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フォーラム「がんと生きる 〜こころとからだ 私らしく〜 」 (千葉)

広告 企画・制作 読売新聞社ビジネス局

フォーラム「がんと生きる 〜こころとからだ 私らしく〜 」 (千葉)

最先端のがん治療 広がる可能性

 がんの最新情報を紹介する千葉発フォーラム「がんと生きる」が11月12日、松戸市民会館で開催されました。最先端の治療薬や、副作用の痛みを緩和する支持療法、医療の研究開発に患者が関わる「患者・市民参画(PPI*)」の取り組みなどをめぐり、医療者や医療関係者、がん当事者らが語り合いました。
*Patient and Public Involvement

第1部 遺伝子検査とゲノム医療

患者に合う薬 検査で調べる

町永 手術、放射線治療とともに3大治療の一つである抗がん剤。どういうメカニズムなのでしょう。
大津 がん細胞は自己増殖を繰り返して大きくなりますが、その特徴をターゲットにします。ただ、細胞分裂が速い正常細胞も攻撃してしまい、それが副作用となってあらわれます。
町永 分子標的薬とは。
大津 遺伝子の変化によって生じるがん特有の分子のみを攻撃するように開発されたものです。やはり、同じような変化は正常細胞にも起きるので、副作用の症状がまったく出ないわけではありませんが、程度は軽いです。分子は人によって種類が異なります。同じ薬でも効果に差があるのはこのためです。遺伝子検査でどういうタイプの分子なのかを見極めて適合する薬を投与するのが効果的です。以前は遺伝子を一つずつ調べていましたが、今は遺伝子パネル検査で一度に100種類以上調べられます。
町永 これによってがん医療の形が大きく変わったといわれている。一人ひとりに合った治療を行う、いわゆるゲノム医療ですね。
 大津さんはスクラムジャパンという取り組みを行っています。遺伝子検査の可能性を広げるものです。
大津 全国260の病院などと連携し、多くの患者が遺伝子パネル検査を受けられる体制を整えました。また、患者の膨大な遺伝子データを新しい治療法や研究に活用できる仕組みを作りました=VTR❶=。海外との連携も深め、国外では承認されている薬が日本で使用できないドラッグラグの解消にも努めています。日本の患者に世界で一番いいものを届けたいという考え方が活動のベースにあります。
町永 画期的な遺伝子検査法も開発されました。
大津 リキッドバイオプシーという採血による検査法です。内視鏡などで病巣からがん組織を採取する従来の方法より負担が少なくて済みます。

【VTR❶】 進化する遺伝子研究
スクラムジャパンの取り組みにより遺伝子研究は大きく前進している。肺がんのドライバー遺伝子*を世界で初めて発見し、その働きを抑える分子標的薬を見つけたのも成果の一つ。2年前に肺がんに罹患(りかん)した女性は抗がん剤治療の効果が出なくなり不安を感じていたが、この分子標的薬により病巣が縮小、今では職場にも復帰している。
*がん細胞の発生や増殖を推し進める遺伝子

国立がん研究センター東病院長
大津 敦 氏
おおつ・あつし/1983年、東北大学医学部卒業。2012年、国立がん研究センター先端医療開発センター長。16年より現職。「最先端のがん医療をいち早く日本の患者に届ける」をモットーに医療に取り組む。

科学的な研究進む漢方薬

町永 上園さんは支持療法、緩和ケアの研究に取り組んでいます。
上園 がん治療による副作用を和らげるのが支持療法、がんそのものの痛みなどに対応するのが緩和ケアです。がん治療を続けること、快適に人生を過ごすことを支えるもので診断とともに始めます。副作用には検査で測れる高血圧や、症状としてあらわれる吐き気、便秘などのほか、本人でなければわからない倦怠感のようなものもあります。このつさらを「見える化」し、対策を考えることも研究課題です。
長谷川 数値で測りにくい痛みを患者はつい我慢してしまいます。
上園 痛みが蓄積されると神経の仕組みが変わって、少しの刺激でも痛みと感じてしまいます。痛みは我慢しないでください。

町永 ドラッグリポジショニングとは。
上園 すでにあるものを転用するという考え方です。新薬や新たな医療機器は開発から承認までに時間もコストもかかります。一方、既存のものを適応外で使って効果を発揮することがあるのです=VTR❷=。
町永 どんな具体例がありますか。
上園 ある種の抗うつ剤が痛み止めに、特定の睡眠薬が抗がん剤に転用されています。漢方薬も実はその代表例。古代中国で生まれ、江戸時代の日本で発達しましたが、今はその頃と異なり抗がん剤の副作用を抑えるために使われています。
町永 漢方薬は科学的な研究も進んでいます。
上園 効果がある人とない人の血液を調べて、漢方薬に含まれるどの生薬が効いているのかを調べる解析法が成果を上げ始めました。エビデンスに基づく治療になりつつあります。

【VTR❷】 既存の医療機器を転用
抗がん剤治療後も副作用による手足のしびれに苦しみAさんのために、「支持・緩和研究開発支援室」がプロジェクトチームを立ち上げる。治療中に手を冷やすとしびれにくいという患者の声に着目、既存の整形外科の機器を改良して治験を開始した。患者の苦しみを和らげる方法を既成概念にとらわれずに模索する新たな動きだ。

