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フォーラム「がんと生きる 〜こころとからだ 私らしく〜 」(福岡)

広告 企画・制作 読売新聞社ビジネス局

オンラインフォーラム「がんと生きる 〜こころとからだ 私らしく〜 」(福岡)

治療と暮らしを支える「サポーティブケア」

 

 がん医療の最新情報を紹介する「フォーラム がんと生きる」が8月6日に福岡市のアクロス福岡を会場に行われ、その模様はオンラインでも配信されました。
 今回のテーマは、治療の過程で様々な困難を強いられるがん患者を支える「サポーティブケア」。がん医療と車の両輪のように機能することで、効果的な成果が得られるといいます。医療者やがん当事者が、それぞれの立場から語り合いました。

第1部 患者が向き合う苦しみ

副作用で治療挫折

町永 サポーティブケアとは、どういうものでしょう。
田村 がんの治療を受けると患者には何らかの副作用があらわれます。そのつらさによって患者の暮らしがたちいかなくなると、がん治療そのものに支障が出ます。サポーティブケアはそういうことのないようにするために患者をサポートする医療で、支持療法ともいいます。
町永 実際にがん患者はどのようなつらさと向き合っているのでしょう。
末次 10年ほど前に乳がんに罹患しました。できるだけ乳房を残したいとの思いがあり、抗がん剤で病巣を小さくしてから部分切除手術を受ける予定でしたが、副作用がつらくて心身ともに追い込まれ、別の医師のセカンドオピニオンに従い全摘手術を受けました。
町永 どのような副作用がありましたか。
末次 嘔吐がひどく、想像しただけで治療前日から吐き気を催しました。抗がん剤治療開始後3日で頭髪がすべて抜けてしまい、覚悟はしていましたが、つらかったですね。音楽療法の仕事をしていますが、爪が変形してピアノが弾けなくなり大変困りました。副作用ではないですが、意思疎通が図れない医師との関係に悩んだこともあります。

福岡大学名誉教授
日本がんサポーティブケア学会 顧問(前理事長)

田村 和夫
たむら・かずお 九州大学医学部卒業。2013年に福岡大学病院長。15年に国内の支持療法の研究と実践・普及を促進する日本がんサポーティブケア学会を立ち上げる。20年に福岡大学名誉教授。

医療法人三井会神代病院
リハビリテーションセンター 音楽療法士

末次 輝子
すえつぐ・てるこ 米コロラド州立大学大学院音楽療法科卒業。2008年より福岡県久留米市の神代病院に勤務。病院や地域で音楽療法を行う。2011年に乳がんの全摘手術。21年に転移が発覚。

今も再発の不安

 6年前の同時期に、甲状腺がんと中咽頭がんになりました。ステージ4という厳しい状態でしたが、手術、抗がん剤、放射線と一通りの治療を受けて寛解にいたりました。自分は幸運だったし、医療者にも感謝していますが、一方で複雑な思いもあります=VTR❶=。
町永 治療の日々を綴るブログで、かつての自分と変わってしまったという精神的な苦しみを吐露しています。
 そもそもがんが見つかった時は何の症状もなく、治療を進めるうちに副作用のせいで状態が悪くなりました。今も再発の不安を感じながら、後遺症や副作用とともに生きています。身体的にできなくなったこともあり、元には戻れないという事実に落ち込むことがあります。心の葛藤から家族と衝突することもありました。
田村 がんに伴う痛みは肉体的なものだけではありません。不安やいらだちといった精神的な痛み、仕事や家族への影響、経済的な問題などの社会的な痛み、自分とは何者なのかについて悩むスピリチュアルな痛みもあり、こうしたことを包括してトータルペインといいます。それぞれの痛みに対して寄り添うことが大切ですが、1人の医療者だけではなかなか難しい面があります。

【VTR❶】 治療後も残る副作用の苦しみ
原利彦さん(51)は、がん治療により20以上の副作用を発症し、食事がとれなくなる。しかし、放射線治療の関係で体重を落とせないため無理して食べなければならず、時には「命がけで食べた」という。2か月の過酷な治療に耐え寛解したが、今なお再発の不安を感じ、飲み物がないと食事を飲み下すことができない副作用が残る。この症状は一生続くといわれている。

福岡がん患者団体ネットワーク
がん・バッテン・元気隊 副代表

原 利彦
はら・としひこ 映像制作会社ディレクター。2017年に頭頚部に2種類のがんの転移が発覚。余命宣告を受けるも治療により寛解。患者会の活動を通して、患者や遺族の心のサポートなどを行っている。

