サッカーや自転車競技、モータースポーツなど、イタリアには世界的な人気を誇るさまざまなスポーツ競技がある。近年はイノベーションや海外向けのプロモーションの成功によって、ビジネスの側面でも注目を集めている。世界の舞台で躍進するイタリアのスポーツビジネスをめぐって、イタリアの関係省庁とスポーツ振興に取り組む国営企業「スポーツ&ヘルス」(Sport e Salute)が2つのワークショップを開催した。ここではそのレポートを紹介する。
国をあげて「メイド・イン・イタリー」の魅力発信
イタリア外務・国際協力省、イタリア貿易促進機構、スポーツ&ヘルスが2024年6月と9月、「スポーツ界におけるイノベーション」をテーマにしたワークショップをイタリア国内で開催した。閣僚や関連企業のトップ、有識者らが登壇したこのイベントで議論の中心になったのは、イタリアのスポーツエコシステムだ。
イタリアのスポーツエコシステムの市場規模は国内総生産(GDP)の1.4%、約220億ユーロにのぼり、世界的にも注目されている。アントニオ・タイヤーニ副首相兼外務・国際協力大臣は、スポーツエコシステムに関するイタリア政府の戦略をこう説明した。「スポーツ外交はビジネスや観光を促進し、投資を誘致するための外交政策上の優先事項です。スポーツは国際的な名声を高めるショーケースであるだけでなく、経済的、産業的な成長を促す機会であり、ウェルビーイングや平和をもたらす原動力にもなります」。
イタリア政府は、こうした考えのもと、スポーツテック産業で世界を牽引するポジションを確立し、国際市場で「メイド・イン・イタリー」の競争力を高めることを目指している。そのために国内企業の国際化を支援する取り組みを行っている。その特筆すべき例としてはグローバル・スタートアップ・プログラム(Global Start Up Program)や、サンフランシスコを拠点とするイノヴィット・センター(Innovit Center)の活動が挙げられる。
イタリア貿易促進機構のマッテオ・ゾッパス会長は、「スポーツエコシステムの促進は『メイド・イン・イタリー』の発展と密接に関係していなければなりません」と強調する。そのうえで、「ジロ・デ・イタリア(イタリア全土を舞台に毎年行われる自転車ロードレース)のような大きなスポーツイベントでは、商業的な発展と国際化を見据えて、国際的なストラテジックバイヤーやイタリア企業などが“チーム・イタリア”として連携することが増えています。スポーツイベントはイタリアの企業を世界に知らしめ、成長させるためのプラットフォームであり、『メガホン』のような存在となりえます」と語った。
スポーツ&ヘルスのCEO、ディエゴ・ネピ・モリネリス氏は、イノベーションを育むためのチームワークとスキルトレーニングの重要性を指摘し、次のように述べた。「その価値は戦略的かつ社会的なものです。2024年5月から6月にかけて、ローマ市内のフォロ・イタリコ公園でイタリア貿易促進機構とともに開催したスポーツイベントだけでも、同市の経済効果は約1500万ユーロにのぼり、約2.5億ユーロにおよぶ社会的利益がありました」。
研究に注力しイノベーションをもたらす
スポーツエコシステムで重要な役割を果たすのは技術と研究だ。スポーツメディアの専門家で、コンサルタントのカルロ・デ・マルキス氏は、スポーツが国際投資家、特にアメリカの投資家にとって戦略的なアセットにもなっていることを強調した。ヴェローナ大学のフェデリコ・シェーナ教授は学内の研究施設、セリズム(CeRiSM/Centre for Research on Mountain Sports and Health)の活動を例に「科学研究こそが技術革新の原動力」とその重要性を語り、イタリアがモーター・サイエンスの研究で世界第4位の国であることを紹介した。
イタリアのスポーツテック産業は、スタートアップ企業の貢献もあって急成長している。イクセプショナル・ベンチャーズ(Exceptional Ventures)の共同創業者でゼネラル・パートナーのパオロ・ピオ氏は、イタリアがこの分野でほかのヨーロッパ諸国よりも進んでいることを指摘し、「イタリアの若い起業家は非常に有能で、国際的なアプローチとグローバルなビジョンを持っています」と述べた。
