォーラム「がんと生きる 〜こころとからだ 私らしく〜 」(広島)

広告 企画・制作 読売新聞社ビジネス局

フォーラム「がんと生きる 〜こころとからだ 私らしく〜 」 (広島)

 がん医療やがん患者をめぐる取り組みについての最新情報を伝えるフォーラム「がんと生きる」が、10月5日に広島市内のNTTクレドホールで行われ、多くの聴講者が参加した。医療技術の進歩により治療の可能性が広がる一方で、がん患者は様々な苦痛に直面している。がんになっても自分らしく生きるにはどうすればよいのかーー。がん治療の最前線と、がん患者の困難をケアする手立てをテーマに、医療者とがん体験者が語り合った。

パネルディスカッション 第1部「最新医療と取り組み」

尾道方式で膵臓がんを早期発見

免疫力を高めてがんを退治
町永 そもそも、がんとは?
大段 私たちの体内の細胞は日々入れ替わっていますが、その際、必ずDNAのコピーミスが起きます。そうするとその細胞は死んでしまいますが、中には長生きするものが出てくる。それが繰り返されることで「がん化」します。実は毎日5000個くらいの細胞ががん化しているといわれます。通常は免疫細胞が退治してくれますが、そこから逃れるがん細胞が増え続けると、がんの症状があらわれます。
町永 手術、抗がん剤治療、放射線治療が、がんの三大治療といわれます。
大段 がんが局所にとどまっていれば手術、浸潤していて完全に摘出できないなら抗がん剤治療が有効です。手術は患者さんの負担が大きいということなら、放射線治療という選択肢になります。
 他に最近注目されているのが免疫療法です。免疫チェックポイント阻害剤によって、私たちがもともと備えている免疫力を高めて、がんを退治する治療です。免疫細胞は、別にいる司令塔の指示を受け、がんを攻撃します。そのためのアクセルとブレーキのボタンが免疫細胞にはあるのですが、がん細胞は、そのブレーキを押して自分を攻撃させないようにする。免疫チェックポイント阻害剤はブレーキボタンにカプセルをかぶせて、この作用を防ぎます。
町永 大段さんは、他にも免疫を使った治療法に取り組んでいますね。
大段 司令塔なしに自分の判断でがんを退治するNK(ナチュラルキラー)細胞を活用した治療です。NK細胞は数が少ないので体外に取り出して数を増やし、再び患者さんに戻すのです。すべてのがんに効果的とはいえませんが、肝臓がんなどに効果があると考えています。臨床試験の段階ですが、副作用が少ないなど、期待していただきたい治療法の一つです。
町永 こうした様々な治療を組み合わせた集学的治療が行われています。
大段 それぞれ専門性の高い治療ですが、学術的な領域を超え、英知を結集して治療を行います。どの治療をどういう順番で行うか、患者さんに合った方法を考えることが重要です。
町永 術前化学療法とは。
花田 手術後に抗がん剤治療を行うというのが一般的な順序ですが、手術前に抗がん剤治療を行う方法です。抗がん剤でがんを小さくしてから手術で切除を目指します。膵臓がんや直腸がんなどに有効です。
大段 手術した後にわずかでもがんが残ってしまうなら、抗がん剤治療が必要になりますが、術後に体力が落ちて、抗がん剤治療ができない場合があります。それならば術前にやったほうが効果的というわけです。
花田 体力や年齢など、患者さん一人ひとりの状態を見極めて判断することが大切です。
中川 乳がんの場合、乳房を全摘するか温存するかは大きな問題です。術前化学療法で腫瘍を小さくして温存手術で済むなら、患者としてはありがたいですね。

【VTR】
膵臓がんのステージ2と診断された男性(72)。医師は男性の状態を見極め、術前化学療法を選択。抗がん剤治療でがんは縮小、手術で膵臓の2/3を摘出する。後遺症で糖尿病になったものの、男性は仲間とグラウンドゴルフをするなど、昔と変わらない日々を過ごしている。

広島大学大学院 医系科学研究科 消化器・移植外科学 教授
大段 秀樹 氏
おおだん・ひでき/1997年に広島大学大学院博士号取得。同年から2000年までハーバード大学医学部などに留学。08年より現職。国内唯一のNK療法、免疫脱感作療法に取り組む。

JA尾道総合病院 診療部長・ 内視鏡センター長
花田 敬士 氏
はなだ・けいじ/1996年に広島大学大学院修了。2007年から尾道市医師会と協働で、病診連携を生かした、膵癌早期診断プロジェクトを展開。5年生存率の改善などの成果を得ている。

病院と診療所が緊密に連携し成果
町永 膵臓がんは早期発見が難しく、5年生存率が他のがん種に比べて低いですね。
花田 早期の段階ではほとんど症状が出ないためです。症状があらわれた時にはかなり進行している場合がある。膵臓が胃の裏にあって、がんを見つけにくいという理由もあります。
町永 尾道では病院と診療所が緊密に連携をとり、膵臓がんの早期発見につなげています。「尾道方式」といわれる先進的な取り組みです。
花田 もともと尾道の医師会では、退院後に患者さんが自宅で快適に暮らせるような病診連携が行われていました。研究会や勉強会を通じて、診療所の先生方に、喫煙やアルコール、糖尿病といった膵臓がんになりやすい危険因子や、エコー検査で膵臓がんを見つけるポイントなどを啓発させていただき、気になる所見があれば即座に紹介いただくという形を基軸にしています。
大段 すべての診療所の先生方が、がんの専門医ではない。病院と診療所の間で、ちょっとでも気づいたことがあれば連絡し合えるという体制はすばらしいですね。
花田 尾道では市の御協力により、40歳以上の特定健診のオプションとしてがん検診のエコーを安価で受けられる体制になっており、良い効果をもたらしています。

