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フォーラム「がんと生きる 〜こころとからだ 私らしく〜 」 (石川)

広告 企画・制作 読売新聞社ビジネス局

フォーラム「がんと生きる 〜こころとからだ 私らしく〜 」 (石川)

患者の日常 支える医療

 がんの最新情報を紹介する石川発フォーラム「がんと生きる」が7月24日、石川県立音楽堂で開催されました。がんの生存率が高まる一方で、がん患者は様々な悩みを抱えています。医療者とのコミュニケーションの問題や、患者のつらさを緩和するための取り組み、副作用に対処する医療などをテーマに、医療者とがん当事者らが語り合いました。

第1部 医療者との間にある溝

副作用対策欠かせない 元雄
“総力戦”で地域医療を 小浦

町永 医療の進歩により、患者ががんとともに生きる期間が長くなりました。それに伴い医療者と患者の関係の大切さが浮き彫りになっています。がんになった2人の医師のVTRを見てもらいました=VTR1=。ともに発病したことによる気づきを口にしています。
 1人はパネリストの西村さんの亡くなられた夫、元一さんです。患者は見かけ以上に強がっていて、医療者は患者のつらさをわかったふりをしてしまう。お互いに装うことで溝が生まれることがあると元一さんは語っていました。
西村 元気な頃の夫から、患者に自分の気持ちがわかっていないといわれて、ショックを受けたという話を聞いたことがあります。そんな夫が、いざがんになり、副作用の症状一つとっても多様なことを知り、患者の声をもっと聞く必要があったといっていました。
町永 一方患者の方も、医療者に対して強がってしまうものですか。
花岡 副作用がつらくても、つい我慢してしまいます。良い患者と思われないのではないかという意識が邪魔をして、医師に伝えられないことがあります。
小浦 医療者として、患者の主導権を奪わないようにすることを心がけています。目の前の患者についてわからないことがあるという姿勢で診療にのぞむことが大切だと思います。
町永 溝があることが問題ではなく、それを語り合える関係であるかどうかが重要なのかもしれません。
元雄 抗がん剤治療はスケジュール通りにやらないと効果があがりませんが、その過程で、副作用のつらさを患者がどこまで許容できるかを医療者は見極める必要があります。症状については遠慮なく伝えていただきたいと思います。
町永 VTRのもう1人の医師は、早く死にたいというほどのがん特有の痛みの中で、一日一日を充実して過ごすことの大切さを口にします。
西村 痛みがあると元気も出ません。それを取りのぞくことが闘病生活につながります。
元雄 今はオピオイド(麻薬性鎮痛薬)が発達しています。飲み薬、貼り薬、注射など、様々な投与方法があります。

【VTR1】 発病して医師が気づいたこと
大腸がんの専門医・西村元一さんは2015年にステージ4の胃がんと診断される。自身ががんになって感じたのは、患者と医療者の間に大きな溝があることだった。消化器内科医の加登康洋さん(80)はすい臓がんに罹患(りかん)。患者になり、人の世話にならなければならない歯がゆさと激しい痛みに悩む中で、「何気ない日常の大切さ」を口にするようになる。

医療法人社団愛康会 小松ソフィア病院 腫瘍内科 部長
元雄 良治氏
もとお・よしはる/1980年、東京医科歯科大学医学部卒業。84年、米国ダラス・ワドレー分子医学研究所に2年間留学。2021年、金沢医科大学名誉教授。全人的がん医療を目指し、在宅ケアにも力を入れている。

多職種でサポート
町永 副作用の症状にはどういうものがありますか。
元雄 吐き気や白血球の減少は従来からある症状で、薬が発達しています。食欲不振や倦怠感、手足のしびれなどはまだ現代医学で対応できていません。こうした副作用に対処するサポーティブケアを行っています=VTR2=。がん治療を予定通りに進めるために欠かせないもので診断とともに始めます。
町永 どのように進めるのでしょう。
元雄 問診票を書いてもらうなどして患者の状態を注意深くとらえて、その人に合った薬を処方します。栄養改善や就労サポート、生きがい支援なども行い、医療者だけでなく多職種で取り組みます。人生観や価値観までケアする全人的医療を目指していますが、まだ整備されていない面もあります。
小浦 福祉の取り組みとして昔から行われている対人支援や支え合いなど、地域で近いものが見つかるかもしれません。
町永 元雄さんは漢方医でもあり、副作用対策として漢方薬をよく処方されています。
元雄 西洋薬が一つひとつの症状に対応するのに比べ、漢方薬は多様な生薬が含まれていて、一つの処方で複数の症状に対応しています。科学的な研究が進み、エビデンスを示した英語の論文も発表されています。
花岡 私も手足のしびれなどの副作用に悩まされ、漢方薬を何種類か試しました。SNSで知った漢方薬を医師に処方してもらったこともあります。非常に効果があり、痛みが緩和されたものもありました。

