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2024年に全世界を魅了したポップスター、サブリナ・カーペンターのブレイクの秘密

グラミー賞6部門にノミネートされるなど、2024年に大ブレイクを果たしたサブリナ・カーペンター。彼女が新世代のポップスターに登り詰めるまでの道のりについて、ロサンゼルス在住の音楽ライター・鈴木美穂さんに解説いただきました。

サブリナ・カーペンターの夏

エスプレッソという誰もが知るドリンクが、2024年の夏、世界的な大ヒット曲になった。米国のシンガーソングライター、サブリナ・カーペンターが4月11日に発表した「エスプレッソ」は、「寝付けないんだって/わかってる/私がそうさせちゃうの/まるでエスプレッソ」と自分の魅力を強力なカフェイン飲料に例えて歌う、彼女のユーモアが光る爽快なポップ・ソングで発売翌日にコーチェラ・フェスティバルのステージ上で披露されて話題になり、SNSでバイラルになって、ラジオでもヘヴィーローテーションされ、米シングル・チャートで最高位3位を記録、米国内だけでも社会現象と呼べるヒットになっていた。7月4日、サブリナがインスタグラムに同曲のビルボードのポップ・エアプレイ・チャート(ラジオのチャート)の1位達成と全米ツアーの全公演の完売を感謝する投稿をしたところ、テイラー・スウィフトが大文字で「サブリナ・カーペンターの夏!これが永遠に続きますように」とコメントを寄せた。史上最高の興行収入を達成した「ジ・エラス・ツアー」を12月に終えたテイラーは、2003年のメキシコ/南米ツアーと今年2月から3月にかけてのオーストラリア/シンガポール公演のオープニング・アクトにサブリナを迎えていた。

「エスプレッソ」のヒットは夏だけではなく年末まで続き、Spotifyの年間グローバル・ストリーミング数で1位を達成。グラミー賞では主要部門の最優秀レコード賞にノミネートされ、サブリナは年間最優秀アルバムと、最優秀新人賞を含めて4部門でのノミネートを獲得。Z世代に大人気のTikTokでも、今年の米国のトップ・アーティストになった。「エスプレッソ」に加えて、セカンド・シングル「プリーズ・プリーズ・プリーズ」、サード・シングル「テイスト」と、3曲のシングルを使ったTikTok動画が計1500万本も投稿された結果だ。

2024年4月に発表した「エスプレッソ」は、各種サブスクリプションサービスやSNSでもヒットを記録

サブリナのブレイクの凄さは、「エスプレッソ」の後も連続でヒットを放ち、人々の脳に彼女の歌声だけでなく、サブリナ・カーペンターというスターの姿を焼きつけた点にある。誰もが虜になるブロンドを体現した短編映画のようなMV「エスプレッソ」が世界を制覇中に「プリーズ・プリーズ・プリーズ」を発表し、キャリア初の全米シングルチャート1位を達成。グラミー賞の年間最優秀楽曲賞のノミネートを獲得した同曲は、シンセ・ポップの「エスプレッソ」と同様に明朗でありながら、カントリー調のサウンドを取り込んで新しい世界を提示した上で、交際中の俳優バリー・キオガンをMVの相手役に起用して、公には何も語らずに話題を作った。このMVもレトロな映画風で、「エスプレッソ」の続編と思わせる宝探し的な要素がちりばめられている。そしてこの2曲に共通しているのが、恋愛も人生も深刻に捉えすぎないサブリナのユーモアだ。このユーモアは、8月のアルバム発売日に同時リリースされた「テイスト」でかなりダークになる。バリーの前に彼女との交際が噂されていたシンガーソングライター、ショーン・メンデスとのドラマはファンの間では周知の事実になっており、『ショート・アンド・スウィート』は、ゴシップ性もあって発売前から注目されていた。しかしサブリナは周囲の勝手な憶測を「彼とよりを戻したって話が本当なら/キスするたび 私を味わうことになる」と歌うユーモラスな「テイスト」で切り抜け、MVでは人気ドラマシリーズ『ウェンズデイ』のジェナ・オルテガと共演し、1992年公開のホラーコメディ映画『永遠に美しく…』をパロディにした痛快な映像で女性同士の結束を描いてみせた。同曲は全米シングル・チャートで2位を達成、同時にアルバム『ショート・アンド・スウィート』は、彼女の6作目にして初の初登場全米/全英1位を記録した。その後サブリナは9月から全米アリーナ・ツアーに乗り出し、10月には『タイム』誌の2024年の「次世代の100人」特集号で表紙を飾り、誰もが彼女の顔を覚えた12月現在は、ツアーのステージでもハイライトの一つになっていた官能的なシングル「ベッド・ケム」がラジオヒット中だ。

