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オーラルフレイルの予防と漢方

広告 企画・制作 読売新聞社ビジネス局

漢方のチカラ vol.18  オーラルフレイルの予防と漢方

最近食べ物が噛めなくなってきた、滑舌が悪くなってきた、口が乾く──。そんな口の機能のささいな衰えを「オーラルフレイル」と言い、全身の衰えにつながるため、予防の重要性が叫ばれています。今回、対策や漢方によるアプローチ方法などについて、医師・歯科医師の米永一理先生に聞きました。

口の機能の衰えが介護への入口に

米永 一理 先生

私は医師・歯科医師として、「食べる」を支えることで健康寿命を延ばす取り組みを続けています。食べる上で大事な要素のひとつが口の機能ですが、これは老化や生活習慣、疾患などによって衰えていくことがあります。

むせる、食べこぼす、滑舌が悪い、口が乾くといったことが気になり始めたら、それは口の機能が衰えてきたということかもしれません。こうしたささいな口の機能の衰えは「オーラルフレイル」と呼ばれ、放置していると少ししか食べない、軟らかいものばかり食べる、あごの力が弱まるなどの悪影響が出てきます。

フレイルとは健康と要介護の間の虚弱な状態のことで、オーラルフレイルはいわば「口腔の虚弱」。これが進むと段々と食べられなくなってきて栄養がとれなくなり、全身のフレイルへ、さらには要介護状態へと進行してしまう可能性があります。オーラルフレイルは介護への入口と考えて、40〜50代から意識的に予防に取り組んでいただきたいと思います。

日常生活の中でできる予防法としては、普段から食事をよく噛み、人とよく喋って積極的に口を動かすことをおすすめします。また、かかりつけの歯科医を持って口腔ケアを心がけることや、普段から口のささいな衰えに気をつけておくこと、バランスのとれた食事で必要な栄養素や筋肉量を維持することも非常に重要です。

歯科医に広がる「漢方」という選択肢

さらに、舌が上あごに接触する力「舌圧」を維持することも大事です。食べるときは舌の筋肉も使いますが、これは使わずにいるとやせてきて、しかも一度やせると元に戻りにくいことがわかっています。舌圧は握力や歩行能力、食事内容とも関連があるため、普段から軽い運動をしたり、軟らかいもの以外も食べたりするように心がけましょう。

そして、舌圧も含めて口の機能の衰えが気になってきたら、早めに歯科医に相談してください。予防と早めの受診を意識することで、オーラルフレイル対策はもちろん、衰えをある程度改善したり進行を食い止めたりできる可能性も高まります。

近年、オーラルフレイルやその予防に対しては、漢方薬も使われるようになってきています。漢方薬の中には、食欲不振を改善して栄養の摂取を助ける、身体機能を高めて歩行などを促す、会話や外出など社会参加への意欲を促進するといった効果が期待できるものがあり、私自身もよく処方しています。

例えば、食欲不振や体力回復を目的として、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)などを使っています。こうして「食べる」を促すことで、噛む力や栄養状態の回復を図り、口腔機能や心身機能の低下を防ぐよう努めています。

様々な角度から「食べる」を支える

ただ、日常生活における「食べる」は、口の機能が正常なだけでは成り立ちません。食事は、自分で食材の購入から調理、食欲、消化吸収、スムーズな排泄、片づけまですべてができて初めて可能になります。体力や認知機能などの低下によってこれらの段階のうちどこかに問題が出てくれば、やがて食べられない状態が続く「イートロス」に陥ってしまうでしょう。

その点、漢方薬にはそれぞれの段階の助けになるものがあり、イートロスを防ぐ上でも大いに役立ちます。しかも日本では、医師や歯科医師は西洋薬と漢方薬の両方を処方できます。両方のいいところを組み合わせて使っていけるのは、「食べる」のすべての段階を総合的に支える上でも、健康寿命を延ばす上でも大きなメリットと言えます。

私たちの研究では、若い人よりも65歳以上の人のほうが、食べることに幸せを感じる割合が高いという結果が出ています。食べることと、そこから得られる幸せを支えてあげるために、今は漢方という選択肢もあるのです。

オーラルフレイルには予防と早めの対応が必要です。ぜひ信頼できるかかりつけ医を持って、気がかりなことがあれば相談し、正しい情報を得るようにしてください。「食べる」に関する不具合は要介護状態への第一歩と考えて、予防に努めると同時に、普段からご自身やご家族の状態に気を配っていただければと思います。

東京大学大学院医学系研究科 イートロス医学講座 特任准教授 (2024年4月~ 日本大学歯学部摂食機能療法学講座主任教授)
米永 一理 先生
鹿児島大学歯学部、東海大学医学部卒業。医師・歯科医師・博士(医学)。東京大学医学部附属病院助教、JR東京総合病院総合診療科医長などを経て2020年より現職。「食べる」を支える活動を総合的に行っている。

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