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大阪発フォーラム「がんと生きる ~こころとからだ 私らしく~」

広告 企画・制作 読売新聞社ビジネス局

大阪発フォーラム「がんと生きる ~こころとからだ 私らしく~」

患者と医療者の思い重ね より良い医療へ

最新のがん情報を全国各地で発信している「フォーラム がんと生きる」。2月18日に大阪市の大阪工業大学梅田キャンパスОIT梅田タワーで開催され、オンラインでも配信されました。医療の進歩によりがんの生存率が高まる中、様々な不安や悩みを抱える患者と医療者はどう向き合えばよいのか。今回はこうしたテーマをめぐり、医療者や当事者が語り合いました。

第1部 患者の思いを医療者に

主治医は「自分」

町永 秋野さんは2年前に食道がんになりました。

秋野 5つのがんが見つかり、医師からは食道の全摘出を提案されましたが、声帯も取らなければなりませんでした。その選択は声を失い、仕事ができなくなることを意味します。私の人生設計では考えられないことだったので、ほかの方法はないか医師に尋ね、手術より生存率は落ちるものの、声帯は温存される化学療法を選択しました。もし私がもっと若く、子どもが小さかったら別の方法を選択したかもしれません。
 口幅ったい言い方かもしれませんが、主治医は「自分」だと思っています。治療選択には自分がどう生きるかが大きく関わり、自分の人生は自分で決めるという思いがあるからです。

町永 秋野さんの選択に対する医療者の反応は。

秋野 尊重してくれて、専門の医療者から化学療法についてのセカンドオピニオンも聞いてくれました。患者会の話を聞くと、医療者のすすめで手術したこと、しなかったこと、それぞれに後悔の思いを持っている方もいるようです。医療者と患者の間でうまく意見をすり合わせることができたらと思います。

大植 通常、医療者は生存率の高い治療法から説明し、患者が望まなければ次の治療を提案します。秋野さんは冷静に判断されましたが、がんという診断に動揺して頭がまわらない方は多いです。

髙橋 多くの選択肢を提示しても、医療者に決めてもらわないと困るという方もいます。

女優
秋野 暢子
あきの・ようこ 大阪府出身。1975年にNHK連続テレビ小説「おはようさん」の主役に。86年にキネマ旬報主演女優賞。2022年に食道がんに罹患。約1年間の闘病生活をブログに綴る。23年4月に寛解。

大阪国際がんセンター病院長
大植 雅之
おおうえ・まさゆき 1987年に大阪大学医学部卒業。東京都立駒込病院、大阪府立成人病センター勤務などを経て、23年7月より現職。JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)大腸グループ代表委員。

治療以外の悩み

町永 岸田さんはがん患者の悩みや不安を動画で発信する「がんノート」という活動を行っています=VTR❶=。この10年で話を聞いた患者は300人を超えます。

岸田 患者は治療のことだけでなく、家族や仕事、お金のことなど多くの悩みを抱えています=下図=。医療以外の情報を発信する重要性を感じて活動を始めました。インタビューする人には、等身大の声が大事だから今の思いをそのまま伝えてほしいとお願いしています。

秋野 若い世代でこの病気を患うのはとても大変だと思います。同じ悩みを抱えている方が動画をご覧になったら、がんばろうという気持ちになりますね。

髙橋 診察室で医療者が話すのは治療のことが大半で、患者の生活のことまで気を配るのは難しいのが正直なところです。ただ、関係性ができてくると患者から悩みを話してくれることもあります。

秋野 私は医療者としてはアマチュアですが患者のプロだと思っています。例えばある薬を投与された時の調子の悪さについて、医療者もデータでは判断できると思いますが、微妙な感覚は患者にしかわかりません。そういうことはなるべく正確に伝えなくてはいけないと思っていて、診療時間が短い時にはメモにして看護師に渡すようにしています。

町永 医療以外の情報が求められるようになった背景には、医療の進歩もあります。

大植 手術も低侵襲になって、ある程度生活の質を保ちながら長生きができ、いろいろな悩みも出てきているのだと思います。

【VTR❶】 がん経験者の声を動画で発信
岸田さんは25歳の時に罹患したがんの手術で性障害の後遺症を患った。先行きの不安から情報を得ようとしたが見つけられずに苦しんだ経験から、がん患者は医療情報だけでなく暮らしの課題にどう向き合うかという情報を必要としていることに気づいた。そこでがん経験者に話を聞き、動画を発信する活動を開始。仕事や恋愛、性、家族など様々なテーマで、がんと診断された人が、どう生きるかを模索するありのままの声を届けている。

第2部 患者の人生に寄り添う

治療という「旅路」

町永 髙橋先生が希少がん、ジストの患者と向き合う映像を見ました=VTR❷=。

髙橋 再発と診断されてから、9年間担当している患者です。様々な治療法を一緒に考えながら進めてきました。再発したジストは根治が難しいながらも手術や抗がん剤が効果を発揮するため、その治療過程は長い旅路のようだという思いがあります。

