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役所広司さん、トイレ清掃員役で監督たちと紡いだ「美しい物語」

渋谷の公衆トイレを著名な建築家やデザイナーの手で、誰にでも使いやすいものに生まれ変わらせた「THE TOKYO TOILET」(TTT)は、日本人が本当に世界に誇れるものを問い、かたちにしたプロジェクトだ。その発案者であり資金提供者である柳井康治さんとTTTに共鳴する各界の才能の対談シリーズ「きづきのきづき」、今回の相手は、 TTT から派生した映画「PERFECT DAYS」(ヴィム・ヴェンダース監督)に主演した役所広司さん。映画のことからスポーツ観戦まで、縦横無尽な二人の会話は、人の心を動かすものについての「きづき」に満ちている。

柳井康治さん(左)と役所広司さん=秋元和夫撮影

主人公に「会いに来たくなる」映画に

<「PERFECT DAYS」はTTTの一環として生まれた作品だ。役所さんが演じる主人公の平山はトイレ清掃員。東京・押上の古いアパートに一人で暮らしながら、毎日、渋谷の公共トイレでの仕事に出かける。同じことを繰り返していても、一つとして同じ日はない。役所さんは本作での演技で、今年5月のカンヌ国際映画祭最優秀男優賞に輝いた>

役所 広司
やくしょ・こうじ 1956年、長崎県生まれ。1980年代は、映画「タンポポ」などで評価を集め、96年には「Shall we ダンス?」「眠る男」「シャブ極道」で国内映画賞の主演男優賞を独占。「CURE」「うなぎ」「ユリイカ」など日本映画史に輝く作品で主演を重ね、「BABEL」など外国映画でも存在感を発揮。「すばらしき世界」やNetflix「THE DAYS」 など多彩な作品で活躍が続く。

役所 「THE TOKYO TOILET」のことを知った時、すごいプロジェクトだな、と思いました。柳井さんという個人の方の力で、世界から人が集まる東京オリンピック、パラリンピックに合わせて、渋谷に17の美しいトイレを作る。そして、そこを舞台に映像作品を撮る。その主人公の清掃員の役を、と言われた時に、これは、すごい出会いかもしれない、今までになかった体験ができるかもしれないと思いました。こういう企画には俳優人生の中で一度しか出会えないんじゃないかと。そうしたら、監督がまさかのヴィム・ヴェンダースさんということで、またびっくりだったのですけれど。

柳井 僕は映画業界のことはまったくわかっていませんが、ヴェンダースさんが渋谷のトイレを舞台に日本の役者さんで撮ることを考えた時、それに対峙する役者さんは、役所広司さんじゃなくちゃ、という思いがありました。「日本を代表する」と形容される俳優さんは何人もいらっしゃいますが、僕の中でその言葉が最もしっくりくるのが、役所さんでしたし、多くの方が納得するだろうと勝手に確信していました。

役所 光栄です。たたき台の台本すらなかったころ、柳井さんと初めてお会いしたんですよね。

柳井 役所さんが、(出演を)ポジティブに考えてくださっているとは聞いていました。でも、本当のところはどうなのかを知りたくてお会いしたいとお願いした記憶があります。

役所 それから何となくの台本ができた時にまたお会いして 、柳井さんから「どんな作品になるんでしょう?」と聞かれたんですよね。僕は、何か美しい物語になるような予感はあったんですけれど、「わかりません、世界中の人に、僕が俳優ではなく、清掃の仕事をしている人に映るといいですね」とお答えしました。そしたら、柳井さんが、「世界中の人が、渋谷のトイレに平山さんに会いに来てくれるような映画になるといいですね」とおっしゃった。その時、目指すものが見つかったような気がしました。

柳井 初めてお会いした時、役所さんは既に、当時出来上がっていた12のトイレすべてを回っていて、「ほかの人がこの企画でやっているのを見たら、なんで俺じゃなかったんだって嫉妬してたと思う」って言ってくださった。ああ、役所さんに頼もうと思ったのは間違いじゃなかったな、と思いました。

次にお会いした時は、役所さんが真っ白なソックスを履いていらしたんです。それが、すごく印象に残ってて、「あ、平山って人はきっと真っ白いソックスを履いているんだろうな」って思っちゃったんですよね。「これももう役に入っているのか」とか、「いや、まさか」とか、勝手に深読みもしつつ。

