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漢方のチカラvol.7 個々に合った便秘治療が可能に

広告 企画・制作 読売新聞社ビジネス局

漢方のチカラ vol.7 個々に合った便秘治療が可能に

 便秘が続いても病院に行かずにいる人は意外に多いのではないでしょうか。しかし、実は便秘は心筋梗塞などにもつながりかねない危険な病気。最近は治療の選択肢も増え、西洋薬のほか漢方薬も使われるようになってきました。消化器内科医の中島淳先生に、便秘治療における漢方薬の役割を聞きました。

軽く見がちな便秘、実は多くの病気に伴う症状

横浜市立大学大学院医学研究科
肝胆膵消化器病学教室
主任教授・診療部長
中島 淳 先生

 便秘とは、医学的には二つの定義があります。一つは排便回数の減少で、これは1日1回だったのが3〜4日に1回というように「出にくい状態」に変化していること。もう一つは排便困難症状で、毎日出るが固くてつらい、残便感があるなど「出しにくい状態」であることです。このいずれか、または二つともが見られる場合は便秘と診断できます。
 例えば旅行中だけのような一過性のものであればいいのですが、若い頃はそうではなかったのに、中年以降に急に症状が出たということであれば、早めに受診してください。便秘は大腸がんやパーキンソン病、認知症など多くの病気に伴う症状です。また、薬の副作用という可能性もあるので、服薬中の方は担当医に相談してみてほしいと思います。
 患者さんの多くは、ヨーグルトや野菜を摂ったりして改善しようとしますが、便秘は治療が遅れるほど治りにくくなるもの。症状が軽いうちに適切な治療を開始し、ある程度症状が治まってから食生活や運動習慣を改善していくのが正しいステップと言えるでしょう。
 理想的なのは、熟したバナナのような便です。排泄にかかる時間は長くても1分以内と考えてください。特に高血圧や心臓病の方は、長時間力むと脳卒中や心筋梗塞を招く危険があります。同時に、普段の排便でも正しい姿勢を保つよう心がけましょう。腿(もも)にヒジをつき、ロダンの彫刻「考える人」のような姿勢をとると、直腸がまっすぐになってスッキリと出やすいと思います。

漢方薬が便秘のトータルケアを実現

 便秘の治療法は、一昔前は限られた選択肢しかありませんでしたが、今の日本では複数の西洋薬や漢方薬を使うことができます。特に漢方薬は種類も豊富で、症状の軽い方から重い方まで、また若い方から高齢者まで、一人一人の状態に合った「テーラーメイドの治療」ができるのが特長です。
 例えば私は、高血圧や肥満に伴う軽い便秘には効き目がやさしい「防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)」、高齢者には「麻子仁丸(ましにんがん)」や「潤腸湯(じゅんちょうとう)」などをよく処方します。また、お腹の張りや痛みには「大建中湯(だいけんちゅうとう)」などが適しています。
 何千年もの歴史を持つ漢方薬ですが、近年は研究が進み、効果に関する科学的根拠が明らかになってきました。治療に取り入れる医師も増えつつあり、個人的には漢方薬は患者さんの満足度が高いと実感しています。その理由としては、適切に使えば、便が出る出ないという結果だけでなく、便秘に伴うつらい症状も緩和できる点が挙げられるでしょう。
 便秘治療の目標は「ウサギのように固くコロコロした便から熟したバナナのような便へ」です。漢方薬には、この目標はもちろん、同時に起きやすいお腹の張りや痛みにも応えられる可能性があります。患者さんの訴えをじっくり聞き、その時々の状態に適した処方を提供する──。こうした医療を通してこそ、一人一人に合った「便秘のトータルケア」ができるのだと思います。

便秘をコントロールして健康長寿へ

 私が漢方薬を処方するようになったのは、患者さんの訴えがきっかけでした。診療では、便秘と同時に腹部膨満感を訴える方が多く、どうしたら緩和してあげられるのだろうと悩んでいました。ある時、漢方薬という選択肢もあることを知り、処方したところ、患者さんが非常に満足してくれたのです。
 患者さんは皆、つらい症状がとれることを期待して病院に来られます。医師として、その期待に応えられたのは大きな喜びでした。日常生活の中のつらさはQOLを低下させてしまいます。特に高齢者では、便秘で外出を敬遠するようになったり、食欲が減少したりする場合もあります。
 外出や食事への意欲低下は、心身が老い衰えた状態「フレイル」や、身体機能が低下する「サルコペニア」のきっかけになり得ます。便秘や不快症状の緩和で生活がアクティブになれば、こうした状態の予防に、ひいては健康長寿にもつながることでしょう。
 今、便秘治療の選択肢は豊富にあります。便が出にくい、出しにくいといった症状があれば早めに受診して、積極的に便秘のコントロールに取り組んでください。

横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 主任教授・診療部長
中島 淳 先生
1989年、大阪大学医学部卒業。東京大学第3内科助手、ハーバード大学医学部客員准教授などを経て、2008年より横浜市立大学付属病院消化器内科教授。14年より現職。専門領域は消化管運動異常。慢性便秘症診療ガイドライン作成委員メンバー。『世界一受けたい授業』(日本テレビ系)などテレビ番組でも活躍。

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