再生医療、デジタル医療をはじめ、近年はバイオメディカル分野での発展を遂げる台湾の医療・ヘルスケアのトレンドを紹介する「台湾ヘルステックセミナー」(台湾貿易センター=TAITRA)、TMI総合法律事務所共催)が10月8日、東京・六本木森タワーで開かれた。講演では、台湾貿易センターが台湾のビジネス環境の特徴や、日本企業の誘致施策を発表。TMI総合法律事務所は台湾企業との連携に向けた法務ポイントなどを解説した。台湾全島規模の医療機関・台中栄民総医院や、がん治療の新薬開発で注目を集める企業なども参加し、最新の研究開発やビジネス事例を紹介、商談を行った。
骨粗しょう症早期発見とAI皮膚色素異常症検査・評価システム/台中栄民総医院
胸部X線の画像データから、骨粗しょう症を早期発見する画期的なシステムを開発した。新たに開発した分析モデルは 背骨の第12胸椎、第1腰椎の画像から骨密度の数値を推計し、90%近い精度で骨粗しょう症のリスクを判定できる。整形外科部長でスマート医療委員会事務局長の陳昆輝氏は「特別な検査は必要なく、一般的な胸部X線の画像データがあれば判定できます。骨密度検査のあり方を変える画期的な技術です」と胸を張る。
また、色素異常症の新しい評価システムはAIの画像認識技術を用いて色素の面積の推移を数値化する。患者が、家庭でも皮膚の状況を確認でき、治療効果を確かめられるシステムで、顔だけでなく髪で覆われている頭部などにも使うことができる。
光学技術で歯磨き介助・指導のトレーニングシステムを開発/EPED Inc.
光学ステレオポジショニング技術によって、口腔模型内の歯ブラシ、歯間ブラシ、口腔軟組織ブラシの動きを追跡、モニター画面に表示するシステムを開発。介護スタッフが、高齢者の歯磨き介助や歯垢除去をトレーニングできるという。さらに、子どもたちが童話や歌に合わせて正しい歯磨きを学べるシステムや、VRで口腔ケアスキルを習得する没入型システムも開発している。代表取締役の黄大可氏は「高齢者の歯磨きが不十分だと、呼吸器や消化器の疾患につながる。日本の口腔ケアの分野でも活用してほしい」と呼び掛けている。
新型抗がん剤の開発に注力/LaunXP Biomedical Co.,Ltd.
がん治療の新薬開発で世界の注目を集める企業。臨床試験で、トリプルネガティブ乳がんの患者に、標準化学療法(NACT)後に抗がん剤を投与する併用療法を行ったところ、24週間後には腫瘍が識別または検出できないまでに縮小する結果を得たという。同社は8種類の抗がん剤の臨床試験を進めている。代表取締役の陳丘泓氏は「肺がん治療で、分子標的薬の効果が続く期間を延ばせる抗がん剤を開発中です。日本の製薬会社や病院との連携を進めていきたい」と将来を見据える。
医療スタッフの記録・報告作業を削減、ケアの質を向上/Smart Ageing Tech Co., Ltd.
Bluetooth接続のバイタルサイン測定機器から自動でデータを入力し、医療・介護スタッフの作業負担を軽減するサービスを開発。さらに利用者の家族が介護施設の記録をアプリ経由で確認できる。創設者兼CEOの康仕仲氏は「紙での連絡や報告といった業務が減り、患者に接する時間を増やせることでケアの質が向上します。多言語対応なので、外国人スタッフとの円滑なコミュニケーションにも役立ちます」と話す。
3Dで静脈を鮮明に表示、穿刺事故を減らす/ADISON BIOMEDICAL Co., Ltd.
充電式バッテリーを内蔵したポータブルな機器を開発。スキャナの上に腕などを置くと、高解像の3D血管画像が画面上に鮮明に表示される。注射などの針を挿入するプロセスがリアルタイムで表示されることで穿刺成功率が高くなるという。総経理の林世民氏は「注射や採血を巡って、患者からクレームを受けた医療スタッフが離職するといったケースを減らすことができます」と、医療現場で急増している患者や家族からのパワハラ「ペイシェントハラスメント」の防止のメリットも強調する。
AIの「見守り」で転倒防止、高齢者の生活の質を向上/H.P.B. OPTOELECTRONICS Co., Ltd.
高齢者の日々の活動を常に見守るAI医療システムを開発。特に「転倒」の検知は99%と高い精度を誇るという。外観は照明器具だが、全てのセンサーが中に組み込まれており、「起き上がる」「ベッドから離れる」などの行動に合わせて照明の明るさを調節するほか、緊急事態を家族に即時通知する機能もある。総経理アシスタントの許雅棠さんは「多くの国で高齢化が進んでいるのに、子が親の近くで見守りや介護ができる社会にはなっていない。高齢者を見守る役割をAIが代わりに果たせると考えました」と開発の背景を語った。
軽量で操作も簡単、脳卒中患者の日常リハビリ補助具/Yong Tai Global Co., Ltd.
作業療法士や理学療法士などで構成する社内の医療開発チームが、脳卒中患者向けのリハビリ補助具を設計・開発した。軽くて電気が不要なため、自宅でもリハビリができる。手の補助具は特殊な生体力学設計により、自然な動作で物をつかめる。足の補助具は痙縮が強い患者に最適で、足首の内反と外反を最小限に抑える効果があるという。同社の代理店が岩手県にあり、現地の病院でも活用されている。総経理の王承就氏は「『足のリハビリ補助具を装着して日本旅行ができた』など患者の喜びの声がたくさん寄せられています」と紹介した。
スマート医療、再生医療のスタートアップ企業を育成/新竹バイオメディカルパーク・インキュベーションセンター
台湾中部・新竹科学工業園区のICT産業や国立実験動物センター、台湾大学病院新竹分院などのリソースを取りまとめる中核施設。企業へのAI導入を進め、高度医療機器の開発、新薬開発、スマート医療ケア、精密医療、再生医療などの分野で、スタートアップ企業の育成、支援に取り組んでいる。ビジネスディレクターの林仁傑氏は「スタートアップ企業の欧米への進出を支援し、現地企業との連携も生まれています。台湾と日本は最も友好的な関係を持っており、日本企業との連携も進めたい」と話している。
植物化学物質を肺がん治療、皮膚炎などの緩和に活用/フェティアン・モリキュール・アプライド株式会社
台湾に自生するモクレン科の植物の天然抽出物が、非小細胞肺がんの治療やアトピー性皮膚炎の緩和に高い効果があるとの研究成果から、米国や台湾で特許を取得した。また、リツエアクベバ(和名アオモジ)を使用して、痛風性関節炎に効果があるとされるハーブハイドロゲルを開発、今後、本格的な販売を始める。CEOの郭峻生氏は「欧米では化学療法に代わる植物由来の新薬が重要視されている。日本の投資家や製薬会社とタイアップして次世代の抗がん剤開発を目指したい」と意気込む。
また、今回取り上げた9社以外にもペプチド合成装置のCS Bio Taiwanや東洋医学のデジタルプラットフォームfusionSiP technology、介護向けベッドセンサーを手掛けるHumetricsなどが来日している。