役所 そうですか。そのソックスは、ユニクロじゃなかったですか。

柳井 じゃなかったと思います。いや、どうだったかなぁ。(笑)

役所 僕は本当に、全身ユニクロを着ている日があるんですけどね。柳井さんの前に行く時だけ着ていくのもいやらしいと思ったのかも知れないですね。

「自由」をものにして「いいもの」をつくる

<柳井さんが「PERFECT DAYS」を製作したのは、公共トイレを作ってみてメンテナンスの重要性を知ったのがきっかけだ。清掃する人への感謝をあらわすと同時に、使う人の意識をよき方向に変えたいと願って作った同作は、現在、世界87の国・地域での公開が決定。北米配給は「パラサイト 半地下の家族」も扱ったNEON社だ。米アカデミー賞国際長編映画賞の日本代表作品にも選ばれている。>

柳井 康治
やない・こうじ 1977年、山口県生まれ。ファーストリテイリング取締役。普段はユニクロのグローバルマーケティング・PR担当役員として従事。日本財団と渋谷区が実施した「THE TOKYO TOILET」の発案者。日本財団とともに資金提供した。個人プロジェクトとして、映画「PERFECT DAYS」の企画発案、出資、プロデュースを手がける。

役所 柳井さんからは、映画をつくることに関して「TTTの宣伝ということは考えず、自由につくってみてください」というお話もありました。その時、思いましたね。日本映画の世界にこういう人、プロデューサーがいれば、世界中の人が本当に日本という国を感じてくれる映画が撮れるなあ、と。

映画はやっぱりビジネスで、経済と直結したもの。僕は、そうした商業映画しかやったことがなかったんです。でも今回の監督はヴェンダースさん。そこに「自由につくっていい」という柳井さんがいたから、遠慮なく自由に撮るだろうなあという感じがしました。

柳井 ははははは。単に業界のことを知らなかっただけだと思います。

役所 そうすると、それだけ自由を与えてくれるんだから、その自由をしっかりものにして、何とかいいもの、いい作品にしなければっていう思いが、おのずと高まってきますよね。こういう映画づくりは、本当に初めての経験でした。限られた時間、スケジュールの中ではありましたけども、ヴェンダース監督が、この脚本で、自由に、楽しく撮っている感じがして、「ああ、僕たちがやっていた映画づくりは、こんな楽しいことなんだな」っていうのを、俳優も、スタッフも、現場で改めて教わったような気がしますね。

やっぱり、この自由っていうのは、映画とかこういうものにとって、やっぱり大事なんだなあと思いました。「もっと当てに行かなきゃいけない」とか、「ここでこういう展開があったほうがいいから」とかっていう制約は、それは商業映画では大事なことかもしれない。でも、それを重々分かった上で、これまで見たことのない映画を目指すというのは、本当にぜいたくな経験だなと思いましたね。

フィクションをドキュメンタリーのように

「PERFECT DAYS」から

柳井 「いいものにしなきゃ」という時の「いいもの」は、普段は、ヒットすることとほぼ同義だったりするんだと思うんですけど、今回の「PERFECT DAYS」の場合の「いいもの」っていうのは、役所さんの中で明確なイメージはあったんですか。やっていらっしゃる最中に、今のは「いいもの」が撮れたなという感覚は存在するんですか。

役所 そうですね。僕は、(撮影中、モニターなどで)自分が映ったのを見ませんが、何となく現場で……。「PERFECT DAYS」の撮影現場にいるのは、監督と、フランツ・ラスティグというキャメラマンと、本当に少人数なんですけど、でも、互いにその場でアイデアを出し合って、撮影を楽しむと同時に、しっかり役に立つ素材を撮っている感じがしました。

<撮影は、基本的にテストなし、本番のみ。ドキュメンタリーを撮るように進められた>

役所 台本を読んだ時、本当に美しい文章と物語だと思いました。それをどうやって映画にしてお客さんを引っ張っていくかは、監督自身が、ある意味、脚本を超えたところで見つけているような気がしました。前の晩に考えているのか、現場で生成させているのか……。フランツさんは、ほとんど手持ちキャメラで、直感的に動いている感じはしましたね。だから僕は、自分の動きに合わせてキャメラが動いてくれることを信じてやればいいんだなあと思っていました。