第2部 サポーティブケアの現場

漢方薬で元気に

町永 サポーティブケアの実例を紹介していきます。西内さんは、患者の側に立って抗がん剤治療を見直す取り組みを行っています=VTR❷=。
西内 治療効果がいいと、医療者は患者が満足していると思いがちです。しかしその過程で、患者は何かを犠牲にしていることがあり、治療後も含めて手厚くサポートしていくことが重要なのだと、末次さんと原さんの話を聞いてあらためて感じています。
町永 副作用に対して、どのような薬物療法が行われていますか。
西内 嘔吐には制吐剤を使い、今では症状の9割以上を抑えられる時代になっています。白血球の減少には、G-CSFという治療が確立しています。食欲不振には漢方薬を使います。
町永 VTR❷でも漢方薬が効果をあげていました。
西内 食欲不振や倦怠感があらわれた時に漢方薬を処方します。消化吸収の機能を改善して患者を元気にしてくれます。
町永 抗がん剤治療による患者の苦痛で主要なものはかつては嘔吐でしたが、今では「家族への影響」だといわれます。
小川 がん治療の進歩と寿命が延びたことが背景にあると思います。日常生活を送りながら治療ができるようになった一方で、家族が患者をどう支えるかという課題が出てきた。家族であっても話せないことがあるもので、患者と家族、それぞれの思いを支えてあげなくてはなりません。
町永 原さんはがん体験者同士が語り合う、ピア・サポートの活動を行っています。
 医師や家族にはいえないけど同じがん患者にはいえることがあります。思いを分かち合うことが治療を乗り越える力になればと思います。活動を通じて自分自身が癒やされている面もあります。

【VTR❷】 患者が望む治療をサポート
野島明彦さん(70)=写真=は2年前にジストに罹患。手術で治る可能性が高いと診断されるが、自力で排泄できなくなるなど術後の生活が制限されることから、抗がん剤を選択する。吐き気の副作用に苦しめられるが、西内医師が抗がん剤の治療サイクルを変更し、副作用を緩和する漢方薬を処方したことで症状が緩和。食欲が回復しただけでなく腫瘍が縮小するなど治療効果も出ている。

高松赤十字病院 腫瘍内科 部長
(兼) 化学療法科 部長

西内 崇将
にしうち・たかまさ 香川医科大学卒業後、香川大学大学院医学系研究科修了。同大学医学部附属病院腫瘍内科副診療科長などを経て現職。がんサポーティブケアにおける漢方治療に取り組む。

多職種で支える

町永 副作用のしびれは仕事や生活に支障をきたします。
田村 しびれをもたらす抗がん剤がいくつかありますが、がんに対して効果があるので長く使われます。そうするとしびれも長期間にわたり、薬をやめても続くことがあります。その診療ガイドラインができ、予防治療が行われるようになっています=VTR❸=。
町永 ある高齢者の医療を支える取り組みを見てもらいました=VTR❹=。小川さんは、精神医学の立場からがん患者や家族を支える精神腫瘍医として、この取り組みに関わっています。
小川 手術が必要と主治医がいい、本人も希望していました。ただ、介護が必要な家族がいるなかで、話すことができなくなる術後の生活を、本人がどこまで理解できているかわからない面がありました。私のほか心理療法士や看護師などによる多職種の支持療法チームで話し合いを重ね、本人や家族が納得して治療を選択できる条件を整えていきました。
町永 サポーティブケアの守備範囲が広がっているように感じました。
田村 背景が異なる患者一人ひとりにとって最良の医療を提供するのがサポーティブケアです。日本がんサポーティブケア学会では、がんに伴う様々な問題について臨床研究を行い、実際の診療に反映させていく活動を行っています。
 患者のサポート体制を充実させ、「がんになっても怖くないぞ」という社会にできたらいいですね。
末次 音楽を通して、関わりのある患者さんのためのサポーティブケアを見つけていきたいと思います。
田村 がんになったらどういう医療を受けたいかを考え、家族や周囲の方とも話し合っていただきたい。そうしたことがより良い医療の基盤になるのではないかと思います。

【VTR❸】 手足を冷やしてしびれを予防
個人差が激しく診断や治療が難しいしびれに対する国内向けのガイドラインが作られ、症状予防のために手足を冷やす治療が行われている。症状緩和のために鍼灸を試験的に取り入れている医療現場もある。エビデンスは確立されていないが、患者は「症状が改善し、即効性もある」と語る。医師は「しびれに対しては複合的なケアが必要」という。

【VTR❹】 福祉と連携し治療環境整える
国立がんセンター東病院の支持療法チームで、認知症の妻と発達障害の息子を持つがん患者(88)の治療のことが話し合われる。男性は手術を希望するが、術後の暮らしが制限されることを想像できていないようだ。患者が治療に専念できる環境を整えるため、まず妻と息子が福祉サービスを受けられるように働きかける医師。生活や社会的な状況が大きな課題となる場合があると語る。

国立がん研究センター 東病院 精神腫瘍科長
先端医療開発センター 精神腫瘍学開発分野長

小川 朝生
おがわ・あさお 大阪大学医学部卒業後、同大学院修了。2015年より現職。精神腫瘍医として、精神医学の立場から、がん患者やその家族をサポートし、特に高齢者の支援に力を入れている。

コーディネーター
福祉ジャーナリスト

町永 俊雄
まちなが・としお 1971年にNHK入局。長く「福祉ネットワーク」のキャスターを務める。現在はフリーの立場で、シンポジウム開催などの活動を続ける。

主催:読売新聞社 NHK厚生文化事業団 NHKエンタープライズ
後援:NHK福岡放送局 厚生労働省 福岡市
協力:NPO法人わたしのがんnet  福岡がん患者団体ネットワーク がん・バッテン・元気隊
協賛:株式会社ツムラ

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