2020年12月15日
「自分の"軸"生かせる時代に」
未来貢献プロジェクトのオンラインシンポジウム「いま。“共に生きる”とは何か? ニューノーマル時代の働き方と生き方を考える」が10月31日に開催された。内田樹・神戸女学院大学名誉教授の基調講演、大原良夫・日本キャリア開発協会理事長のプレゼンテーションに続いてパネルディスカッションが行われた。日本のキャリアカウンセリングをリードする同協会の20周年事業として実施され、全国から約2000人が参加した。
- 主催:
- 日本キャリア開発協会
- 共催:
- 読売新聞社
- 後援:
- 厚生労働省、文京区
- 協力:
- 日本マンパワー
主催者あいさつ
立野 了嗣氏 (日本キャリア開発協会会長)
日本キャリア開発協会では、キャリアカウンセリングとキャリアカウンセラーの普及・啓発に努めている。20周年記念の本シンポジウムをきっかけに、体の健康診断同様、定期的なキャリア診断を行う“キャリアドック”を社会インフラにしていければと願っている。
来賓あいさつ
山本 浩司氏(厚生労働省 人材開発統括官付 キャリア形成支援室長)
コロナ禍は多くの人に働くことの意識、行動の変化をもたらし、キャリアコンサルティングの社会的意義はより高まったと思う。厚労省もキャリア形成支援のインフラ整備を図りたい。本イベントによりキャリア支援の重要性が一層、普及・浸透することを祈念する。
基調講演
コロナと共に生きる
内田 樹氏 (神戸女学院大学名誉教授・凱風館館長)
現システムの脆弱性 コロナで露呈
今回のパンデミックはさまざまな教訓をもたらした。人が行き来できなくなり、医療資源が調達できずに医療崩壊を招くなど、人やモノが超高速でクロスオーバーし、資源の集中と選択が最もクレバーな経営戦略だとしていたグローバル資本主義の前提が破綻した。また、都市の脆弱(ぜいじゃく)性も明らかになった。狭い空間に人々が密集し、斉一的に暮らす都市は、感染症に非常に弱い。「コロナと共に生きる」ためには、人と違う行動をする、ニッチをずらす(棲(す)み分ける)ことが生存戦略となる。今、日本は都市に集中するのか、国内全域に離散するのか、その分岐点に立っている。
異なる価値観に対応できる「複雑」さを
管理コストを最小化する組織づくりの脆弱性も露呈した。トップダウンの一枚岩の組織は、トップの無謬(むびゅう)性※が前提だ。しかし、中枢的コントロールの利かないトラブルが同時多発的に起きた場合、現場に自己裁量で判断し、補整できる人間が必要だ。トップとは違う物差しで物事の軽重を測る人間は、組織において異物となるが、組織の復元力は、異物をどの程度存在させるかで担保される。管理コストはかさむが、イエスマンシップではイノベーションは起きない。異物と異物が触れ合うことで化学変化が起こり、思いがけないブレイクスルーが発現する。価値観の異なる相手と共存するには、フェーズを上げ、難しい折衝やコミュニケーションを図らねばならないが、そうした葛藤によって人は成熟し、成熟した構成員によって強靭(きょうじん)な組織となる。
文明史的な転換点にいる今は、どんな状況にも対応し得る複雑なシステムを選択したほうが良い。多様性、多産性、創発性に富む復元力のあるシステムであるためには、複雑さを恐れてはいけない。今後キャリア形成に求められる能力も、過去の知識や経験ではなく、価値の異なるものと折り合いをつけ、対応できるだけの多様性や複雑さではないだろうか。
※理論や判断に間違いがないこと
パネルディスカッション
いま。“共に生きる”とは何か?