【VTR】
地域全体で膵臓がんの早期治療に取り組む尾道市。女性(68)の血液検査の一部の数値が高いことから、診療所の主治医は腹部のエコー検査を実施。膵管の拡張を認めて、迷いなくJA尾道総合病院を紹介する。早期の膵臓がんと診断され、手術は成功する。

パネルディスカッション 第2部「暮らしを支える医療」

様々な痛みに向き合う緩和ケア

副作用のつらさ漢方薬で対処
岩見 がん患者の様々な痛みに関する「トータルペイン」という考え方があります。身体的苦痛、精神的苦痛、経済的苦痛、スピリチュアルな苦痛からなります。
町永 体だけでなく心や社会的な痛みもある。中川さんが主宰する患者会のアンケートにも、「胸を張ると痛み、6年たっても直視できない」「残業できない体調のため、解雇された」といった声が寄せられています。
中川 乳がんの場合、術後の傷を直視するのはつらいもの。全摘の場合は、ちょっとした動きで痛みが出ることもあります。また、がんになったら仕事ができないという雇用主の無理解で解雇されるケースも多く、周囲に気兼ねして自分から辞めてしまう方もいます。
岩見 痛みは人間に備わった危険のシグナルですが、病気と闘うことも自分らしく生きることも難しくします。そうした痛みに対処するのが緩和ケアです。終末期のイメージがあるかもしれませんが、痛みをやわらげることで生存期間が延長されるというデータもあり、今は診断と同時に行います。
町永 抗がん剤の副作用のつらさにも緩和ケアは向き合います。
大段 抗がん剤はがんが増殖する性格を標的にしているので、血液や消化管の粘膜、毛根など、新陳代謝の激しい正常細胞にも影響してしまいます。ただ、医療の進歩で、かなりの痛みが調整できるようになっています。痛みがあれば遠慮なくいっていただきたいですね。
町永 漢方薬も使われている。
花田 食欲不振や口内炎、便通の調子が良くないときなどに処方します。
町永 経済的な悩みにはどう向き合えばよいのでしょう。
岩見 がん診療連携拠点病院に併設されているがん相談支援センターでは、看護師だけでなくソーシャルワーカーなど様々な職種のスタッフがいて、無料で対応しています。病院にかかっていなくても相談可能です。
中川 制度としては高額療養費や傷病手当金、障害年金、介護が必要になった家族のための介護休業給付金などがあります。

認定NPO法人乳がん患者友の会きらら 理事長
NPO法人広島がんサポート 副理事長

中川 圭 氏
なかがわ・けい/2000年に乳がんと診断され、その後他臓器への転移がありながらも患者会を立ち上げる。現在も治療を続けながら患者の相談支援や、がんに関する講演を行っている。

患者に寄り添い医療を支える
町永 岩見さんはがん看護専門看護師として、患者さんの声に耳を傾けています。
岩見 がんと診断された直後の患者さんは、がんであることも拒絶したいような気持ちです。そういう中で少しずつ話をしていく。目先の短期目標を共有し、仕事や家族の話を聞いていく。そのうち、ご自身で気持ちを整理していかれます。医療者は小さなきっかけを作るだけ。皆さん、困難に立ち向かう力を持っていて、それを引き出してあげる立場だと思っています。
中川 治療を根底で支えるのは気持ち。岩見さんのような存在は患者にとって心強いですね。
花田 様々な医療情報が氾濫する中で、より良い情報を良好な診療連携を通じて、いかに診療所の先生方につないでいくか。その重要性を強く感じています。
大段 ゲノム医療の保険適用が始まりましたが、1年前には想像できなかったこと。がん医療を支える環境は刻々と変わっていて、今はできない治療がもう少しすればできるかもしれない。今後の医療に期待していただきたいと思います。

【VTR】
膵臓がんのステージ5の男性(58)の困難に、看護師・岩見さんが寄り添う。仕事の先行きの不安を知ると、治療と両立できるように治療日程を調整。妻との関係の齟齬に気づくと患者サロンを紹介する。おかげで男性は強い気持ちでがんと向き合えるようになる。

県立広島病院 がん看護専門看護師
岩見 加奈子 氏
いわみ・かなこ/2011年に北里大学大学院でがん看護の修士課程を修了、翌年がん看護専門看護師の資格を取得。がん患者や家族が自分らしく暮らせるように、不安や痛みに寄り添う。

コーディネーター
福祉ジャーナリスト

町永 俊雄

主催:読売新聞社 NHK厚生文化事業団 NHKエンタープライズ
後援:NHK広島放送局 厚生労働省 広島県 広島市 社会福祉法人広島県社会福祉協議会 社会福祉法人広島市社会福祉協議会 一般社団法人広島県医師会 一般社団法人広島市医師会 一般社団法人広島県歯科医師会 一般社団法人広島市歯科医師会 公益社団法人広島県薬剤師会 一般社団法人広島市薬剤師会 公益社団法人広島県看護協会 広島県がん診療連携協議会
協賛:株式会社ツムラ

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