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漢方のチカラ vol.13 循環器治療をやさしく補う

広告 企画・制作 読売新聞社ビジネス局

漢方のチカラ vol.13  循環器治療をやさしく補う

 心疾患をはじめとする循環器疾患には、一般的に日本循環器学会などが定めるガイドラインに沿った標準治療が行われますが、最近では漢方薬を併用する気運が高まっています。島根大学医学部 臨床教授の北村順先生に、その具体例や、高齢者に気をつけてほしいフレイルと循環器疾患との関係などについてうかがいました。

利尿薬を減らし腎臓への負担軽減

北村 順 先生

 循環器内科と漢方内科両方の専門医として、漢方薬を取り入れた治療を行っています。高血圧の随伴症状や、立ち上がるとふらふらする、朝起きられないといった低血圧による起立性調節障害、原因不明の胸の痛みや違和感、浮腫、不整脈といった症状が主な対象です。
 例えば心疾患になると水がたまりやすくなるので利尿薬を処方しますが、そうすると無理に尿量を増やすような形になって、腎機能が悪くなったりミネラルのバランスがおかしくなったりすることがあります。そういうケースで、水はけをよくする五苓散(ごれいさん)や牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)といった漢方薬を一緒に使うことが考えられます。うまくいけば利尿薬を減らして、腎臓への負担を軽くすることが期待できます。
 また、胸が苦しいなどの違和感で多くの方が来院されますが、検査では原因が特定できないことがあります。そういう場合にも胸部症状を緩和させると昔からいわれている、例えば半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)という漢方薬を使うことがあります。体にやさしく、患者さんの印象がよいのも漢方薬のメリットです。

食欲高めてフレイル対策にも有用

 高齢者に心疾患の方が増えていますが、フレイル*にも気をつけたいところです。心疾患の患者さんでフレイルを併発している方は多く、またフレイルは心疾患を悪化させやすい、心疾患でフレイルの方は予後もよくないともいわれているのです。フレイルに対しては栄養面や運動面のケアが必要です。漢方薬では栄養面を対処することがあります。胃腸を元気にするというのが漢方薬の基本的な考え方ですが、食欲を高めることが期待できる漢方薬で栄養状態の回復を目指すのです。こういうケースで使う漢方薬としては六君子湯(りっくんしとう)などが考えられます。
 漢方薬に関心を持つようになったのは医師になって10年ほどが経った頃です。それまでは循環器内科の専門医として、エビデンスの示された標準治療を極めようと考えていました。しかし、標準治療ではうまく対応できないケースというものが一定数あり、そうした症例に接するなかで、漢方薬を使ってみようと思うようになりました。漢方薬はぜんそくだった子どもの頃に飲んでいたのと、父親が漢方医だったことから、もともとなじみがありました。その後、実際に父親のもとで研修を積んで漢方の専門医になりました。
 特定の生薬による副作用に注意をはらってさえいれば、検査で原因がよくわからないケースでも症状緩和を目指せるのが漢方薬の魅力です。標準治療で対応できないときの「次の一手」として考えておけるのです。また、高齢者のなかにはフレイルのため体力的に標準治療に耐えられない方がいますが、そういう方に対して漢方薬を使うことで、全身状態を改善して治療を受けられる体をつくってあげられるのも特長です。

*加齢とともに生理的予備能が低下し、ストレスに対する脆弱(ぜいじゃく)性が亢進(こうしん)してくる状態

研究進み、エビデンスの解明も

 近年は漢方薬の効果を科学的に解明する研究も進んでいます。先ほど栄養をサポートする漢方薬として挙げた六君子湯も、グレリンという物質の分泌を促進することで食欲増進の効果が期待できるというデータが出ています。五苓散についても世界初の大規模臨床研究が進められています。今後ほかにもいろいろな研究成果が出てくると思われます。
 アメリカ、ヨーロッパ、日本など、各国それぞれに治療のガイドラインがありますが、日本にはそれとは別に漢方薬があるわけです。江戸時代まではそれだけで治療していた、そういうすばらしいノウハウを現代の医療に取り入れたいというのが私の理想です。漢方薬を併用して治療を行う医師がいま増えています。西洋医学の足りない部分を補う治療として、漢方薬という選択肢があることを知っていただきたいですね。担当医の先生にも漢方薬のことをきいてみてもらえればと思います。

島根大学医学部 臨床教授/神戸海星病院 内科部門長
北村 順 先生
1992年、島根医科大学医学部医学科卒業。96年、同大学大学院医学研究科卒業。2009年、島根大学医学部循環器内科講師。著書や講演を通して漢方治療の普及にも力を入れている。著書に『循環器医が知っておくべき漢方薬』(文光堂)など。

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