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漢方のチカラvol.8 摂生に努め「新生活」に備える

広告 企画・制作 読売新聞社ビジネス局

漢方のチカラ vol.8 摂生に努め「新生活」に備える

 ウイルスや細菌などが原因となり、のどや気管支といった呼吸器に発症する呼吸器感染症。いわゆる風邪(風邪症候群)やインフルエンザといった身近な病気のほか、今、世界的に感染が拡大している新型コロナウイルスもその一種です。漢方では、その治療に際して、どのようなアプローチをとるのか。漢方医学を専門とし、西洋医学と融合した医療に取り組む新井信先生に聞きました。

自覚症状があれば病気とみなす漢方医療

東海大学医学部
専門診療学系 漢方医学 教授
新井 信 先生

 臨床で治療方針を考える際には2通りのアプローチがあります。一つは患者の検査異常や病変部位に着目する方法、もう一つが患者の不快な自覚症状に着目する方法です。一般的に前者が西洋医学の、後者が漢方医療の考え方といえます。私が所属する大学病院の漢方外来には、自覚症状があるにもかかわらず、検査上は異常がないために西洋医学の診療を受けられなかった方が多く来院されますが、自覚症状があれば病気とみなすのが漢方の考え方です。
 もっとも日常の診療では、例えば早期がんでは通常、病変があっても自覚症状が乏しい、心身症では愁訴の自覚があっても検査では異常が見つからないことが多いなど、検査データと自覚症状が一致しないケースはよくあります。「日本型の統合医療」と私はいうのですが、漢方と西洋医学、双方の特質をよく知ったうえで、うまく融合させた治療を行うことが望ましいと考えています。

自然治癒力、免疫力を高めよう

 呼吸器感染症とは、鼻やのど、気管支、肺といった空気の通り道に関連した器官に生じる感染症のこと。ウイルスや細菌、真菌などの病原体が、飛沫感染や接触感染することで発症します。風邪やインフルエンザのほか、結核なども呼吸器感染症の一種です。風邪はライノウイルスやコロナウイルスなどが原因で発症するとされます。また、肺炎球菌やマイコプラズマ、黄色ブドウ球菌などは、下気道感染、特に肺炎を引き起こす原因となることがあります。
 感染症の治療においても、西洋医学が病因となるウイルスや細菌をターゲットとし、除去することを目的とするのに対して、漢方は病因に対する「生体の闘病反応」、つまり症状を重視し、軽減するというアプローチをとります。一般にウイルスが原因となる風邪に対しては、細菌感染症に用いる抗生物質は効果がなく、変異株が多いために特効的な抗ウイルス薬もないので、患者の自然治癒力や免疫力を高めることが重要になります。

症状や体質から治療法を選択

 治療方法は症状や患者の体質などから決定します。例えば風邪のひき始めには、ある程度しっかりした体格の方ならば葛根湯(かっこんとう)を用いる機会が多いです。病気が進行して、口が苦い、粘つくといった症状が出てくれば、小柴胡湯(しょうさいことう)を処方します。高齢者で顔色が悪く、悪寒が強いといった症状があらわれた方には、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)を用います。

古代の書に「ウィズコロナ」を生きる知恵

 新型コロナウイルスは人類にとって未知のウイルスであり、まだわからないことばかりで、抗ウイルス薬やワクチンも開発されていません。対策としては、人の移動制限や発病者の隔離、個人としてはマスク着用や手洗い、うがいなどの有効性が実証されていて、まずそうしたことを実践する必要があります。一方、漢方の立場では、不快な自覚症状の改善に努め、免疫力や自然治癒力を高めることが重要と考えられます。そのためには、栄養バランスのとれた食事や適度な運動を心がけるなど、日頃の生活にしっかり配慮することが大切です。
 新興感染症のパンデミック(大流行)は大昔から繰り返されています。約100年前にはインフルエンザの一種であるスペイン風邪で多くの犠牲者が出ましたし、ここ20年ほどの間にも、コロナウイルスが原因の重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)が流行しています。こうした疫学の歴史をふりかえると、人類に大きな打撃を与えるウイルスの多くをいまだに除去できずにいることに気づきます。完全に排除できないのであれば、われわれ人間が変わるしかありません。病を克服するための医療技術の開発は重要ですが、一方で今、新しい形でウイルスと共存していく方法が模索されています。自然を受け入れ、自然に従って生きるという東洋的な考え方や姿勢が見直されている表れではないでしょうか。
 古代中国、秦の時代に書かれた「呂氏春秋(りょししゅんじゅう)」という書物に、長寿は「短い命を継ぎ足して得られるのではなく、天から与えられた命を全うすること」という記述があります。これは長生きというのは、命を延ばすのではなく、すり減らさないことという意味であり、そのために同書は、不摂生や不養生をしないように、と説いています。「ウィズコロナ」の時代、自分で自分の健康を維持し、身を守るためのヒントになればと思います。

東海大学医学部 専門診療学系 漢方医学 教授
新井 信 先生
1981年、東北大学薬学部卒業。88年、新潟大学医学部卒業。医学博士、総合内科専門医、漢方専門医・指導医。専門は漢方医学。東京女子医科大学消化器内科、同大学附属東洋医学研究所を経て、2005年から東海大学医学部。著書に『症例でわかる漢方薬入門』(日中出版)、『わが家の漢方百科』(東海教育研究所)。

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