文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

漢方のチカラ vol.16 疲れ具合を見極める漢方医療

広告 企画・制作 読売新聞社ビジネス局

漢方のチカラ vol.16  疲れ具合を見極める漢方医療

 日々の生活のなかで、わたしたちが感じている「疲れ」。実は人間の生体が発する警報である可能性もあるといいます。そんな疲れに対して、漢方ではどのように対処しているのか。西洋医学と漢方を併用した診療を行っている並木隆雄先生(国際医療福祉大学成田病院)にうかがいました。

疲れは人間の体が示す黄色信号

並木 隆雄先生

 「疲れ」とは、これ以上動くと不調が生じるという、人間の体が示す赤信号の一歩手前、黄色信号の状態です。一晩寝ればおさまる単なる疲れもありますが、ここで話題にするのは、そういうものではなく、無理をすると何らかの病気を引き起こしてしまうかもしれない、いわば体が発する警報といっていいでしょう。

 西洋医学では、こうした疲れに対して睡眠や休息をしっかりとることや栄養補給、ビタミン剤の摂取といったことをすすめますが、漢方でも生活習慣について、同様の指導を行います。これを養生(ようじょう)といいます。このとき漢方では「気(き)・血(けつ)・水(すい)」という考え方を用いて、その方の状態を判断します。「気」は目には見えない生命エネルギー、「血」は全身をめぐってさまざまな組織に栄養を与えるもの、「水」は血液以外の体液全般に相当します。

 疲れは「気」が足りていない状態ということになります。また、気が十分にあっても停滞してしまっている「気滞(きたい)」や、エネルギーの使い過ぎにより自律神経が乱れた状態、「気逆(きぎゃく)」という判断になることもあります。

 そのうえで漢方薬を処方することもあります。よく使われるのが補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)で、疲れの状態を細かく見極めた上で使い分けます。疲れの初期段階や、もともと元気な人がストレスや過労、術後で体力が落ちている状態には補中益気湯を処方します。わかりやすくいうと、これは栄養ドリンクのようなものです。十全大補湯は、疲れの度合いが進んで慢性的になっている場合、あるいは「気」だけでなく「血」も減っているときに処方します。症状としては貧血や、顔色が悪いといった状態が対象になります。

 人参養栄湯は十全大補湯の親戚のような薬ですが、熱っぽさや呼吸器系の疾患を併発したときなどに処方します。このほか夏バテのような脱水症状がみられる場合には清暑益気湯(せいしょえっきとう)を、食欲不振には六君子湯(りっくんしとう)を使います。

漢方と西洋医学の併用に手ごたえ

 私が漢方を学び始めたのは大学生の頃です。もっとも大学入学前から洋の東西の医学を結びつけることが最良の医療ではないかという思いがありました。実際に大学の東洋医学研究会というサークルで漢方の考え方に触れて、たいへん感銘を受けました。体質を見極めて、一人ひとりにあうオーダーメイドの処方をするという考え方です。今注目されている個別化医療にも通じるといっていいでしょう。「これは勉強する価値がある」と思い、以来ずっと漢方のことを学び続けて、現在にいたります。

 漢方には西洋医学とは異なる特徴がありますが、互いを補い合えるところに魅力を感じています。西洋医学では病名と治療法がある程度系統立てて定められています。そのうえでまず病名を診断して、その病名に基づいた治療を行います。一方、漢方はあまり病名にとらわれず、先ほどお話しした「気・血・水」などの考え方から、その方の状態を見極めて治療にあたります。この二つのアプローチを併用することに意義があります。複数の治療法を持つことで、症状に対処するツールが増えるからです。実際に多くの患者さんから、こうした治療の効果を実感したという声をいただいています。

生活を見直して疲れを改善しよう

 疲れの原因は多くの場合、生活習慣にあります。ですから、過度に疲れが気になるようなら、その原因となるものがないか、まず自分の生活を振り返ってみてください。これは重要なことで、原因が改善されていなければ、仮に薬で症状がよくなっても一時的な回復でしかなく、また同じことが繰り返されてしまいます。

 例えば忙しくて寝る時間がとれていないなら、仕事量を減らすなどして寝る時間を確保するようにしてください。良質な睡眠は疲労回復にたいへん効果があります。食事に問題があると感じるならば、規則正しくバランスのよい食生活を心がけてください。冷たいもののとりすぎは新陳代謝の低下や胃腸不良を招き、疲れの原因になることがあります。体を冷やすようなものの飲食は控えるようにしてください。

 そのように生活の改善を図っても疲れがとれないようなら、何かの病気が隠れている可能性もあるので、医師の診療を受けてください。また、病院で検査してもどこも悪いところはないと診断されるケースもあるかもしれません。そういうときには、お近くの漢方医や漢方薬局を訪ねてください。先ほどもお話ししたように、漢方薬と西洋医学には、もう一方にはない良さがあり、互いを補い合うことで医療の効果は高まります。ふたつの治療法を併用すれば、鬼に金棒といってもいいでしょう。

国際医療福祉大学成田病院
並木 隆雄 先生
千葉大学医学部卒業。前千葉大学医学部附属病院 和漢診療科科長・診療教授。同大学院医学研究院 和漢診療学准教授。国際医療福祉大学 病院教授。医学博士。専門は内科全般、循環器、漢方医学。

トップへ ページの先頭へ