岸田 患者が話しやすい雰囲気を髙橋先生が作っているのが印象的でした。患者が髙橋先生を信頼しているのが伝わりました。

秋野 患者が髙橋先生と話すだけで気持ちが落ち着くと話していました。治療のことばかり考えていると患者はネガティブになってしまうもの。髙橋先生が寄り添うことで、自分の人生に目を向けることができたのは良かったですね。

大植 長期間にわたる治療に対して、大きな病院では異動で主治医が変わってしまう課題があります。1人の医療者が継続的に患者をみる仕組みを作れたらと思います。

【VTR❷】 医師に胸の思いを打ち明ける
9年前から希少がんのジスト患者(78)の治療にあたる髙橋医師。患者はその5年前にがんに罹患したが、当時の医師への不信を抱え、長引く闘病で先が見えない不安を感じている。髙橋医師は診察で、再発したジストが根治の難しい病気であることを繰り返し説明。患者が話しやすい場を作り、医療者側の話が一方的にならないよう心がけている。髙橋医師と話すと落ち着くと言う女性は長年胸に抱えていた思いを吐露し、やがて病気との向き合い方にも余裕が生まれる。

NPO法人がんノート 代表理事
岸田 徹
きしだ・とおる 大阪府出身。25歳の時に胎児性がんと診断される。抗がん剤治療と手術を受けるが2年半後に再発。2014年から、がん経験者にインタビューするYouTube番組をスタート。

大阪大学医学部 医学科教育センター 講師
髙橋 剛
たかはし・つよし 1998年に大阪大学医学部卒業。2008年に大阪大学大学院を修了(医学博士)。上部消化管癌、消化管間質腫瘍に対し、手術・化学療法を中心としたがん診療にあたっている。

漢方薬で副作用緩和

町永 がん医療には副作用があります。どういう対処法がありますか。

髙橋 吐き気止めやしびれの薬は進歩しています。最近では漢方薬が注目されていて、科学的な証明も進んでいます。食欲不振や慢性胃炎に作用するある漢方薬に、食欲を司るホルモンを活性化させる働きがあることがわかってきました。

町永 カルテ共有とはどういうものですか=VTR❸=。

大植 患者が申請してカルテを閲覧するカルテ開示という制度は以前からありますが、カルテ共有は申請なしでカルテを見ることができる仕組みです。現状は限られた病院で行われています。

町永 カルテ共有によって患者の医療者への信頼感が増した、医療者同士の意思疎通がしやすくなったといった声があります。

岸田 カルテ開示したことがありますが、時間がかかりました。「自分の情報なのに」という疑問を感じました。見たい時にカルテを見られる環境は大事です。

髙橋 カルテを見た患者が困ることはないかという懸念もあります。例えば、血液検査のデータに一喜一憂しすぎるのはよいことではありません。

町永 カルテに自分の意見を書き込めるとしたら何を書き込むか。オンライン参加者にアンケートを取りました。半数以上が「副作用や後遺症の生活への影響」でした=下図=。

髙橋 患者の「これからの生き方」がわかれば、医療者は治療法の選択肢を提示しやすくなるかもしれません。診察では聞きにくい質問でもあります。

【VTR❸】 カルテ共有で患者主体の医療へ
群馬大学医学部付属病院では2019年からカルテ共有を始めた。カルテ共有で病気との向き合い方が変わったという患者の意見は多く、医療者同士の意思疎通も良くなったという。30年前に「がん告知を広めたい」という思いからカルテ共有を始めた病院の医師は、患者が医療の対象ではなく主体となるためには、カルテは共有されて当然と語る。一方、患者側にはカルテを見て何をどう判断できるのかというとまどいの声もあがる。

元気に長生きしよう

岸田 悩みごとはすぐに医療者に相談できたらいいですね。言いづらいようなら家族や周囲の誰かに頼めばいい。1人で悩まずに、みんなで悩むことができたらいいなと思います。

秋野 「病は気から」であるとともに「病は知から」でもあり、患者はがんの知識を持つ必要があると思います。疑問があるなら勇気を持って尋ねることが大切です。また、長く生きていれば、進歩著しい医療の恩恵を受けられる可能性も高まります。みなさん、元気に長生きしましょう。

髙橋 医学生を指導する立場でもありますが、がん患者がどういうことを求めているかという教育はまだまだ不足しています。今日、学んだことを参考にさせていただきます。

大植 医療者の考えを押しつけるようなことはしたくありません。もし医療者に伝えたいことがあれば、看護師や薬剤師などを通じてでもいいので伝えてもらえたらと思います。お互いの考えをすりあわせることが、より良い医療につながると思います。

コーディネーター
福祉ジャーナリスト

町永 俊雄
まちなが・としお NHK「福祉ネットワーク」のキャスターを長く務める。現在はフリーの立場で共生社会をテーマにシンポジウム開催などの活動を行っている。

主催:読売新聞社 NHK厚生文化事業団 NHKエンタープライズ
後援:NHK大阪放送局 厚生労働省 大阪府 大阪市 大阪がん患者団体協議会
協力:NPO法人わたしのがんnet
協賛:株式会社ツムラ

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