ニューノーマル時代の働き方と生き方を考える
【パネリスト】
内田 樹氏
大原 良夫氏 日本キャリア開発協会理事長
山田 理氏 サイボウズ取締役副社長
田中 稔哉氏 日本マンパワー取締役
【ファシリテーター】
黒木 陽子氏 日本キャリア開発協会理事
コロナによる変化と新たに得た気づき
――コロナ禍において、それぞれの職場でどんな変化があったか。
山田 当社では完全に在宅勤務となったことで、グループウェアへの書き込みが増え、情報が共有されやすくなった。インターネット発達前と現在では情報の価値が違う。これまでは、重要な情報を多く持つことが求められていた。が、手のひらから情報を入手し発信できる現在では、情報の価値はシェアすることにある。多様な働き方しかり、コロナを経て若い世代にとっては望んでいた時代がきたといえる。
田中 集合研修をオンライン研修に切り替えたことで研修形態の選択肢が増えた。知識付与型研修は自学自習式になり、主体的にキャリア選択する姿勢を学ぶ方向へ加速したと思う。
内田 オンライン授業は対面授業より学生とパーソナルな関係を築きやすいという収穫があった。学生が先生から認知されているという社会的承認を感じられたことは大きく、脱落者も減った。
山田 在宅勤務によって “ザツダン”の機会がなくなった。今のような不安な時こそ、ザツダンの機会を持ち、ここに安全な場所があると社員を承認してあげることは大事だ。
大原 ザツダンの何気ないやりとりの中には、自分に対するフィードバックがある。相手だけでなく、自分を知ることにもつながる。コロナ禍でそんなやり取りが少なくなったのでは。
内田 教員同士のザツダンがなくなった。多様な専門家が同一空間にいて、思わぬ化学変化が起きるのがアカデミアの良さ。大きな損失だ
田中 意図しない偶然の出会いが人生に影響を与えることは多い。キャリアカウンセリングの役割とは、まさにザツダンする環境を意図的に作っていくことではないか。
大原 仕事をする過程には他者の介入があり、そこで関係性ができることこそが自分を成長させる。ザツダンの意味をその視点からも考えてみてはどうか。
“キャリアドック”を社会インフラに
今後、キャリア形成はどう変わるか、また「共に生きる」とは。
田中 より自律した働き方、主体的な意思決定が求められるだろう。その中では、「普通」への同調を前提にすることなく、多様な視点を持って、諦めずに他者を理解する努力を続けること、丁寧に関わり合うことが重要なのではないか。
内田 将来何になりたいかということを未成年のころから決めると、それに縛られてしまうということがあるのではないか。それよりも、自分を必要とする声に耳を澄ませてほしい。たくさんいる中であなただ、という場面があるはず。
山田 情報をシェアする現代では、個人のニーズにカスタマイズしたものを提供し合うことができる。そのためには、“わがまま”に生きることだ。個性を伝え、発揮することで人から必要とされ、自動的に共に生きる状態になる。
大原 今のように環境が激しく変化する時は、状況に流されがちだ。だからこそ、自分の軸、自分の人生を定期的に見つめ直す「キャリアドック」を社会インフラにしたい。対話を通じて自分らしさ、自分の軸を追求していくのがキャリアカウンセリング。多様な軸を持った人たちが、互いを補い合って豊かな共同体を作っていくことが、今求められる「共に生きる」だと思う。
プレゼンテーション
自分らしい生き方とキャリアカウンセラー
自問自答に寄り添う「心のサードプレイス」
大原 良夫氏 日本キャリア開発協会理事長
コロナ禍による先行きの見えない不安を背景に、キャリアカウンセリングの場でも「自分の働き方や生き方をどうすべきか」といったテーマの相談が増えている。キャリアカウンセリングというと、転職など職業情報の提供というイメージが強いが、私たちは仕事だけでなく、相談者が「自分らしく生きられる」よう、専門的なアプローチでサポートしている。
自分らしく生きるためには、自分の「軸」を知ることが重要だが、その軸が「こうあるべき」といった世間からの刷り込みである場合も少なくない。キャリアカウンセラーは、相談者の内側にある本当の軸を明確化する専門家。その人の経験の語りを促し、自問自答のプロセスに寄り添う。自分の軸を見つけると、人は安心し、確信し、自分を信頼するようになる。キャリアカウンセリングという場は、自宅や職場、学校でもない、相談者にとって何の束縛もなく、自由に安心して過ごせる「心のサードプレイス」でもある。ぜひ活用していただきたい。
JCDAオンラインキャリアカウンセリング
全国から240人が体験
キャリアの棚卸しサポート
日本キャリア開発協会(JCDA)の創立20周年を記念して11月14日(土)に「JCDAオンラインキャリアカウンセリング」が開催された。同協会のキャリアカウンセラー資格CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)の有資格者が、働き方や生き方について無料で60分の相談を受け付けた。Zoom会議システムを使い、全国から約240人が利用した。
仕事や将来のこと、周囲との人間関係などの身近なテーマは、普段自分だけではなかなか整理できないもの。専門性を持ったキャリアカウンセラーと相談することにより、「一人で考え込んでいた迷いや不安を、そのまま受け入れてもらえて安心できた」「自分のコアとなる部分が、整理できた感じでスッキリした」「自分の気持ちに関する気づきや行動を起こすヒントが得られた」などの感想が寄せられた。
この企画を担当した同協会の宮村聡子さんは、「すべてが初めての経験だったが、約190人のCDAの協力のおかげで大きな取り組みが成功し、感謝している。これからのキャリアカウンセリングの未来につなげていきたい」と話した。今後も実施される予定。
情報発信・交流サイト開設
キャリアのこれから研究所
情報発信・交流サイト開設
キャリアのこれから研究所
企業内のキャリア開発・人材開発支援をリードしてきた日本マンパワー(本社:東京都千代田区)はキャリアに関する情報発信、コミュニティー活動の場として「キャリアのこれから研究所」を設立した。
調査研究・開発に関する発信のほか、来年1月には設立記念イベントの実施も予定している。所長を務める同社フェローの水野みちさんは「当社が掲げる『 "はたらく"に自分らしさを
誰もが夢中になれる社会を』の実現を目指して活動したい」と話している。