柳井 大変だと思われたことは。

役所 カットとカットの間に休みがないですよね。フランツさんさえ準備できればすぐ本番で次々撮っていく。僕はただ動いていればいいと思っていたけれど、一番大変なのは(キャメラのピントを合わせる)ピントマンですよね。どう動くか分からないもの。でも、本当にライブ感というようなものがありましたね。

毎日のルーティン 浮かんでくる人物像

<主人公・平山は毎日、同じルーティンを繰り返す>

「PERFECT DAYS」から

役所 撮影している時は、この全般のルーティンをどういうふうにして、観客に飽きさせずに見せていくんだろうと思いましたね。でも、出来上がったら、編集のテンポとかでちゃんと引っ張っていってくれる感じになっている。その上で、細かい小道具とか行動とかでじわじわと肉付けされていって、平山という人間が見えてきた感じがしますね。

柳井 「同じこと」を本当に繰り返し、繰り返し、何度も撮るじゃないですか。役所さんご自身は、キャメラの前ではどんな意識で、「同じこと」を繰り返していらっしゃるんですか。

役所 基本的には「同じこと」をやろうと思っていました。ふと目覚めて、布団をかたして、歯を磨いて、ひげを整えて、植木に水をあげてという動作に関しては、それはもう、違わないほうがいいのだろうなと思いました。違うふうに見せるのは、それは編集のほうだろうと思った。目覚め方とか、目覚めて最初に見る景色とかに関しては、監督から指示がありましたから、そのへんのバリエーションはちょっとありましたけど。

余計な色より、心地いいリズムで

「PERFECT DAYS」から

柳井 僕は見ていて、平山さんは、たんすの引き出しを、意外にバーンって閉めるんだな、と。役所さんが、脚本を読んで、平山という人間を緻密につくり上げていく中で、そういう塩梅になっているんだろうなと思いながら、見ていました。

役所 あ、たんす。

柳井 そうやって見ると、たとえば車のドアも強めに閉めるんだな、あのたんすと一緒だなとか。そういった少し粗野な感じがある一方で、すごく丁寧にひげを整えたり、すごくインテリジェンスあふれる本を読んでいたりするな、とか色々と考えちゃいました。

役所 たんすは、1回で閉まらなかったりして(流れが)よどむのは、ちょっと無駄かなと。あまり深く考えてはいなかったけど、たぶん、そんな上等なたんすじゃないので、一気にやらないと1回では閉まらないからバーンといったのかもしれません。でも、着替えたり、服を掛けたり、それは、ある心地いいリズムがあったほうがいいだろうっていうのは、何となく思ってやっているのだと思います。

柳井 一つ一つの動作がシンプルであればあるほど、逆にすごく豊かに表現されていくものがある。そんな感じがしましたね。

役所 そうですね。余計なものがあったり、余計な色が出たりすると、おそらく邪魔になっていくということは、脚本読んでもわかりますしね。

隠し撮りしたものを見ている感じに

「PERFECT DAYS」から

役所 清掃は、僕の師匠になってくれた清掃員の方がやったようにできればいいなあと思いました。その方は、もうよどみなくきまってるんですよね。美しかったんですよ、その作業がね。たとえば、作業に必要なカギをたくさんつけているのだけれど、その中から必要なものをすっと抜いて作業にかかる。僕も、本当に「清掃の仕事をしている人」をヴィム・ヴェンダースが連れてきたかのように見えたいなあと思っていたんですが、そのへん、なかなか難しいんです。

柳井 細かく設定を説明するようなやり方もあると思うんですけれど、この映画の場合、説明をしなければしないほど、逆に、その人が存在しているかのように思えていく。

役所 「この人は何を考えているんだ?」って、なんかこう、隠し撮りをしたものを見ている感じになればいいなあと思うんですよね。これは本当に、どんな映画でもそうなんでしょうけど、なかなかやっぱり、そういうふうな表現にはできない脚本もありますし、難しいところですね。

柳井 作為的じゃなければないほど、自然に見えてよいということでしょうか?

