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漢方のチカラ vol.19 フレイル予防で寝たきりを防ぐ

広告 企画・制作 読売新聞社ビジネス局

漢方のチカラ vol.19  フレイル予防で寝たきりを防ぐ

「フレイル」とは、健康と要介護の間の虚弱な状態を指します。進行すると要介護に至る可能性が高くなるため、普段からの予防や早期対応が重要です。老年医学を専門とする鳥羽研二先生に、フレイルの予防策や漢方によるアプローチ方法などを聞きました。

早期に対策をとれば回復が可能

鳥羽 研二 先生

私が専門とする「老年医学」は、高齢者が抱えやすい疾患や諸問題を包括的に治療・ケアし、心身の健康増進を目指すものです。現在、理事長を務めている東京都健康長寿医療センターでは、特に要介護状態に結びつきやすいフレイルや認知症、慢性疾患などを中心とした診療を行っています。

フレイルとは、心身のストレスにもろく生活機能が低下しやすい状態を言い、進行すると要介護状態、つまり「寝たきり」に至る危険性があります。実際、要介護となる要因では、高齢による衰弱、関節疾患、骨折・転倒といったフレイル関連の症状も多くを占めています。さらに、フレイルは慢性心不全や糖尿病といった慢性疾患があると加速しやすいこともわかっています。

一方で、フレイルは早期に適切な対策を行えば、元の健康状態に戻ることも可能です。一番大切なのは予防ですが、もしなってしまったとしても初期はまだ後戻りできる状態。ですから、「フレイルかな?」と思ったらすみやかに受診して、医師による診断・治療や生活指導を受けてほしいと思います。

日本では近年、健康意識の高まりなどによってフレイル患者が顕著に減り、発症年齢も以前に比べて5歳も遅くなりました。しかし、コロナ禍を経た今、患者数はコロナ禍以前の約1.5倍に増えてしまっています。

生活指導に加え漢方治療も一般的に

患者数の減少を目指し、私たち医療者もフレイルへの取り組みを強化しています。すでにフレイルサポート医や同看護師、同栄養士の育成を始めており、当センターでもフレイル予防センターやフレイル外来を設けました。目標は、すべての医療関係者にフレイルの知識を共有してもらうこと。私は、それこそが早期発見および患者さんの減少につながると信じています。

フレイルの基本的な治療法は三つです。一つ目は運動で、1日5000歩を目指して歩いてもらうこと。二つ目は栄養で、1日に7品目以上の多様な食品をとってもらうこと。そして三つ目はコミュニケーション(社会参加)です。働けるうちは働いて他者と交流していると、寝たきりになる率がかなり低下することがわかっています。

また、近年は漢方薬を用いた治療も一般的になっています。漢方で言う「虚弱」はフレイルと極めて近い概念で、症状改善に役立つ薬も少なくありません。代表的なのは補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や大建中湯(だいけんちゅうとう)で、いずれもしっかりとしたエビデンスがあります。

漢方薬は、フレイルの原因となる疾患に対して、全身に栄養を与えたり気分障害を改善したりといった目的で使用することもあります。さらには、西洋薬なら2種類必要なところを漢方薬なら1種類で済ませられる場合もあります。これらは漢方薬の大きな利点だと思います。

予防とセルフチェックを心がけて

とはいえ、フレイルにおいて一番大切なのは「予防」です。予防法は先ほどお話しした治療法とほぼ同じですが、運動では年齢と個人差を考えて、例えば80歳なら週2〜3時間程度までにとどめるようおすすめします。

栄養は多様な品目の摂取を基本にしつつ、特に肉を含む良質のタンパク質と野菜をとるよう心がけましょう。社会参加については、仕事をするのが難しい場合でも、趣味や行きつけの店などを作って、外出を増やすようにしてほしいと思います。

フレイルのセルフチェック方法もいくつかあります。足腰の関節が痛むようになった、寝つきが悪い、夜中に目が覚める、トイレが近い、つまずくことが増えた、目が見えにくくなった──。こうしたことが気になったら、フレイルを疑ってみてください。

どの症状も高齢になると出やすいものですが、その陰には筋力減少などのフレイルの症状が隠れている場合もあります。私たち医療者も、内科や整形外科、泌尿器科、眼科など、患者さんがどの科にかかっても「隠れフレイル」を早期発見できるよう知識の共有に努めていますので、ぜひ早めの受診をお願いします。

フレイルは予防も改善も可能です。あまり心配しすぎることなく、今日からできることをしていきましょう。

東京都健康長寿医療センター 理事長
鳥羽 研二 先生
東京大学医学部卒業。専門は老年医学。東京大学医学部附属病院、国立長寿医療研究センター理事長・総長などを経て2019年より現職。日本老年学会理事、「国民の健康と医療を担う漢方の将来ビジョン研究会」代表世話人。

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