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漢方のチカラvol.11 生活習慣病の複数の症状に作用

広告 企画・制作 読売新聞社ビジネス局

漢方のチカラ vol.11 生活習慣病の複数の症状に作用

 日々の生活習慣が発症につながることの多い生活習慣病。古代中国の書にも、糖尿病などの治療に漢方薬が使われていたことがうかがわれる記述があるといいます。生活習慣病に対する漢方薬の有用性とは何か、生活習慣病を予防するためにどういうことが大切なのか。漢方薬を取り入れた内科診療を行っているベイサイドクリニック院長の萬谷直樹先生に話を聞きました。

ダイエットは焦らず、1か月1キロ減を目標に

ベイサイドクリニック院長
萬谷 直樹 先生

 生活習慣病とは、食事や運動などの生活習慣が関わる病気のことで、具体的には糖尿病や高脂血症、肥満、高血圧、脂肪肝、肺がんなどがあります。実は私自身は好きな言葉ではありません。糖尿病のお子さんや、喫煙経験のない肺がん患者さんなど、必ずしも生活習慣のせいで発症したわけでない方が少なからずいるにもかかわらず、患者さんの努力が足りないかのような印象を与えかねないからです。ただ、生活習慣が病気の改善のために重要であることは事実で、この言葉を日々の心がけとして前向きにとらえて生活することは大事でしょう。
 生活習慣病が進行すると、脳梗塞や腎不全などの深刻な合併症を引き起こすリスクがあります。そうならないように予防することが重要です。そのために、日頃から定期的に運動することや、食べすぎに注意してバランスのとれた食生活を実践し、コレステロールや血糖値などの数値を下げるように努めましょう。ただ、こうしたことで、どれくらい改善するかは病気の種類や患者さんの体質によっても異なり、薬の処方が必要になる患者さんも多いです。
 肥満の方にはダイエットがおすすめですが、無理な方法で行うとリバウンドしやすいので注意しましょう。1か月1キロくらいの減量を目安に、ゆっくりとしたペースで行うようにしてください。私の患者さんの中に、約2年半かけて85キロから55キロまで減量した方がいますが、成功例といえるでしょう。

漢方薬で治療、古代中国の書に記述も

 私は研修医時代、消化器を中心とした内科研修を受けながら、漢方医としての研修も並行して行うという、今思えばとても幸せな環境で医療を学びました。知識と経験を積み重ねて、今は分野を問わない総合内科医と漢方医、双方の視点から患者さんを診察しています。漢方薬の魅力は複数の症状に対して作用する点です。例えば糖尿病による腎障害では、浮腫や尿量の減少、眼や神経の障害といった症状があらわれることがありますが、こうした様々な悩みに対して総合的な見地から対処できる、非常に有用な治療手段と実感しています。
 歴史が物語るものもあります。西暦200年頃の中国で書かれた『傷寒論(しょうかんろん)』という東洋医学の原典の中に、栄養豊富な美食は「消渇(しょうかち)」を招きやすいという意味の記述があります。「消渇」とは喉の渇きや多飲多尿といった症状のことで、現代の解釈では糖尿病と考えられます。このほか肥満や肥満による膝の痛み、頭痛や肩こりといった高血圧に伴う症状も、同書では漢方の治療対象とされています。約1800年前の古代においても、生活習慣病が漢方薬で治療されていたことがうかがえます。当時はコレステロールや血糖の数値が測定できたはずもないですが、症状の緩和にはつながったということでしょう。

自粛生活による活動量低下に注意

 新型コロナウイルスの流行は私たちの生活に様々な影響を及ぼしていますが、そのひとつに自粛生活が長引いたことがあります。特に高齢の方に顕著なのですが、外出や運動する機会が減り、活動量が減少したことで糖尿病や肥満、高脂血症が悪化したというケースがしばしば見られました。元気だった患者さんがひさしぶりに来院されると、眼の光が失われ、反応が乏しくなっていたというケースもありました。
 感染を気にするあまり、病状が悪化してウイルスへの抵抗力が減ってしまったというのでは本末転倒です。必要な通院や健康診断は受けるようにしてください。また、感染の広がりも落ちついてきたことですし、リスクが少ない屋外で散歩するなど、活動量の維持に努めて、漢方薬の力も借りながら、生活習慣病の改善に努めていただければと思います。

ベイサイドクリニック院長
萬谷 直樹 先生
富山医科薬科大学(現・富山大学)卒業後に、消化器を中心とした内科を学びながら、「和漢診療学」講座で漢方についての研修を受ける。日本東洋医学会 漢方専門医・指導医、日本内科学会 総合内科専門医・日本消化器病学会専門医など。

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