役所 そうだと思います。お客さんによっては、事細かに全部説明してくれるほうがわかりやすくて好き、ということがあるかもしれない。でも、僕なんかは、一観客として見ている時に、そういう(説明的な)「表現」を見せられるよりは、自分で「ああ、この人は今、こういうふうに思ったんじゃないかな」と想像できるほうが、より、その人物に入っていける感じはします。

不思議とうまく回っている東京

東京国際映画祭のレッドカーペットに登場した「PERFECT DAYS」チーム(10月23日)

役所 ヴェンダース監督は、ヨーロッパを含め、日本以外のトイレは劣悪だと言っていましたよね。

柳井 そうですね。

役所 監督は、日本の美しさとか、日本人は野外でパーティーしたときのごみをみんな持ち帰るとかいったことを、映画祭の場でも言ってくれるんですけど、ちょっとそうじゃない日本もあるぞ、という感じもする。でも、なんとなくやっぱり監督にはそういうふうに見えるんでしょうね。

柳井 東京の何が好きなのか、監督に聞いた時に、こうおっしゃっていました。来るたびにビルがいろいろ建っていて、無計画に見えるんだけれど、電車もバスも1分たりとも遅れずぴたっと来る。 つまり、都市設計は計画的にできないふうなのに、でも何か成り立っているというか、別に破綻するわけでもなく回っているところが、やっぱり面白い——と。そういうのが一つ一つ不思議なんだろうなと思いますね。そんな監督が好きな 東京の姿も映画に映っていると思います。

海外にも通じる雄弁な身体表現

<「PERFECT DAYS」の演技で、役所さんは、世界で最も権威のある映画祭であるカンヌの最優秀男優賞に輝いた>

役所 まあ、たぶん、映画祭(コンペ上映作品)で一番出番が多い役者だったから。しゃべっていないけど、ずっと出てる。しゃべらないことがこんなに力を発揮するんですね。

柳井 いやいや、(受賞は当然ですが)役所さんのお芝居だったり、身体表現で雄弁に語っておられるからだと思います。それって、やっぱり、海外でも通じる。少なくとも、役所さんが最初の脚本に感じた「何か美しいもの」が、ものすごく伝わっているんだろうなっていう気がします。でも、それは、設定がいいとか、この話がいいとかは別の部分で、何かがそこで起きていると感じさせる役所さんの表現、お芝居がやっぱりとても大きいんだと思うんです。ご自身で、「そうでしょう、まあ、僕の表現がいいよね」とは言えないと思いますが。(笑)

役所 (北米の配給を担う)NEONの社長が、ニューヨークみたいな大都会の人間に見せたい映画だって言ったのは、よく分かりますね。日の出とともに目を覚まして、夜になったら眠って、という平山の生活は、自然のすぐそばでわずかなもので満足する生活をしている人たちから見れば、そんなに変わった人物だと思わないのかもしれないんですけど、僕たち都会で生きている人間にとっては、監督も言っていましたけれど「平山がうらやましい」っていう瞬間があるのかもしれません。大都会の中にあっても、大自然の中で生きているような優雅さをもって、時間に追われず生活している……。

この映画はサウンドトラックの力もすごいですよね。(平山が愛聴しているという設定の)洋楽がたくさん出てくるじゃないですか。それは、物語を後押ししているのか、それとも、単に音楽があるということなのか。でも、静かなオープニングから、いきなり、あの騒々しい「朝日の当たる家」(アニマルズ)がかかると、何かこう、体の中の血がぱあっと流れるような感じがしますし、「PERFECT DAY」(ルー・リード)の訳詞を見ると、まさにこの映画を象徴しているような気もします。内容的にも。

柳井 「平山さんが聴いていそうな曲のプレイリスト」というのを音楽配信アプリで作り始めている人が自然発生してるそうです。そういうのは、面白くていいなあっていうか、とてもうれしいですよね。思いもよらぬ感想だったり、評価と同様に。

ものをつくっていらっしゃる方が、好意的な評価はもちろん、ネガティブな評価に対しても、「何か言ってくださることに喜びを感じる」といったようなコメントをされているのを以前読んで、「いやいや、褒められるだけのほうがいいだろう」なんて思っていたんです。でも今は確かに、「PERFECT DAYS」のことを、「あまり好きじゃない」「嫌いだ」と言う人がいても、どこでどうしてそう思ったのかということを、すごく聞いてみたい。できるなら、そういう人を好きに変えさせるぐらい、もう、ずっとしゃべり倒したいなと思いますね。