「プリーズ・プリーズ・プリーズ」では自身初の全米シングルチャート1位を獲得

10年のハードワークが世界的成功の下地を作った

グラミー賞の新人賞部門にノミネートされてはいるが、現在25歳のサブリナは新人ではない。シンガーとして10年、俳優としては11年のキャリアを持つ。自らハードワーカーと認める彼女は、人気のTVドラマを見る暇もないほど仕事をしてきたという。ディズニー・チャンネルのドラマ・シリーズ『ガール・ミーツ・ワールド』に出演後、ディズニー傘下のレーベル、ハリウッド・レコーズから2015年にデビュー・アルバムを発表し、これまでに5枚のアルバムをリリースして、3度の日本ツアーを含め世界的にツアーを行ってきた。その傍らで『ヘイト・ユー・ギブ』、『トールガール』、『トールガール2』といった映画にも出演、2020年の映画『Work It ~輝けわたし!』は主演だけでなくエグゼクティブ・プロデューサーも務めており、パンデミックで公演中止になったものの、ブロードウェイのミュージカル『ミーン・ガールズ』で主演も果たした。演技力に裏打ちされた高い表現力が魅力になっている彼女のライブパフォーマンスは、長年の鍛錬の集積だ。ギターとピアノが弾けて、ミュージカルの主役を務められる歌唱力とダンス力の持ち主であるサブリナがブレイクするのは、時間の問題だったと言える。

ディズニー出身のポップシンガーから世界的ポップスターへの流れを作る最初の布石となったのが、2022年末に発表され、2023年を通してヒットした「ナンセンス」だ。「エスプレッソ」をプロデュースしたジュリアン・ブネッタとサブリナの共作曲で、この曲の面白いアウトロを、サブリナがライヴで歌詞を替えてコミカルに歌うことでも話題になった。アイランド・レコーズに移籍して発表した『イーメイルズ・アイ・キャント・センド』は、ハリウッド・レコーズ時代の4枚と比べてサブリナの人柄がより良く見えるようになったアルバムで、中でも特に遊び心のある「ナンセンス」で初めて、彼女はSNSでのバイラルとラジオヒットの両方を手にした。続けて2024年の初頭に、同アルバムのデラックス盤に収録された新曲「フェザー」が、同じく両方でヒット。その2曲が世の中に流れている間に「エスプレッソ」を大ヒットさせた彼女は、新作『ショート・アンド・スウィート』の全てのシングルでそれに成功したのである。

“セクシーでユーモラス”を自己ブランドに

今年サブリナが他と差をつけた理由は、「エスプレッソ」とアルバム『ショート・アンド・スウィート』で、“セクシーでユーモラスなポップスター”という唯一無二のブランドを築き上げ、それを繰り返しSNSで拡散していったことにある。まず、セクシーなビジュアル。豊かなブロンドの髪に青い瞳、ピンナップガールのようにフェミニンなルックスは以前からサブリナの魅力だったが、『ショート・アンド・スウィート』の世界観を50〜60年代に設定したことで、ピンナップガールが完璧にハマる作品になった。MVやステージの衣装は、レトロなビキニにサングラス、ベビードール、スパンコールのボディースーツにガーターベルト、総レースのキャットスーツにプラットフォーム・ブーツやメアリー・ジェーンと、ヴィンテージ・ルックで統一。カラーはガーリーなピンク、ブルー、イエローのパステルと、グラマラスなレッドとブラック、シルバーを混合して彼女の二面性を表現。アルバム・カバーは真夏を思わせるスカイブルーをバックに彼女が背中を見せているアイコニックな写真で、肩についた赤いキスマークが彼女のシンボルになった。サブリナ以前は、マリリン・モンローのシンボルだったマークである。前作に続き赤いハートマークのモチーフも健在で、「ショート・アンド・スウィート」ツアーの小ステージはハート形だった。