ベンチャーキャピタル投資ファンドであるテックショップ(The Techshop)の創業者兼マネージングパートナーのジャンルカ・ダゴスティーノ氏は、投資のシード段階の重要性に触れたうえで、「シード段階に続く投資段階、いわゆる『シリーズA』段階において、特に国際的なベンチャーキャピタルや投資家が、イタリアのソフトウェア大手企業に興味を示しています」と紹介した。
イタリアから世界へ 多くのサクセスストーリー
ワークショップで議論されたもう一つの重要なテーマは国際化だった。スポーツテックス(SportsTechX)の創設者兼マネージング・ディレクターであり、マッチ・ベンチャーズ(Match Ventures)の投資ディレクターでもあるローン・マルホトラ氏は、「爆発的なスピードで成長しているスポーツ業界に特化したファンドが必要」と主張した。一方、ブロックスポルト(BlockSport)のCOO、サミール・セリック氏は「ブロックチェーンの技術はスポーツの発展を推し進める大きな力になります」と語った。
アイエヌスリー・ベンチャーズ(iN3 Ventures)の共同創業者兼パートナーであるジャコモ・モッロ氏は、イノベーションと起業家精神を前向きにつなげていくことの重要性を強調した。サッカーリーグ、セリエAのナポリ、ユベントス、ミランの元監督であるマルコ・ファッソーネ氏は、イタリアはその都市の魅力のおかげで、特にサッカーにおいて「投資の磁石」であると語った。
イタリアのアセットは、その客観的な価値と可能性に比例して、他国よりも「かなり安価」である。マイ・グローバル・ヴィレッジ(My Global Village)の創設者でゼネラル・コーディネーターのマルク・リオネル・ガット氏は、起業家や公的機関、流通業者を巻き込んだ、コレクティブ・インテリジェンス(集団的知性)によって、スタートアップ企業の世界進出を効果的に支援するアプローチを紹介した。これは航空業界で用いられているのと同様の手法だ。
イタリアのスポーツ界は、常に国際的なサクセスストーリーを生み出してきた。テクニカ・グループ(Tecnica Group)のアルベルト・ザナッタ会長は、職人的な小さな靴メーカーだった同社が、いかにしてスポーツ分野の国際的なリーダーになったか、売上高5億5000万ユーロ、そのうち海外での売上が93%を占める大企業になったかを語った。アリーナ・イタリア(Arena Italia)のスポーツ・マーケティング・マネージャーであるルカ・モローニ氏は、競泳界を牽引するこのブランドが、技術革新とスポンサーシップに投資することで、いかにして国際的な地位を確立したかを述べた。キューラッシュ(Qlash)のCEO兼共同創業者のルカ・パガーノ氏は、同社がいかにしてeスポーツ分野を制覇し、主要なサッカークラブとパートナーシップを結んで、海外からの投資を誘致してきたかを説明した。
イタリアスポーツ界のタレントが出演するテレビシリーズに注目
テレビシリーズ「Made in Italy We Are」では、マルセル・ジェイコブス氏、フランチェスコ・バニャイア氏、ダニーロ・ガリナリ氏、ジャンルイジ・ブッフォン氏、サラ・ガマ氏、グレゴリオ・パルトリニエリ氏ら11人のイタリアスポーツ界のタレントが出演し、世界における「メイド・イン・イタリー」の成功要因を語っている。同シリーズは、「Mediaset International - Italian TV in the World」および「Sport and Innovation Made in Italy」から視聴できる。
イタリアのスポーツビジネス、5つのポイント
1. 専用ファンド
スポーツ・テック分野への重点投資。過去5年間で、世界のスポーツテック・スタートアップや企業に約1000億ドルが投資された。
2. デジタルインフラと専門化
高度なデータ収集・分析システムの開発、管理職の訓練と専門化。
3. スタートアップと大企業のコラボレーション
イノベーションを促進するための相乗効果を創出。リスク、野心、革新的精神に対する意欲の向上。
4. 脱官僚主義
スポーツインフラを皮切りに、官僚主義の弊害を取り払い、投資を促進。
5. 国際化に有利なエコシステム
イタリアの新興企業がグローバル市場で活躍できる機会を創出する。