漢方のチカラ vol.15 病ではなく人と向き合う医療
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漢方のチカラ vol.15 病ではなく人と向き合う医療
精神科医として、総合病院の入院患者の様々な精神症状に向き合う上村恵一先生(斗南病院)。その診療現場では漢方薬がとても有用だといいます。心と体どちらにも作用すること、一種類で複数の症状に対応できることなど、漢方薬が持つ様々な魅力について語ってくれました。
精神症状の原因を見極める
私が勤務する総合病院に精神科の外来はありません。主に何らかの身体症状を持つ入院患者の精神症状が、主な診療の対象になります。治療の際に大切になるのが、患者の精神症状がどういう原因で引き起こされているのかを見極めることです。つまり、抑うつや不眠、不安といったように、表にあらわれる症状は同じであっても、精神症状には身体症状が原因で引き起こされているものと、そうではないもの、いわゆる一般的な精神症状があり、その点をしっかりアセスメントするということです。
例えば同じ不眠でも、身体症状が原因になっている場合にはせん妄という診断になります。せん妄は、何らかの身体的な疾患が原因で脳の全般的な機能が低下し、不眠のほか注意力の欠如といった症状があらわれます。中でも術後せん妄が一般的で、手術の後、眠れなくなったり、注意力が散漫になって転んだり、点滴を抜いてしまったりということが起きます。
全身性の炎症からくる症状
精神症状の多くが、炎症が原因ではないかといわれています。ここでいう「炎症」とは全身性の炎症のことです。炎症性サイトカインという物質が体全体と脳に波及して、精神症状を引き起こすというのがそのメカニズムになります。血液検査で確かめることができますが、精神症状に加えて、痛みや微熱などもある時にはこのタイプと診断します。治療では、炎症を抑えるというアプローチをとります。漢方薬では柴胡剤(さいこざい)といわれるもの、具体的には柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)や柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)などが使われます。
エネルギーが全般的に低下していることが原因で、倦怠感や気力の低下といった精神症状を招くこともあります。その場合は補剤といわれるタイプの漢方薬、具体的には補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、釣藤散(ちょうとうさん)、加味帰脾湯(かみきひとう)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)などが使われます。
コロナ後遺症の医療者にも
漢方薬を使うようになったきっかけは研修医の頃、思うように治療が進まなかった神経症の患者に漢方薬を処方したところ、症状がとてもよくなった経験をしてからです。心と体は一体であるという心身一如の考え方に基づき、足りないものを「補う」という発想で安心して処方できるのも漢方薬の魅力です。また、一つの漢方薬で複数の症状に対応しているのも大きなメリットで、身体症状と精神症状どちらにも作用します。例えば高血圧や不眠、抑うつ、頭痛などの症状に対して、釣藤散一つで対応するケースがあります。
実は患者以外にも、コロナ感染症の後遺症に苦しむ医療者を診察しています。コロナの罹患後に、集中力の低下や不安、抑うつといった症状により復帰できない医療者が増えてきたからです。漢方薬によってこうした症状も改善がみられる場合があります。また、突然の患者の死により心理的ダメージを受けた家族のケアも行っているのですが、そういった方々に対しても漢方薬は有用とされています。
漢方では生活習慣を整えることを大切にしていて、診療の現場では病気以外のこと、例えば食事は3食決まった時間に食べるとか、アルコールは適量にとどめるとか、太陽光を浴びた方がいいといったことを話題にします。漢方は「病に対する」というより「人と向き合う」医療といえるでしょう。そうしたコミュニケーションを通じて関係を深め、よりいっそうの診療効果が得られればと思います。