東京慈恵会医科大学 医学部 疼痛制御研究講座 特任教授
上園 保仁 氏
うえぞの・やすひと/1985年に産業医科大学医学部卒業後、同大学大学院を修了、医学博士取得。2020年に現職。国立がん研究センター東病院支持・緩和研究開発支援室で支持療法・緩和ケアの研究にも取り組む。

第2部 医療への患者・市民参画

患者の提案で治験が実現

勝井 従来、医療者や研究者が中心になって進めてきた医療の研究開発に、研究者のパートナーとして患者や家族、市民が参画するようになっています。
長谷川 海外の学会に出席した時にそれを実感しました。日本では患者会というと悩みや不安を共有する場というイメージかもしれませんが、治験に積極的に参加するなど医療に貢献する役割を担っていました。
町永 長谷川さんは患者側の提案による治験を日本で初めて実現させました=VTR❸=。
長谷川 ある新薬について、特定の遺伝子変異がない患者は使えないという状況がありました。ただ、使えば効果があるかもしれない。データではその確率は20%。これは患者からすると大きな可能性なのです。意思に賛同してくれた医療者とともに治験を求め、奇跡的に実現しました。1回だけで終わっては意味がないとも思います。

【VTR❸】 製薬会社に治験求める
新薬の適応をめぐり、効果があるかもしれないのに治療を受けられない患者が数万人置き去りにされた。この状況を変えるために、患者会代表の長谷川さんは、その意思に賛同する医療者とともに、製薬会社に治験を粘り強く働きかけ、協力を取り付けた。日本初の患者提案型の医師主導治験は2020年8月にスタート。結果が今冬発表される。

NPO法人 肺がん患者の会 ワンステップ 理事長
長谷川 一男 氏
はせがわ・かずお/51歳。2010年に肺がんを発症。余命1年と宣告されながら寛解の状態に。20年に国内初の患者提案型医師主導治験を実施した。ホームページやブログで活動の情報を発信している。

患者のニーズ 医療の種に

町村 勝井さんは医療研究開発を推進する国の機関、AMEDで患者・市民参画(PPI)に取り組んでいます。
勝井 患者やその家族、市民の声を研究開発に反映させていこうという活動=VTR❹=です。研究者が気づかない視点や価値を患者らから学ぶ。両者の対話や協働を通じて研究の質が向上し、患者にとってより役に立つ効果が生まれることを期待しています。
上園 患者のニーズは医療のシーズ(種)。実例を紹介します。難治性口内炎の患者は20分だけ痛みを抑える薬を投与して、その間に食事をします。しかし、味も食感も感じないという声を受けて味覚や食感はそのままに、痛みの神経だけを止める薬を見つけだし、臨床試験につなげました。
長谷川 患者は医師が話す専門用語がわからないこともあり、そういう意味ではPPIに参加するのはハードルが高い。ただ、主治医に意見することはあり、その延長と考えればよいのかもしれません。
町村 つらさや困難の中にいる人の情報発信には大きな影響力があります。
長谷川 薬のおかげで今の自分がある。その薬は過去のがん患者が臨床試験に参加したおかげです。がん患者はまず「どう生きるか」に真正面から向き合うことが大切。その上で余力があればPPIに関心を持ってもらえたらうれしいです。
勝井 AMEDが推進する「社会共創」の取り組みを通じて、医療の研究開発を患者や市民とともに創り、明日の社会をともに創っていきたいと思います。
上園 患者の意見は最短距離で研究開発を行うための原動力。その力を借りながら研究を進めていきたいですね。
大津 技術の進歩でがん医療は大きく変わろうとしています。がんが不治の病でなくなることを目指して、医療技術を高めるために最大限の努力をしていきたいと思います。

【VTR❹】 医療者と患者、対話が重要
医療者だけでなく患者団体代表の天野慎介さんも参加したある学会で、患者・市民参画(PPI)をめぐる議論が交わされた。医療者と患者が望む医療に違いはあるが、そこからどうすればよりよいがん研究につなげられるか。医療者が患者の意向を一方的に取り入れるのではなく、双方のニーズを照らし合わせて対話を深めることが重要との話が出る。

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED) 研究公正・社会共創課 課長代理
勝井 恵子 氏
かつい・けいこ/2009年に東京大学大学院教育学研究科修士課程修了、15年に博士課程単位取得満期退学。博士(医学)。医療研究開発を推進する国の機関、AMEDで患者・市民参画(PPI)に取り組む。

コーディネーター
福祉ジャーナリスト

町永 俊雄 氏
まちなが・としお/1971年にNHK入局。2004年から「福祉ネットワーク」キャスターとして、各地でシンポジウムを開催。現在はフリーで活動。

主催:読売新聞社 NHK厚生文化事業団 NHKエンタープライズ
後援:NHK千葉放送局 厚生労働省 千葉県 千葉県がん診療連携協議会 千葉県がん患者団体連絡協議会
協賛:株式会社ツムラ

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