広告 企画・制作 読売新聞社イノベーション本部
2023年3月23日
未来貢献プロジェクトのオンラインシンポジウム「路車連携による自動運転社会の実現」(読売新聞社主催、国土交通省、NEXCO東日本後援)が2月16日、東京都千代田区のKDDIホールで開かれた。産官学連携で自動運転を研究するNPO法人「ITS Japan」の白𡈽(しらと)良太理事が、自動運転の実現に欠かせない車と道路の連携をテーマに基調講演。パネルディスカッションではAI(人工知能)の活用や官民連携を議論した。
「レベル4」社会課題を解決
自動車を巡って今どのような問題が起きているか。一つは、2024年に改正労働基準法が適用され、ドライバーの拘束時間短縮など労働環境が改善する一方、輸送能力が19年比で最大14・2%落ちることへの対応がある。もう一つは高齢者の免許返納が増え、地方の移動機会が減少すること。いずれも避けられない課題だ。
自動運転はドライバーの運転負荷を減らすなど、こうした問題を解決する手段になると期待されている。自動運転は5段階のレベルで定義されるが、ドライバーが必要ない自動運転の実現にはレベル4以上の機能が必要になってくる。
レベルが上がるに従って多くの機能や高い信頼性が必要で、自動車業界などでは開発や実用化の努力が進むが、進化の過程で「運行設計領域」(ODD)の定義が重要になる。例えば、走る場所や時間帯など、どんな条件下で自動運転を行うのかを示すことで、より早くレベル4の実現にアプローチできるのではないか。
自動運転は、人間の認知・判断・操作を機械に置き換えるのが基本の考え方だ。認知・判断の性能を人間並みにするのは難しく、人間を100%再現しても、事故の起こらないシステムの実現は非常に難しい。より高い精度や信頼性を求めなければならず、ここで必要な技術が路車連携となる。
車から視点を変えて話すと、東京の臨海部で運行する「ゆりかもめ」が無人運転の実用化例となる。ここで使われている走行ルートの設定や車両制御、中央指令所と駅の通信が、車の無人化システムを構築し実用化するキー技術だと思う。
車の自動運転でカギと考えられるのが、高速道路の設備ではないか。高速は道路のメンテナンスや渋滞緩和の運用をスムーズにするために、レーダー監視や交通情報の提供など様々な設備が導入されている。気象観測局で雪や雨、風を検知し、ドライバーや道路管理者に伝えるシステムもできあがっている。
高速道路の通信・観測装置は路車連携のシステム構築に向いている。ただ、これらは違う用途で使われているため、情報の高度化や高速・大容量化といった通信方式の確立が必要になってくると思う。
「未来の移動」へ日進月歩
「50年には定着」予想/路面状況識別のAI/認知低下をフォロー
技術進展 不可欠
自工会は自動運転技術の普及に向けた取り組みを進めている。波多野氏は自工会が2015年にまとめた「自動運転ビジョン」を紹介。「20年までを導入期とし、30年までに普及・拡大し、50年には定着していくと予想している」との見通しを説明した。
現在普及する自動運転関連技術は、車を設定した速度で走らせ、前方の車をカメラやレーダーで認識し、適切な車間距離を保つ「アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)」などの機能だ。これらはドライバーが常に周囲を見守り、安全に気を配る必要があるレベル1~2の技術にあたる。
高速道路など一定の場所や条件でシステムに運転操作を任せるレベル3の実用化について、波多野氏は「操作の主体が人間から機械へ変わる。様々なセンサーで車の周囲を誤りなく把握するなど、レベル2の壁を越えるのは大きな努力が必要」と指摘。一段の技術進展が欠かせないとの認識を示した。
自動運転による社会課題の解決に期待する声も出た。16年の熊本地震を現地で経験した丸山氏は「支援や救護で手いっぱいになっている時に、自動運転を使って大勢の人や物資を一度に運べれば素晴らしい」と語った。
客観的に判断
自動運転の発展には、AI技術の進歩が必要となる。
人間は視覚から得られる情報に頼って運転する傾向があり、曲がり角の先など目に見えない状況を予測するのは難しい。高齢化や病気によって視力や認知機能が低下するという課題もある。
これに対し、AIは車に搭載したカメラやセンサーから得た周囲の情報を高速で処理し、客観的に判断できるのが強みとされる。AIを研究する坂本氏は「(完全な)自動運転までいかなくても、AIの技術が運転の助けになる」と話した。
一方、AIが苦手とする部分もある。坂本氏は路面の質感を認識することもその一つだと紹介。AIは影を障害物と誤認し、ブレーキをかけてしまうことがあるという。
坂本氏はこうした弱点を補うため「質感が分かるAIを開発している」と説明。人間に物体の画像を見て「つるつる」「ざらざら」いったオノマトペ(擬態語)を答えてもらう実験を重ね、そこで集めたデータをAIに学習させる手法を用いる。坂本氏は「これができると、路面の状態が識別できるAIが生まれるのではないか」と述べた。
また、影を認識しにくいなどAIの課題は認知症の人と共通する部分があると指摘。杉浦氏は「そこを解決できるAIの研究が進み、認知症や認知機能が低下した人の手助けにもなれば」と期待した。
道路情報 車と共有
完全な自動運転の実現には道路と車の情報を共有する「路車連携」が必要だ。井坪氏は路車連携で自動運転を制御する「協調型自動運転システム」を紹介した。
このシステムは、車のセンサーでは検知できない情報を道路側が持っている点に着目し、道路から車への情報提供を図る仕組み。井坪氏は「車と道路、車と車が通信で意思疎通し、安全でスムーズな自動運転ができないか」を探るため、官民連携で研究が進んでいると説明した。
自動運転と相性が良いのが高速道路だ。道路側にセンサーなどの機器が多く情報提供がしやすい上、道路の管理が行き届いているといった利点があり、高速道での自動運転の研究が盛んに進む。
首都高速など本線合流までの車線が短い場所でも、車や道路の情報を自動運転車に送ることでスムーズな合流が可能になる。井坪氏は「官民連携で道路の情報を入手すれば、ドライバーに早い段階で情報提供ができるだろう。道路の連携と車の進化で困りごとを何とか(解決)していくのも研究テーマだ」とした。
一方、一般道での自動運転には自転車や路上駐車の存在が支障となる。自転車は歩行者に比べて動きが速く、動きも予測しにくいのが特徴で、無人の自動運転の実現は高速以上にハードルが高い。
井坪氏は地方で高齢化に伴う運転免許の返納が進むことに触れつつ、「高齢者のモビリティー(移動手段)確保のためにも自動運転は喫緊の課題だ」と指摘した。
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