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〜家族の相談から始まった〜 就職氷河期世代への就労支援

就職氷河期世代*の中には、雇用環境が厳しい時代に就職活動を行ったため希望の仕事に就くことができず、不本意ながら不安定な仕事についている人や、無業の状態にある人がいます。厚生労働省は「地域若者サポートステーション(サポステ)事業」を通じて、働くことに不安を抱える就職氷河期世代を支援しています。恵泉女学園大学学長の大日向雅美さんと、ちば地域若者サポートステーション所長の本庄寛国さんに、今、必要なサポートを語っていただきました。

◇ 正社員経験のある40代息子が無業に

本庄 サポステは、就労に悩みを持つ15歳から49歳までの方への就労支援を行っています。具体的にはキャリアコンサルタントによる就労相談、臨床心理士による心理相談、相談支援員による生活相談などです。実際に私たちが関わった40代の男性についてお話します。最初の相談は男性の母親からでした。「大学を卒業し、正社員経験もある息子が仕事を辞めて10か月経ってしまった。息子の将来が心配だ」という相談です。男性は幼少期には活発でしたが、思春期・青年期で対人関係につまずきました。前職は母親の紹介で働いていましたが職場に馴染めず、休職することもありました。しかし「休職すると親に怒られる」ことの繰り返しで、退職してしまいました。

大日向 私は発達心理学が専門です。長年、「人が子どもから大人になっていく」プロセスを研究しています。もともと思春期・青年期はどの時代であっても課題を抱えています。「大人になることの難しさ」に加えて、昨今は誰もが生きづらくなっている。生きていく上での困難さがダブルで子供たちを襲っています。また、今、お話いただいた40代男性についても、母親から相談があったということですが、子育てや教育について責任のほとんどをその家庭や親、とりわけ母親にかかってきている現状を見た気がしました。

本庄 私たちのところには、最初に親が相談にいらっしゃる場合もあります。 その場合はまず、親からお話をお聞きして「次回はご本人も連れていらしてください」とお伝えしています。その後、ご本人が通って就労支援を受ける形になります。ご本人が通い続けることができるまでには少し時間がかかります。初期の面談では、ご家庭でのお話などをお聞きします。ご本人の話では、退職後、両親から「自分のできることをやったほうがいい」とか「いつまで家でぶらぶらしているのか」などと言われ、ストレスを感じていたことなどがわかりました。サポステに通い慣れて相談員との信頼関係が築けた段階で、就労へ向かう話の割合を少しずつ増やしていきます。

大日向 子どもが思い通りにならなくて、「就職できない。家でぶらぶらしている」のを見るのは、親にしてみればとてもつらいです。「あるがままに受け入れなくてはいけない」ということは頭では分かろうとしても、穏やかに対応できるかとなると、実際はとても難しいです。私は親から「家に帰って、目の前で子どもがだらだらしたりしていたら、どうしたらいいか分からない」という切実な声を聞いてきました。親に「しっかりしてください」と言うだけでは解決しません。

本庄 サポステは、職業的自立のための心得や知識の習得を目的として、コミュニケーション訓練や簡単なグループワークなども行っています。男性は10代の頃に対人関係でつまずいてしまったことがありますが、サポステで各プログラムを受講することにより一緒に通っている仲間との相互理解や自己理解を深めることができました。その頃には「以前より自分自身に対して前向きになった」というお話が聞けています。少し年齢のことを気にしながらも、「もう一回、頑張ろうかな」と思えるようになり無理なくできる仕事、在宅でできる仕事、自宅から近い仕事などからアルバイト探しを始めました。

大日向 当事者は「親を頼りたいけれど、一番頼れないのも親。一番苦しい胸の内も言えない。自分のみじめなところを見せたくない」といった不安と葛藤を抱えています。サポステで心の中を見せることができるのが、この男性にとっての第一歩になっていると思います。「小さな目標から進むことも認めてもらえた」と。実際にこれは、親にはなかなかできません。どうしても一気に高いところを指し示したりしがちです。当事者にとってサポステのような場所があることが良い結果につながるのだと思います。また、サポステから、この男性はいろいろなプログラムを提示され、自己肯定につながるステップを少しずつ踏むことができたと思います。

本庄 そうですね。男性は、就労支援の結果、運輸業のアルバイトに進路を決めました。退職してから次の仕事に就くまでの空白の期間についても「ずっと休みなく働いてきた自分を見つめ直すために必要な時間だった」と捉えることができるようになったそうです。また、毎日、家にいる状況から通うところがあるということで生活スタイルが変わっていきました。親も、サポステで何かを得て持ち帰ってくる我が子の姿に心が和らいだのではないかと思っています。

大日向 目の前で生きづらさに苦しんでいる子どもを見るのは、親はとてもつらいです。それだけにその子が行くところができたことは、親にとって救いだったと思います。サポステの存在意義はそこにある気がします。