次に、ユーモア。歌声においてもガーリーとグラマーの両方を絶妙な配合で有する彼女は、甘いハイトーンと低音のハスキーボイスの両方を操り、実体験に基づく一人語り形式の曲を歌う。そして彼女が実生活で使う放送禁止用語を頻繁に歌詞に織り込んでパンチラインを作り、愛らしい見た目とは対照的に辛口のユーモアが好きなキャラクターを提示した。例えば「エスプレッソ」の「帰りは遅くなるよ/だって歌手だもん」という一節は、歌い回しを含めて大分戯けた曲になっており、その遊び心が伝わってTikTokでケイティ・ペリーやアデルといったスター達までもが真似をするバイラル曲となったわけで、要は彼女の曲の中の「笑い」がヒットの大きな要因の一つになっていた。そしてシングルを出す度に、そのセクシーでユーモラスなシンガーのイメージが定着していき、揺るぎないブランド力になった。

サブリナ・カーペンターというブランドが世間に浸透すると同時に、マーク・ジェイコブス、キム・カダーシアンのスキムズ、プラダ・ビューティ等、一流ブランドがこぞって彼女をキャンペーン・モデルに起用。さらにサブリナはキャリア初の香水ブランド、フレグランス・バイ・サブリナを創設した。彼女が影響を及ぼしたのはファッション界だけではない。6月にサブリナはヴァン・レーヴェンと組んでエスプレッソ味のアイスクリームを期間限定販売し、話題を呼んだ。

初のアリーナ・ツアーでその実力を証明

9月23日にオハイオ州コロンバスから始まったショート・アンド・スウィート・ツアーは、彼女の初の全米アリーナ・ツアーで、NYのマディソン・スクエア・ガーデンを含む33公演が即完売になった。筆者は最終日のロサンゼルス公演を観たが、サブリナは他にはないシアトリカルなステージで素晴らしいパフォーマンスを披露し、確かな実力があることを新しいファンにも証明してみせた。それだけではない。曲のシングルを聴いただけでは見えてこないアルバムの全体像も、このツアーのステージを見ることでより明らかになる。『ショート・アンド・スウィート』は彼女に大きな影響を与えた「短くて甘い」恋愛をテーマにしており、通して聴くとダークユーモアの裏に上手く隠された痛みや闇があることに気づかされる。“セクシーでユーモラス”だけには止まらないサブリナの魅力の深さが分かる名盤だ。前作で成功を収めたジュリアンに加えて、テイラー・スウィフトの長年のプロデューサーとして知られ、グラミー賞受賞歴もあるジャック・アントノフと、来年度のグラミー賞で年間最優秀ソングライター賞にノミネートされているエイミー・アレンと組んだのも、今作の成功要因の一つだろう。2025年、サブリナのショート・アンド・スウィート・ツアーは、ヨーロッパを回る予定。世界的な影響度を鑑みると、2月に開催されるグラミー賞授賞式の主要部門での受賞の可能性は非常に高い。まだまだサブリナの快進撃は続きそうだ。

鈴木美穂
ロサンゼルス在住音楽ライター。2000年に渡米後、数百のアーティスト/バンドに取材を行い、洋楽雑誌『インロック』他、数々の媒体に記事を寄稿。ロック、ポップスを中心にCD解説やライブレポートの執筆を行っている。2022年と2024年のグラミー賞授賞式では、レッドカーペットのレポーターを務めた。

『ショート・アンド・スウィート』

アルバムと収録曲が第67回グラミー賞主要4部門を含む6部門にノミネートされた、最新スタジオ・アルバム。全英シングル1位「エスプレッソ」、全米&全英シングル1位「プリ―ズ・プリーズ・プリーズ」、全英シングル1位「テイスト」などを収録。アルバムとしても全米と全英で、ともに1位を獲得。3300円(税込み)。