ニューノーマル時代のオーラルケアの重要性と免疫・唾液の高め方
SDGs:すべての人に健康と福祉を

2020年11月27日

 未来貢献プロジェクトのオンラインシンポジウム「ニューノーマル時代のオーラルケアの重要性と免疫・唾液の高め方」(読売新聞社主催)が10月30日、ウェブセミナー形式で生配信された。日本歯科医師会常務理事の小山茂幸氏が、ウィズコロナ時代におけるオーラルフレイル(口腔(こうくう)機能の低下)対策の重要性について講演。槻木(つきのき)恵一・神奈川歯科大学副学長は、唾液に備わる機能と感染症対策について解説し、タレントの優木まおみ氏と、オーラルケアや唾液力の高め方について考えた。(司会・コーディネーターはフリーアナウンサーの政井マヤさんが務めた。)

主催:
読売新聞社
後援:
日本歯科医師会

かむ機能低下 全身に影響

小山 茂幸氏

日本歯科医師会常務理事
小山茂幸氏
1985年、広島大歯学部卒。2015年に山口県歯科医師会会長。17年から日本歯科医師会常務理事を務める。同県で歯科医院を開業し、各地で口腔ケアに関する講演を行っている。
※登壇者写真はいずれも園田寛志郎撮影

 大人は親知らずを除き、歯が28本あります。このうち、自分の歯を20本保っていれば、食べ物をおいしく食べられるという報告があります。自分の歯で食べる楽しみを生涯味わえるように、1989年から厚生省(当時)と日本歯科医師会は、80歳になっても自分の歯を20本以上保とうという「8020(はちまるにいまる)運動」を展開してきました。現在は、オーラルフレイルの対策も訴えています。

 歯を失う大きな原因は、虫歯と歯周病です。虫歯菌が口の中の糖を食べて酸を出し、歯を溶かすと虫歯になります。予防のためにフッ素で歯を硬くし、歯磨きをきちんとして甘味を制限することが大切です。

 一方、歯周病を原因とする抜歯は40歳頃から増え、60歳頃から急増します。歯周病は、症状が出るまで気づかないものです。歯と歯茎の間には溝があります。ここにばい菌がいっぱい入り、悪さをします。病気になり溝が深くなると、歯周ポケットという名で呼ばれます。歯周病のリスク因子には、歯周病を起こす菌や喫煙のほか、糖尿病なども挙げられます。

 オーラルフレイルは、口の筋肉が弱くなり、むせたり滑舌が悪くなったりというところから始まります。歯周病で歯がなくなると食べ物をかめなくなり、かめないと軟らかいものを食べてしまいます。軟らかいものを食べると、かむ機能が低下するという悪いスパイラルに陥り、口腔機能が低下します。やがて、全身に影響を及ぼしていきます。

 ただし、オーラルフレイルは口のまわりの筋肉を鍛えると元に戻せます。「むせる」「食べこぼす」「顎の力が弱くなった」などと思う方は、一度歯医者さんに相談してみてください。口を動かしたり、よくかんで食べたり、低栄養にならないように肉やヨーグルトなどのたんぱく質を摂取したりして、日常の食事にも気をつけましょう。

口腔機能低下につながる悪循環

 成人の3人に2人は歯周病と言われています。歯周病は、認知症や心臓病、誤嚥性(ごえんせい)肺炎など、全身の病気と深く関連します。歯を失い、義歯を使わずに歯茎で食べていると、認知症の発症リスクは1・9倍、転倒リスクは2・5倍にまで上がります。口の健康は全身の健康につながります。

 日本歯科医師会が7~8月に行った生活者意識調査によると、新型コロナ禍での歯科受診に約6割の人が不安を感じたことがわかりました。歯科は以前から感染対策を標準的に行ってきましたが、コロナ禍で感染対策を一段上げました。感染が怖くて受診せず口の中の状態が悪くなるよりは、少しでも不安があればかかりつけ医に相談することが大切です。

 マスクを日常的に着けると、マスクの中で口を開けていることが多くなります。口呼吸が増え、口の中が乾燥して唾液が少なくなると、いろいろな細菌が増えて虫歯や歯周病、口臭の原因につながります。しっかりと歯を磨き、口を乾燥させないようにしましょう。

オーラルケアや唾液をテーマに行なわれたシンポジウム。会場の様子は生配信された(東京都世田谷区で)

オーラルケアや唾液をテーマに行なわれたシンポジウム。会場の様子は生配信された(東京都世田谷区で)

 もっと早くに歯科検診や治療を受けておけばよかったと後悔している人は、4人に3人にのぼります。虫歯があるから歯科に行くのではなく、定期的に診てもらうことが重要です。きちんと歯の手入れをして、80歳になっても20本の歯を保てるように、おいしく食べて楽しく話し、笑顔あふれるような生活を続けていきたいですね。