今の日本がちゃんと見える映画を

柳井 話は少し変わってしまうのですが、役所さんは、スポーツがお好きなんですよね。

役所 はい。なんでこんなに見るんだろうと思うくらい。大きな大会があると見てしまって、寝不足で何も手がつかない。年を取って相撲も見るようになりました。

柳井 何かそこに、ご自身の職業と通じるものを見ているんでしょうか。

役所 スポーツは、シナリオのないドラマだと、よく言われますが、確かにそうだと思います。僕たちは普段、物語が決まっているものをやっているだけだけれども、スポーツの世界は、先が全然わからない。見ていて、自分が予想だにしなかったことが起きたりすると、心が動くんですよね、ものすごく。だから、見ちゃうんですよねえ。柳井さんも好きでしょう、スポーツ。

柳井 好きですね。WBCとか見ていても、映画のストーリーにしたら、こんなにうまい話があるかっていうようなことが、現実に起きる。物語を書いたり、作ったりしてる人がこの展開を見たときに、どう思うんだろうなとか、すごく思いました。

役所 そうですよね。台本にしたら、ひどいことになるかもしれない。でもハリウッド映画だったら、そういう台本でもちゃんと見せるんでしょうね。それにはやっぱり、すごい才能も要るだろうし、まあ、お金で解決するものじゃないかもしれないけど、大がかりなハリウッド映画にして見せられると、そんなうまい話はあるかって思うのもなんか、見せられるような感じがしますけどね。なんかね。

柳井 そうですか。

役所 はい。でも、日本映画が目指すべきところは、今の段階では、そっちの方向ではないような気がします。世界の人は、日本の実写映画を見る時に、今の日本を知りたいというか、知りたがっていると思うんです。日本という国のこととか、日本人を紹介するという意味では、映画っていうのは本当にいい外交手段だと思う。その時に、中途半端なハリウッド映画みたいなのを目指すと失敗するような気がしてならない。それだったら、もっと違うところにエネルギーと予算をかけたほうがいいような気はしているんです。「PERFECT DAYS」を、映画監督とか脚本家とかを目指す若者が見た時に、視界を広げてくれるといいなあと思っています。

自分が死んだ後も「面白い」と言われる映画に出てみたい

役所 1回見ればもうOKかなっていう映画もあれば、1回見てもよく分からなかったけれど、10年たってみたらすごく面白かったっていう映画もありますよね。小津(安二郎)さんの映画はまさに後者ですよね。僕なんか、年とってみて、やっと良さが分かってくるような感じがある。

30年後、50年後でも見てもらって、ああ、この映画は面白いなと思われる作品は、日本映画でもそんなに多いわけじゃない。だからやっぱり、なんか、そういう、自分が死んだ後も、面白いって言われるような映画に出てみたいと思っています。

僕、客観的にはなかなか見られないんですけど、「PERFECT DAYS」は、若い人が今見た時と、年を重ねて見た時とでは、違うふうに感じられる映画になってるんじゃないかなと思うんですよね。僕自身、時を経て、老後の楽しみとして冷静にこれを見た時に、また全然違う見方ができるんじゃないかなと思っています。そういう映画は、とても少ないと思うから、本当にいい出会いをさせてもらった作品です。

柳井 ありがとうございます。喜びでしかないです。

取材・構成=読売新聞編集委員 恩田泰子
対談写真=秋元和夫撮影
映画「PERFECT DAYS」場面写真=©2023 MASTER MIND Ltd.

THE TOKYO TOILET(TTT) 世界で活躍するクリエイターが設計・デザインした個性豊かな公共トイレを、柳井康治さんと日本財団が資金提供し、東京・渋谷区内の17か所に設置。従来の公共トイレの「暗い」「汚い」「怖い」といったネガティブなイメージを一掃し、誰もが利用しやすく、日本が誇る「おもてなし」文化の象徴となる施設に生まれ変わらせることをめざした。

PERFECT DAYS(12月22日から全国公開) THE TOKYO TOILETを生んだ柳井康治さんが、クリエイティブディレクターの高崎卓馬さんと企画を始動させた映画。「清掃員を主人公にした物語をつくる」「その主人公は役所広司が演じる」「フィクションの存在をドキュメンタリーのようにとらえる」というアイデアを受け、ヴィム・ヴェンダース監督が参加した。脚本は、高崎さんとヴェンダース監督の共同。第76回カンヌ国際映画祭では、役所さんの最優秀男優賞のほか、エキュメニカル審査員賞も受賞した。

◇「THE TOKYO TOILET」プロジェクトと映画「PERFECT DAYS」をめぐる柳井康治さんの対談「きづきのきづき」。次回のゲストは、ヴィム・ヴェンダース監督です。

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