10年間働いた30代大卒の息子が引きこもりに

本庄 30代大卒で正社員以外での就労経験のある男性は、約10年間勤めたコンビニエンスストアで、同僚から嫌がらせを受け退職しました。退職後の就職活動もうまくいかず自宅に引きこもってしまいました。男性は働く意思はあるけれども体が動かない状態で、最初は母親がサポステに相談に訪れました。大卒後はアルバイトをしながら公務員を目指し、7年ほど勉強を頑張っていましたが、結果は不合格でした。当初男性は、サポステに「絶対に行かない」と涙を流していたそうです。食事はとっているけれどもあまり眠れていませんでした。家庭内で母親からサポステについて話をしていただく中で、「やっぱり行ってみようか」と思えるきっかけがあり、通うようになりました。最初は親と男性とを別々に面談をし、親や社会への様々な愚痴や不満などを聞くところから相談支援が始まりました。

大日向 親への不満や愚痴を聞くことは、すごく大事です。家の中の閉ざされた空間では言えませんから。心が軽くなっていくプロセスを踏めるのもいいですね。

本庄 男性は対人関係に苦手意識がありました。体力はあるものの、心が「追い付かない」のではなく「すり減っていくのが早い」と感じているようでした。親に対しては、自分が立ち直るには時間がかかることを理解してくれないことにストレスを感じていました。また「うるさく言われる一方で、親の愛情を感じられるので無視はできない」とも話しています。一方母親は息子が引きこもり状態からなかなか抜け出せないことがストレスだと話しています。男性はサポステに通い慣れた段階で企業の見学や職場体験などの支援を経て、職場体験先の清掃業に就職しました。サポステに通うことで、自分の気持ちが整理できました。またサポステでは、職歴の空白についての考え方・捉え方についても支援しています。

大日向 「空白」を自分でどれだけ肯定できるか。自分はそこをどう乗り越えたかを言えることはとても大事ですね。

本庄 「空白」期間はサポステに通って就労の準備をしていました、と受け止められるのですね。サポステに通うことで本人の気持ちが整理されてそれを見ている母親の態度も変わってきたということですね。母親は「早く働きなさい」ということを言っていたのですけれども、本人の様子を見て言わなくなったそうです。親子関係にも良い変化がありました。

大日向 「早く」は親が一般的に子育てでいつも言う言葉です。「早く」「きちんと」「間違いなく」。この3つのワードをセットで言うと、子どもを追い詰めてしまうのです。親もサポステに支えられていますね。

本庄 サポステに通い始めの時期と通い慣れてきた時期では、利用者の方のパワーが違って見えます。みなさん、サポステをご利用いただくことで、今までつらかったことなどがご自身の中で整理されていくようです。また、同じ利用者の人と毎日顔を合わせることで、一つのクラスのような形で連帯感も生まれています。

大日向 生きづらさは誰にだってあります。つまずいた時や、そこで何か引きこもらざるを得ないものを与えられてしまった時に、これまでは、「親だけ、家庭だけで解決しなさい」というケースが多かったかもしれません。しかし、それがいかに難しいことなのか。ただ、引きこもっている人には生きづらさを感じるパワーがあるのだと思います。今の社会の問題を敏感にキャッチする力があります。それを上手に地面の下から噴出させて、出てきたパワーをサポステのような形で、社会で支えていくというのが本来の支援のあるべき姿ではないでしょうか。こうした人たちが抱えている問題を家庭や親だけで解決するのではなく、社会的支援として広げていった時に、当事者も本当の力を発揮できるでしょう。本日の本庄さんのお話をお聞きして、「私たちは、いろいろな人が生きやすい社会をつくっていける」希望を感じました。


*就職氷河期世代
 概ね1993年から2004年に学校卒業時期を迎えた世代。現在30代半ばから50代前半で、雇用環境が厳しい時期に就職活動を行い、無業の状態や不安定な就労状態である人が少なくない。


 
大日向 雅美
恵泉女学園大学学長 専門は発達心理学
NPO法人あい・ぽーとステーション代表理事
読売新聞「人生案内」回答者

 
本庄 寛国
ちば地域若者サポートステーション所長
総括コーディネーター
 
 

 

サポステについて

支援対象はどんな人?

働くことに踏み出したい15歳~49歳までの現在、仕事に就いていない人や就学中でない人

支援はどこで受けられる?

全国に177か所ある厚生労働省の委託機関「地域若者サポートステーション(サポステ)」において様々なプログラムを受けられます。

具体的な支援内容は?

相談者に合わせた支援を提供します。
<具体例>
・個別相談、カウンセリング
・就業体験
・講習、セミナー
・履歴書、職務経歴書など書類作成支援
・面接練習
・就職した人への定着支援

政府は2020年度から22年度までの3年間を集中取組期間として「就職氷河期世代支援プログラム」を策定し、厚生労働省でも支援策を積極的に展開しています。雇用環境が厳しい時期に就職活動を行った就職氷河期世代の方々の活躍の場を広げるために、就職、社会参加に向けた様々な支援を実施しています。