唾液のIgA増やし感染予防

槻木 恵一氏

神奈川歯科大学副学長
槻木恵一氏
1997年、神奈川歯科大大学院歯学研究科修了。2007年、同大教授。14年、同大副学長。「ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!」(扶桑社)など、唾液に関する著書多数。

 新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染予防が大切になっています。唾液はちょっと汚いというイメージがあると思いますが、実は、感染予防には唾液の抗菌物質がとても重要な役割を果たしています。

 大人の場合、唾液は1日に約1・5リットル作られます。水分がほとんどですが、0・5%の成分が様々な役割を担っています。消化をはじめ、ごく初期の虫歯の修復、虫歯の予防や、抗菌・抗ウイルス作用、傷を治す作用もあります。

 唾液は血液から作られ、血液の成分を反映します。唾液中の物質は、舌の下からもう一度血液に入って脳に行き、全身に回ります。このように、唾液は全身にも作用します。神経を治したり、唾液によるがん診断に応用されたりしています。

 唾液に含まれる抗菌成分の種類はたくさんありますが、最も多いのはIgAです。ウイルスや細菌にくっつき、粘膜への付着を防いで、感染予防のとりでになってくれます。IgAは唾液中で、免疫力の中心的な役割を果たしています。

 1073R―1株という乳酸菌があります。免疫細胞の一つであるナチュラルキラー細胞を活性化させることは知られていましたが、私の研究室の実験で、この乳酸菌で作ったヨーグルトを食べ続けると唾液量が増え、IgAも増えることがわかりました。IgAの中でも、インフルエンザウイルスに対抗するものが増えていました。

 感染症の予防には、唾液の量と質を上げることが大切です。唾液の質を下げる生活習慣には「慢性的なストレスやアルコール摂取」「好きなものしか食べない食生活」「運動嫌いや運動のしすぎ」「丁寧に歯磨きをしない」「水分摂取を控える」「早食いが得意でよくかまないで食べる」――があります。できるところから改善していきましょう。

 唾液を増やすには、水分の摂取がとても大切です。乾燥しやすい冬は自然と脱水になっていることもあります。1回あたり200ミリ・リットル程度の水分を小分けにして飲むとよいでしょう。イソフラボンを含む大豆、ケルセチンを含むタマネギ、リコピンを含むトマトなどの抗酸化食品を食べるのはよいですね。耳たぶの前あたりにある唾液腺を優しく、くるくる回してマッサージするのも効果的な方法です。

唾液量を増やすマッサージ

 よく口を動かすことも、唾液が出る大切な運動です。食材を少し大きめに切ったり、歯ごたえのあるものを混ぜたり、食材や食べ方、切り方を工夫したりすると、そしゃくの回数が増え、唾液量も増えます。

 もう一つ、IgAを増やすよい方法は、ヨーグルトや発酵食品などを食べること。おなかの調子を整え、腸管の免疫を高めると言われています。体によい細菌と、その餌となる食物繊維などを一緒に食べると効果が上がります。たとえば、ヨーグルトに、バナナやアボカドを混ぜて食べるのもよいでしょう。

 口の中が汚れていると、IgAは汚れた細菌にもくっついてしまいます。口の中をきれいにする口腔ケアは、IgAを働かせるためにとても重要です。歯磨きのほか、舌の上についた白い細菌の塊を取り除く舌磨きもあります。舌磨きには専用ブラシを使いましょう。唾液の力を高めることは感染予防には大切です。ぜひ実践してください。

子どもに伝える歯、口の大切さ

優木 まおみ

タレント 優木まおみ氏
1980年、佐賀県生まれ。2003年、東京学芸大卒。テレビの情報番組への出演のほか、モデルなども務める。2児の母。

 子どもの頃は親に歯を細かくケアしてもらうものですが、私は20代の頃、「自分の歯なんて」と歯を放っておいたため、虫歯が多かった覚えがあります。

 とても忙しかった時に歯茎が少し赤い状態になり、歯科医から「このままだと危ないですよ」と言われました。以来、定期的に3か月に1回ほど受診したところ、元の状態に戻りました。放置しないのが一番大事ですね。食べる楽しみは生きがいにつながるし、自分の歯で食べ続けていきたいと思います。

 これまでも唾液が大切というイメージはありましたが、唾液が血液からできていると聞いて、大切にしなくてはという思いが強まりました。ヨーグルトに唾液の量と質を高める効果があることを知り、ヨーグルトを食べる習慣は手軽に取り入れることができて、よいと思いました。おいしいですしね。

 いつまでも笑顔で暮らし、口を隠したり、食べ物を食べられなくなったりしないように、今のうちから気をつけていきたいです。子どもたちにも、歯や口の中の大切さを伝えたいと思います。

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