【VTR2】 副作用に対処する専門外来
抗がん剤の副作用に苦しむ大腸がん患者の金﨑雄一さん(73)は、副作用を治療する「がん治療サポート外来」に通院する。痛みを過小評価してしまう金﨑さんに対して、担当の元雄医師は腹診を交えながら症状を正確に聞きだし、漢方薬を処方する。そのおかげで体調が回復した金﨑さんは、生きがいである歌謡レッスンを楽しんでいる。

医療法人社団オレンジ 奥能登ごちゃまるクリニック 院長
小浦 友行氏
こうら・ともゆき/石川県輪島市出身。2005年、富山医科薬科大学卒業。17年、公立穴水総合病院に勤務。住民・専門職の“ごちゃまぜまるごと”の支え合いの重要性を痛感。21年に現職。

第2部 苦痛和らげる場の力

患者の生きる力高める 西村
症状を楽にする漢方薬 花岡

町永 西村元一さんは、がん患者にとって家庭でも病院でもない、本音を話せる“第3の居場所”として「元ちゃんハウス」という施設を作りました=VTR3=。
西村 夫はそういう場の必要性を、がんになると思ってもいない10年前から考えていました。その後がんになって、残された時間に限りがあることを知り、生きた証として施設を完成させました。その半年後に亡くなり、私たちに後を託しました。
花岡 診察後すぐに家に帰りたくないことがあります。そういうときに気にかけてくれる人がいる場所はありがたいもの。悩みを打ち明けなくても、一緒にいてもらえるだけで気持ちが楽になります。
西村 その日の検査結果を報告しに来る方や、主治医との齟齬(そご)や家族の愚痴といったことを吐きだしていかれる方もいらっしゃいます。患者同士の支え合いも大きな力になっています。
町永 患者を人間としてとらえ直して、その人自身の回復する力を掘り起こしてくれる場所のように感じます。
小浦 医師と患者、治療する方される方という関係になってしまう病院では、なかなか難しいことかもしれません。

【VTR3】 患者を救う“第3の居場所”
「元ちゃんハウス」は、西村元一さんが作ったがん患者交流施設。病院からほど近く、患者が自由に立ち寄りスタッフに気兼ねなく悩みを話すことができる。がん患者の大平三四郎さんはそんなハウスに救われた一人だ。退院が決まると、かえって不安が募り眠れない日が続いた。しかし、ハウスで話を聞いてもらううちに悩みが晴れ、夜も眠れるようになった。

認定NPO法人 がんとむきあう会 理事長
西村 詠子氏
にしむら・えいこ 進行胃がんに罹患した外科医の夫、西村元一の願いであるがん患者の支援施設「元ちゃんハウス」を、仲間とともに完成させる。2017年に夫を看(み)取った後、その遺志を引き継ぎ、現職に就任。

経験生かして支援
町永 小浦さんはご出身の輪島市で地域医療に関わっています=VTR4=。
小浦 医療を行う上で地域には足りない部分もありますが、いろいろな立場でがんばっている方がいます。お互いの強みを生かして支え合いながら、私が医療者としての機能を果たせればと思っています。
町永 がんになっても地域で自分らしい暮らしを続けたい。しかし現実的には難しく、大病院に入院するというケースもあります。
小浦 私自身、在宅医療でオピオイドを使い、人工呼吸器の患者のケアもしています。輸血も選択できます。ただ、医療器具を持ち込みすぎると家の中が病院に近づくことにもなります。そのバランスをどうとるかが大切です。
花岡 学びの多いフォーラムで、心境の変化もありました。今はインストラクターとして障害者水泳に取り組んでいますが、がん当事者としての経験を生かして患者をサポートしたいと思うようになりました。
西村 元ちゃんハウスは集う方が主役。今後も皆さんの生きる力を高められるような活動をしていきたいですね。
小浦 地域や家、大切な人に囲まれる環境は患者にとって大きな力です。“総力戦”とよくいうのですが、あらゆる地域のリソースを使って患者を支えたいと思います。
元雄 診療で患者との本音トークを心がけています。いい球を投げて、患者も医療者も笑い合える医療を行っていきたいですね。

【VTR4】 訪問診療 患者との対話
ステージ4の前立腺がんに罹患した白井雅(ただし)さん(84)は転移が見つかるが、検査や治療は必要ないとの考えから自宅に戻っていた。訪問診療を行っている小浦医師が白井さんの自宅を訪れる。会話を重ねる中で、白井さんの選択にいたる思いを読みとろうとする。白井さんは会話を楽しみ、小浦医師はこの時間をできるだけ長く続けたいと強く思う。

水泳インストラクター
花岡 修子氏
はなおか・しゅうこ ステージ4の大腸がんに罹患。治療を続けながら水泳のインストラクターとして、障害者向けの水中運動やレクリエーションに取り組んでいる。がんになってもできる運動やストレッチを発信中。

コーディネーター
福祉ジャーナリスト

町永 俊雄氏
まちなが・としお/1971年にNHK入局。2004年から「福祉ネットワーク」キャスターとして、各地でシンポジウムを開催。現在はフリーで活動。

主催:読売新聞社 NHK厚生文化事業団 NHKエンタープライズ
後援:NHK金沢放送局 厚生労働省 石川県 金沢市

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