武庫川女子大学
武庫川女子大学 環境共生学部 開設記念シンポジウム
地球がよろこぶ明日をつくる ―“環境共生”という約束―
武庫川女子大学に2025年4月、女子大学としては初の「環境共生部」が新設されることを記念し、シンポジウム「地球がよろこぶ明日をつくる―“環境共生”という約束―」が7月21日、兵庫県西宮市の武庫川女子大学公江記念講堂で開催されました。テレビ番組の企画を通じて自然との触れ合いや手作りの感動を伝えてきた人気グループ「TOKIO」の国分太一さんらが、フィールドワークを軸に自ら問いを立てる学びの面白さや新学部の魅力について語り合いました。
●主催╱武庫川女子大学 ●共催╱読売新聞大阪本社
第1部 特別講演
体当たりフィールドワークで気づいたこと
講 師 国分 太一 氏 (株式会社TOKIO副社長)
聞き手 八木 早希 氏 (フリーアナウンサー)
将来を模索していた10代の頃、どんなことを考えていましたか。
国分 姉が履歴書を送ったことから、13歳で芸能界入りしました。正直、自分で選んだ道ではなかったので、20歳でデビューするまでの間、やめたいと思うことも何度かありました。でも、体を動かすことが好きだったので、どうすればダンスがうまく踊れるようになるか工夫を重ねるうち、自分なりの楽しさを見つけられるようになりました。人間も野菜と同じで根っこが大事。土の中でしっかり張り巡らせておきさえすれば、何があっても倒れない。人生は長いものです。10代の頃はいつ開花してもいいよう、焦らずに準備さえしておけばいいと、今では感じています。
人気長寿番組「ザ!鉄腕!DASH!!」で20代から農業に挑戦してきましたが、いつごろから楽しいと思えるようになりましたか。
国分 実は、この時も最初は全然やりたくなかった。 ただ、現場で出会った地元のじいちゃん、ばあちゃんの人間力がとにかくすごくて。 なんて格好いいんだと圧倒され、こんなふうになりたいって憧れるうち、いつしかはまっていました。 自然相手なので生育環境も毎年変わります。 次々と出てくる課題を一つひとつクリアしていくなかで、こんなに奥深くて、楽しいことはないと思えるようになりました。 10年ぐらいはかかったかな。 いまはインターネットで検索したら、簡単に答えが出る時代ですが、答えに向かう過程で何を体験できるかが一番大切なんじゃないでしょうか。 失敗を恐れずに進むことは人間力の底上げにもつながっていくと思います。
これから未来を切り開いていく若い人たちへのメッセージをお願いします。
国分 最初は、何をやりたいか分からなくてもいい。 まずはいろいろなフィールドに飛び込んでいって、自分なりのアンテナをいっぱい立ててみてください。 そうすれば、そのアンテナにひっかかって、夢中になれるものが現れるかもしれない。 僕の場合、芸能界入りにしても、番組の企画を通じたフィールドワークにしても、姉やスタッフが引いてくれたレールに乗っかってみて、体験できたことを自分なりの楽しみに変換するうち、今度は自分でレールを引くことができるようになっていきました。 最初から地球環境のためと考えると何もできなくなってしまうので、興味が湧いたものから地球にとって優しいことを自分なりに考えてみる。 そうした一人ひとりの行動が積み重なって、大きな輪になっていくと思います。
第2部 パネルディスカッション
環境と共生 ~人は地球のために何ができるのか~
● パネリスト
国分 太一 氏(株式会社TOKIO副社長)
青野 光子 氏(国立環境研究所 生物多様性領域副領域長、武庫川女子大学環境共生学部長 就任予定)
來海 徹太郎 氏(武庫川女子大学 環境共生学部環境共生学科長 就任予定)
辰野 勇 氏 (株式会社モンベル 代表取締役会長 兼CEO)
● コーディネーター
八木 早希 氏
フィールドワークで知る「冒険・発見、学びの魅力」
八木 環境共生学部の特色を教えてください。
來海 水や空気、生態の保護を考える「環境保全系」、里山環境などへの学びを深める「環境共生系」、地球資源利用の持続的な形を調べる「環境資源応用系」という三つの大きな学びを設けています。 最大の特色は全学生が学外に飛び出し、フィールド・環境施設実習で課題を発見し、みんなで議論してプロジェクトにまで高め、解決に取り組んでいくことです。 そのなかで専門科目を履修して知識を、実験科目を通してスキルを習得していく。 こうした循環を繰り返すことで育まれた総合力が卒業研究に生かされます。 卒業後は、技術者として、また中学、高校の理科の先生、企業の環境セクションなどで活躍できる人材として羽ばたいていってくれることを期待しています。
国分 企業でもこれからさらに地球環境のことを考えるセクションができ、より良くするための共創パートナーも生まれていくと思います。 一人だけのアイデアじゃなく、いろいろなところでみんなが考えていく。 卒業生たちが社会に出て、様々な分野で役に立っている姿を早く見てみたいですね。
辰野 フィールドワークにも関係しますが、アウトドアを通じて環境保全意識の醸成や生き抜く力、災害時の対応力などのリテラシーを発揮できるように150か所以上の自治体や大学、企業との連携を進めています。 社会に出て仕事を始めたら、環境のことばかり考えていられません。 まずは、自分が何をしたいか見つけてほしい。 自分の行く道がわかれば、仕事や社会活動に環境共生学部での学びがどう影響するか逆説的に考えることもできます。
來海 フィールドワークはグループ中心のプロジェクトにしたいと思っています。 壁にぶち当たったとき、相談に乗ってくれるような企業の存在はすごく大切。 学生たちが自ら成長し、気付きを得ていくことが何より重要なポイントになります。 自分たちで壁を乗り越える力を身に付ければ、違う世界に進んだときでも同じように成功体験につなげてくれると期待しています。
自然・地球環境の「いま」 期待される研究分野
八木 期待される研究はどういった分野でしょうか。
來海 専門分野を持った16人の先生で学部を構成する予定です。環境保全系では「野生生物管理学」という科目を準備しています。 兵庫県ではイノシシやシカ、全国的にはクマの獣害の問題がありますが、里山の整備とあわせて解決の糸口があるのではないかというところを学んでもらいたい。
青野 私はいま、ストレスに耐える葉っぱの仕組みについて研究しています。 植物にとって高温や強い光、乾燥などはストレス要因になりますが、オゾンもその一つに挙げられます。 オゾンを浴びると、活性酸素が発生して細胞が壊死(えし)するなどの被害が生じます。研究の結果、植物にオゾン耐性をもたらすフィトシアニンというタンパク質を見つけ出し、それを増やすことで活性酸素の発生を抑える仕組みを突き止めました。
国分 野生動物と人間の共存が言われるなか、昔から里山が山と街を隔てる境界線になってきました。 ところが、林業に携わる人たちが減って里山という場所が曖昧になり、森が痩せて餌がなくなったことで、街に下りる動物が増えたといいます。 科目ができることで学びが深まり、学生たちが広く発信していくことで、こうした現状が多くの人に分かってもらえるようになるといいですね。
來海 また、環境資源応用系では「環境レメディエーション学」という研究もあります。 プラスチックなどの汚染物質を生物の力で分解して自然に戻す技術で、未知の生物についての話も面白いですよ。
青野 ほかにも、ユーグレナやミドリムシのような微細藻類を使って食品に着色したり、バイオ燃料としてオイルを産生するなど、藻類の様々な可能性を追求する研究にもぜひ注目してください。
環境共生学部が育む人と未来
八木 どんな学生に入学してもらいたいですか。
來海 私たちが求めたいのは、手で触れ、匂いを嗅いで、光を感じ、現場で得た感覚を大学や家に持ち帰り、話をしながら考えをまとめ、学びを深めていってほしいというところです。 こうした体験に挑戦してもらえる学生さんに集まってきてもらいたい。
国分 一人ひとりが実体験のなかから正解と思えたことを発信していけば、世の中の選択肢がどんどん増えていく。 新しい学部なので、誰にとっても未知の世界だと思います。 自分たちで学部をつくりあげていく気持ちでスタートを切ってほしい。
辰野 何事にも好奇心を持てる人は、企業にとっても魅力的です。 大学入学がゴールで、その先が見えないというのでは寂しい。どんなことでもいいので興味のあることを見つけ、愚直に追いかけていく。一つの山を越えるたび、見たことのない景色が広がっているはずです。 誰かがつくった問題を一生懸命考えて高得点を取る学びではなく、自分がいまやっていることを答えにし、何もないところから新しいものをつくる力を大学で磨いてほしい。
青野 感受性の豊かな方に来ていただきたいですね。 美しい森林を見たり、清々しい空気を吸ったりしたときに、素晴らしいな、気持ちがいいなと素直に思える。 そして、感じたことを言語化し、要素を分析していくことが環境科学の一つだと思います。 環境は一度なくせば、取り戻すことができない、かけがえのないものです。 科学がいかに発達しても、葉っぱ一枚、細胞一つ作り出すことはできません。 生命に対する畏怖を感じながら学んでいくことが必要だと思います。